百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.7-56 帝国崩壊後の戦後処理〜ルヴェリオスの黎明〜 scene.2
Act.7-56 帝国崩壊後の戦後処理〜ルヴェリオスの黎明〜 scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>
ネーラの治療では、「記憶取り出し魔法」を応用した儀式と呪文によって刷り込まれた暗示そのものを固体化――飴玉として取り出すといった内容になる。
結果は大成功。ネーラの暗示は取り出され、一つの飴玉を形作った。この飴玉を粉々に砕くことで、治療は完了となる。
「さて、治療は終わったねぇ。このまま次に移らせてもらう。……ところで、この眠りの解除方法って君が使った薬以外にも普通にあったんだけどねぇ。ほら、眠り姫は王子様の接吻で目を覚ますじゃん。樒にはそれとなく伝えるように言っておいたんだけどなぁ、おっかしいなぁ〜」
「んなこと分かる訳ないだろ!」
「で、どうするの? 王子様? ってか、どうするの? 薬で眠りを消せばいいの?」
「…………流石にダメだろ! ……もう一本、神聖薬を使ってくれ」
「意気地なし……仕方ないねぇ。そんなんでお姫様を説得できるのか甚だ疑問だけど。……これ、かなり高級で普通はポンポン使えるものじゃないんだどねぇ。
作り出した神聖薬を飲ませる。すぐに効き目が出てネーラは目を覚ました。
「…………あれ、ここは?」
「ネーラ、目を覚ましたか!」
「……ヴァルナー? ……ここはどこ、戦いはどうなったの!」
「戦いは終わったよ、帝国は負けた。だから、ネーラ。もう帝国のために人を殺さなくていいんだ」
「そんなのダメだよ……沢山の人達が死んだ、私はその人の分まで戦わないと。……「
「……ネーラ、一度だけしか言わねぇからよく聞いてくれ。……俺はお前のことが好きだ、いつからかは分からないけど、気づいたらお前のことが好きになっていた。仲間としてじゃなくて、ネーラ、お前のことが好きなんだ。……「
「トドメを刺すようで悪いけど、帝国はもうない。皇帝は死に、シャドウウォーカーが勝利した。この状況で戦ったところで無駄になる。……折角ここまで慕ってくれる奴がいるんだ。少しは考え直してみたらどうかな? そして、彼の気持ちに答えを出してあげてほしい。……帝国はきっと変わる。圧政の犠牲者達を二度と出さないために、シャドウウォーカーと革命軍の残党、帝国の残党が中心となって新しい国が誕生する。……ボクの希望は君達にその新しい国を支える存在になって欲しいというものだけど、今回の件でうんざりなら、国の中枢と距離を置くというのも手だろう。帝国の残党として戦うか、新たな国を支えるか、国の中枢から距離を置くか、決めるのは君達だ。呪