【キャラクター短編 化野學SS】

星の智慧派の暗躍

<三人称全知視点>


 化野學は神界の神によれば、遠い混沌とした異世界で外宇宙からの侵略者達によって殺害された別世界の混沌の神の化身――這い寄る混沌の前世を持つ転生者であるらしい。


 転生者というものは神界の神の見解によれば大きく二つに大別できるらしく、一方は前世の記憶を有し、地続きで性質が前世とほとんど変わらない者、もう一方は前世の記憶を継承せず、その面影はほとんどないものの、なんらかの共通点を持つ者に区分される。


 瀬島奈留美、アクア、ディランといった転生者はこの前者の記憶持ち転生者ということになる。

 一方、百合薗圓、化野學といった面々は前世の記憶を持たない転生者であり、記憶持ち転生者である者達に比べれば前世の面影がほとんど見つけられないものの、よくよく比較してみれば共通点を見つけられる。


 この記憶を保有しない転生者というのは極めて定義が難しく、魂にある因縁ある者同士が引き合う性質と絡めて論じようとする本好きを拗らせた変態などの学者達もいるが、どれも決定打を欠き、最終的な結論には至っていない。


 この記憶を保有しない転生者を転生者と位置付ける難しさは、前世の性質が全く表層に現れない可能性を秘めていることにある。

 例えば、百合薗圓と彼の前世である聖騎士クリストフォロス=ゲオルギウスを比較する場合、その一致する特徴は残酷性の他には存在しない。クリストフォロスの場合は魔女狩りという任務を着実に実行しようとする意思、百合薗圓の場合は家族を害する者に対する残酷なまでの無情さと形は違うものの、その性質は極めて近似である。この残酷性は後にラピスラズリ公爵へと受け継がれ、ラピスラズリ公爵の転生により大倭秋津洲へと回帰するというある種の円環構造を形成することになる。


 圓の保有する形質が残酷性であるならば、化野の保有する形質は混沌であった。

 といっても、幼少の頃より混沌を振り撒こうとする邪悪な存在だったという訳ではない。


 世間には理由がないにも拘らず、邪悪な性質を持つ生まれながらの邪悪というものも存在しているが、化野は彼らとは違った。

 瀬島奈留美の前世と同じ、なるべくしてなった邪悪である。


 化野は父と母と共に暮らすどこにでもいる普通の少年であった。

 ただ、人よりも不幸せなことがあったとすれば、母が難病を抱えていたことであろう。

 難病を抱えた母と、母に付きっきりの父という家庭環境のため、我儘を言えずに育った化野だが、意外なことに彼は曲がらずに育った。


 「母親の難病を治すために医者になる!」という夢を持ち、誰よりも真面目に勉強に取り組んだ。当然、化野はクラスで最も成績が良かった。

 彼の夢は、大好きな家族と三人で普通の生活が送ること――そのために医者となり、母の病を治すことが彼の人生の課題であったと言える。


 しかし、世界は残酷だ。母親を病院に通院させるために家を出た父親は母親と共に命を落とした。

 しかも、その内容は高齢者ドライバーの運転する車に跳ねられたというもの。その高齢者ドライバーは全くの無傷で剰え、車の整備不良を理由に無実を訴える厚顔無恥。


 元政治家だったその高齢者ドライバーは政治家の息子の力で警察に圧力をかけ、事件そのものを揉み消した。

 しかし、大々的な事件となってしまったこの事件を火消しすることは政治家の力を持ってしても難しく、連日マスコミは両親を失い、親戚筋の家に預けられた化野にインタビューを行おうとした。

 まだ、心の傷が癒やされるどころか心の整理すら全くできていない化野に対してである。当然、その内容の多くは無神経な、遺族の気持ちを考えないものであった。マスゴミの面目躍如である。


 このインタビューが化野側に偏った理由は政治家の圧力により政治家側へのインタビューが敢行できなかったからであった。

 こうして、連日化野の元にマスコミが押しかけたことで、親戚筋の家も化野を疎ましがり、ついには家から出て行くように懇願するまでになる。


 天涯孤独になった化野學――親戚筋の家を出た彼が見たものは、何事も無かったようにテレビに映る父と母を殺した政治家、全く事件を報道しなくなったマスコミ、そして幸せに暮らす人々。

 その全ての人間が平和にいつもと変わらない生活を送っている姿を見た時、化野學を辛うじて止めていた理性の鎖の最後の一本が崩壊した。


「そうか、全て壊してしまえばいい。世界は混沌に帰すべきだッ! もっと絶望を振り撒こう、僕だけが不幸なこんな世界はあってはならないのだからッ!」


 それは、大倭秋津洲帝国連邦に這い寄る混沌が再誕した瞬間だった。

 悲しみと絶望に彩られた産声を上げ、混沌の神の化身はこの世の全てを混沌へと回帰せしむるために行動を開始する。



 ……と言いつつ、化野學はそれから表向き、大きな行動を起こさなかった。

 その後、様々な努力を経て医療系の最高学府で学び、博士号を取るにまで至った。


 一方、水面下では様々な薬物や劇薬などの開発に勤しみ、数年後には核にすら手を出すようになった。

 様々な薬物を取り込むことで圧倒的な薬物耐性を獲得し、危険な実験を繰り返すことで放射線耐性を獲得したのもこの頃である。


 それまで様々準備してきた化野は遂に行動を起こす。

 それが、星の智慧派としての暗躍である。


 代表的なものを挙げれば、信仰宗教による地下鉄で毒ガスが撒かれた事件への協力ということになるが、彼の関わった事件は両手でも数えられないほど存在する。その巧妙な手口――決して姿を見せずにダークウェブ内のみで取引を行うというやり口から警察も逮捕することはできず、次々と事件が巻き起こされている。

 例え、事件の実行犯を捕らえても星の智慧派という死の商人には到達し得ない。


 この無軌道な殺戮行為を続ける化野を、瀬島一派所属の捜査一課九係係長の石取寿一も流石に無視できず化野の逮捕のために閃探を派遣したこともあるが、閃に匹敵する推理力を持つ化野學は悉く閃の推理を掻い潜り、警察の総力を持ってしても化野逮捕と事件解決には漕ぎ着けなかった。



 この死の商人――星の知恵派に関わる一連の未解決事件に対し、危機感を持っていたのは石取だけではない。

 警察に僅かに残った旧松蔭寺派の警察官達と交流を持っていた元夏樹子爵家の執事、石澤忠教は圓の元を訪れていた。


「…………へぇ、あの一連の事件にはそんな繋がりがねぇ。確かに、毒ガスを使っていたってことについては共通点があったけど、でも、種類もサリンからルイサイトまで色々使っているみたいだし、同一の犯行だと特定は難しいんじゃない?」


「はい、ですから警察が逮捕した実行犯伝いに集めた証拠を繋ぎ集め、ようやく特定に漕ぎ着けました」


「なるほどねぇ。でも、この国の警察は優秀なんじゃないの? その警察が逮捕できない相手なんてボクにどうしようもできないと思わない?」


「流石は圓様、言葉に皮肉という名の猛毒がたっぷりと染み込んでおりますね。……圓様、実際のところ星の知恵派と名乗るこの死の商人を捕らえることは可能なのでしょうか?」


「うーん、そうだねぇ……とりあえず、一旦場所を移動しようか?」


 圓は柳に何かを伝えると、圓は香澄の部屋に赴き、香澄に声をかけると、石澤と香澄の二人を連れて百合薗邸を出発する。

 やってきたのは、尾張国内にある圓の保有する屋敷の一つ――圓は事情を知らない香澄とさっぱり意図が分からない石澤と共に部屋に入ると、応接間で紅茶を淹れた。


「圓様、一体何をなさるつもりなのですか?」


「そもそも、私は事情すら聞かされていないのですが」


「……事情聞いたら逃げ出すでしょう? まあ、割と今回は危険だからねぇ。少しでも身の危険を感じたら香澄さんは逃げてねぇ」


「……どういうことですか? 一体圓さんは何をするつもり……」


「石澤さん、ダークウェブのURLはあるんだよねぇ?」


「はい、確かに星の知恵派に依頼するURLはありますが……どうなさるのですか?」


「依頼するんだよ? 毒殺して欲しい人がいるって」


「……あの、まさか……ダメですよ! おやめください!!」


「香澄様、一体圓様は何を……まさか、そのような恐ろしいことを」


「ごめん、もう依頼しちゃった」


 サイトには「承りました」の文字が表示されている。

 その毒殺の対象は百合薗圓――つまり、囮捜査である。


「相手は相当なネットの手練れだからねぇ。だから、百合薗邸じゃなくてここに移動したって訳。きっとTORでも位置情報を特定してくるだろうし、だからここで待ち伏せするのが分かりやすい。探したって無駄なんだから、敵さんにこっちに来て貰えばいいんだよ」


 「それじゃあ、石澤さんはどうぞご帰宅ください」と石澤を追い出した圓は、それから香澄と二人での生活を開始する。

 化野の使う毒ガスの対策として、瀬島新代魔法が必要だと考えた上での人選だということは香澄も分かっていたが……あまりにも無謀過ぎる。


「しかし、本当に来るのでしょうか? 来たとして、捕らえることはできるのでしょうか?」


「さぁねぇ? しかし、なんで毒ガスなんかを売り捌くような商売をしているんだろうねぇ、星の知恵派。気にならない?」


「さぁ、案外理由なんてないかもしれませんよ。ただ、世の中に不幸を撒き散らしたいと思っているタチの悪い人間かもしれませんし」


 瀬島奈留美という生まれながらの邪悪を知る香澄の辛辣な言葉に、圓は何とも言えない表情になった。



「……ほう、依頼者の名前は匿名ですが、位置情報は丸わかりですね。暗殺対象は百合薗圓、そして、暗殺対象の居場所は依頼者の座標と重なる……つまり罠ですか。いいでしょう、私を捕まえようなどという愚かなことを考える者はこの私が手ずから殺して差し上げます! 私は世の中に絶望をもたらす這い寄る混沌――真の絶望を知らない平和ボケした愚か者達に最高の不幸を届ける者です。まずは手始めに貴女から殺してあげましょう、百合薗圓!」


 パソコンの青い光に照らされた化野は眼鏡を光らせて舌舐めずりをした。



 月紫が柳の静止を振り切って無謀なことをしようとしている圓の元に駆けつけようとする中、化野は依頼で座標に足を運んでいた。

 様々な毒物の中から今回はシアン化塩素と呼ばれる血液剤――最初から容赦なく即死を狙っていくところは流石である。


 忍び込んだ化野はシアン化塩素を撒いた……が。


「やあ、君が星の知恵派か」


 少女は薬物の撒き散らせた部屋でガスマスク一つ付けずに化野に語りかけた。

 瀬島新代魔法で香澄が気流コントロールをすることで圓は致死レベルの毒ガスの猛威を回避したのである。その香澄は化野から見えないように姿を隠して、あくまで部屋にいるのは圓一人という状況に見せかけている。


「やはり、罠だったようですね……殺すつもりでシアン化塩素を撒いたのですが、死ななくて残念です」


「で、どうする? 折角暗殺しようとした相手が無傷なんて、死の商人としては許せないよねぇ?」


「えぇ、クライアントのご依頼通り、必ず百合薗圓を殺します。この世に混沌をもたらすのが私の使命ですから」


「怖いねぇ……まあ、期間が決められていない訳だし、また殺しに来ればいいんじゃないか? でも、名前も知らない奴に殺されるのは嫌だからねぇ?」


「……化野學です。貴女は、それが本名ですか?」


「うん、ボクは百合薗圓。ちなみ、女じゃなくて男の娘だからねぇ」


 化野が去ったことを確認した圓は香澄に出てくるように促した。


「……圓様、いつまでこんなこと続けるのですか? あのマッドサイエンティスト、またやってきますよ。圓様を殺すために」


「まあ、今後の身の振り方についてはこれから考えさせてもらうことになるからねぇ。……とりあえず、化野學という人物について調べてみる。話はそれからだ」


 化野學に関する情報は簡単に見つかった。過去のニュースサイトの記事を読めばすぐに彼の境遇を知ることができたのだ。

 香澄も圓から話を聞いて、彼が歪んでしまった理由を理解する。


「……圓様、どうなさるおつもりですか? 圓様はあの方を助けたいと思っているのですよね?」


「ボクってそんな聖人君子じゃないんだけどねぇ? ……まあ、どうするかはボクが決めることじゃない。とりあえず……三顧の礼、かな?」


 ニヤリと笑う圓に対し、圓の考えが全く読めない香澄は「『三国志』? でも、諸葛亮を仲間にするのとは勝手が違うし、圓様の方が孔明の立ち位置に近いんだけど……どういうことなんだろう?」と混乱していた。



 二度目はマスタードガス、三度目はサリンを撒き散らした化野だが、圓を殺すには至らない。


「満足した?」


「……どういうことですか、何故、毒ガスが効かない!?」


「さあ、なんでだろうねぇ? ……で、いつまで続けるの?」


「百合薗圓、貴女を殺すまでです!」


「ボクは正直そろそろ面倒くさくなってきたんだよねぇ。もういい加減、負けを認めて欲しいんだけど。……化野學、元々の家族構成は父と難病を抱えた母と一人息子の自分というもの。幼少の頃に高齢者ドライバーによって通院中の母と付き添いの父が殺され、そのドライバーは無罪放免、親戚からも見捨てられて天涯孤独。そりゃ、幸せそうな人が溢れている世界を見て全てを混沌に陥れたいと思うのも当然だよねぇ」


「……何故、それを。まさか、私に名乗らせたのは、そういう意図……」


「へぇ、流石に頭の回転が早いねぇ。欲しくなっちゃうよ。……化野さん、それで沢山人を殺して満たされた? 別に化野さんの気持ちを全否定するつもりはないよ? それだけ理不尽な目に遭わされたなら、恨むのは当然だよねぇ?」


「…………何も知らない貴方が知ったような口を聞くなッ! ゴキブリ並みの生命力で大量増殖する、環境を破壊する愚かなる生き物を殺している私は褒められることこそあれど、否定される理由はない筈です! 私は世界を掃除している、この汚い世界を。――愚かな人間は皆死ねばいい、それは貴方もだ。私は愚かな人間同士が殺し合うのを高みの見物するのが最高の楽しみなのですよ! あはははッ!」


 その化野の高笑いに、圓が憐憫の視線を向ける。

 化野の瞳の奥底に暗い世界にたった一人取り残された少年の姿を見つけ、胸が締め付けられる思いがした。


「ボクは否定をするつもりはないよ。……化野さん、ボクは君のことを忘れない。君がどれほどの絶望に置かれたか、どんな気持ちだったかは分からないけど、世間の人々ように君とその家族のことを忘れたりはしない。だから、いっぱい教えてくれないかな? 君の大切な家族のこと。……ボクに居場所は作れないかもしれない。君の家族の代わりに、なんて烏滸がましいことは言わない。……側にいさせて欲しい。……ところで、うちには科学者はいなくてねぇ。機械に強い人も、医療に秀でた人もいないんだ。ボクのところで雇われるつもりはないかな? 勿論、平和主義者になれなんてことは言わない。ボク自身が平和主義者じゃないからねぇ。やっていることはアウトだけど、それを差し引いても君は有用な人材だからねぇ。今後、罪のない人々を傷つけるような犯罪行為をしないのであればうちで働かないかい?」


「罪のない人々ですか?」


「無知という名の罪を重ねる一般人達に対する怒りを持っているのは承知の上だよ。でも、彼らだって全てが悪って訳じゃない。案外共同幻想として見るんじゃなくて、一般人を一人一人として見れば悪い人ばかりじゃないことが分かると思うよ? ボクは沢山の人と出会って、繋がってそう思ったんだ」


 「ボクは一般人達を一人一人見るように、君のことも色眼鏡をつけて見るつもりはないよ?」と優しく笑う圓に、化野も頬が緩みそうになり……無理矢理取り繕った。


 化野が殺人そのものを握り潰した政治家、そんな政治家に忖度する正義を謳う警察、無知という名の罪を重ねる一般人達に対する怒り……そして、何より化野が家族を救うことができなかった無力な自分そのものに憤りを抱いていることを圓は見抜いていた。


 これまでやってきたことは許されるものではないし、許されるつもりも毛頭ない。

 星の知恵派である化野學をこの男の娘が受け入れてくれるのなら……それもいいかもしれない、


「答えは決まった?」


「私は貴方と一緒に歩いていくのも悪くないと思います」


「捻くれているねぇ。そういうの、ボクは嫌いじゃない。……よろしくねぇ、化野さん」


 その後、化野は圓と共に百合薗邸に戻り、月紫達の反対を押し切って仲間に加える。

 それから、化野が仲間として認められるまでには時間を要した。しかし、圓が化野を心から信頼していると分かると、次第に認められるようになり、遂に科学統括に任命されるまでになる。


 圓は警察機関との司法取引のついでに死刑囚を人体実験に使わせてもらうための取り決めをし、難病に効き目のある薬を製作し販売した利益の一部を警察機関に流すという密約を結ぶことで安心安全? な(倫理的にはそれでもアウトだが)、研究環境整えることに成功した。

 化野も警察から追われる必要がなくなり、百合薗邸で様々な実験を行う日々を過ごすようになった。


 『動物について実験をする場合は、いかに動物にとって苦痛であり、また危険であろうと、人間にとって有益である限り、あくまで道徳にかなっているのである』というクロード・ベルナールの主張に真っ向から対立しており、「人間の害にのみなる実験を動物にしていい通りがない。どうせゴキブリ並みの生命力で大量増殖する上に、最終的には人間で臨床試験するのだから最初から人間で実験すればいい」と反論するマッドサイエンティストは、主に寝取られた婚約者と寝取り男を実験体にして様々な不治の病だった病の治療薬の開発に成功する。


 一方、ハイパー・トリプルコンピュータ「百合」や「E.DEVISE」の開発など、百合薗グループの技術面を支え、百合薗グループにとっていなくてはならない存在となっていく。



<三人称全知視点>


「……そうですか、圓様が。ご連絡ありがとうございます、ホワリエルさん、ヴィーネットさん」


 門無平和と名乗っている化野學は、ホワリエルとヴィーネットの報告を意外にもあっさりと受け取ると、すぐに資料に目を落とした。

 ホワリエルとヴィーネットは決して圓の死に興味がないのではなく、既にホワリエル達と同じく前に進むつもりでいるのだと気づき、安心して大倭秋津洲に戻った。


「アレン君、地図を持ってきてくれないか?」


「畏まりました」


 既にシャマシュ教国にある化野専用の研究室の職員はメイドも含めて完全に掌握している。

 恐怖か好奇心か、化野に対する片思いなのかはそれぞれ異なるが、ここに化野を裏切る者はいない。


「なるほど……まあ、可能性があるとすればこの辺りでしょうか?」


 化野は改めて地図を確認すると、一つの結論に達した。

 それから二週間後、月紫が化野の元を訪ねてくる。


「やはり、こちらにいらしておりましたか。月紫忍統括殿」


「久しぶりね、化野科学統括さん。……圓様の件は聞いているわよね? どこにいるのか、I.Q230の天才である貴方なら予想外ついているんじゃないかと思ったのだけど」


「えぇ、ホワリエルとヴィーネットとから話を聞いてからいくつかの可能性を検討しました。ルヴェリオスのイリーナの可能性も高そうに思えますが……一番可能性が高いのはブライトネスのローザでしょう」


「あの『スターチス・レコード』の悪役令嬢の? どうして、そう思うの?」


「悪役令嬢に転生した主人公が破滅フラグを叩き折ってというのは今や定番のようですからね。圓様も実際、そういった作品をお書きになりますし、一番生存の可能性が高そうなローザに転生させる可能性は高いと思います」


「……そういうものなのね。分かったわ、まずはブライトネス王国に行ってみようと思う」


「この国は現在鎖国体制で情報はほとんど入って来ませんので、まずはシャマシュ教国とブライトネス教国の両国での活動経験のある冒険者から情報収集……って、もう居ませんね。相変わらず、圓様のことが大好きな方ですね、あの方は」


 化野は月紫が消えていった方を微笑ましそうに眺めると、再び資料に目を落とした。

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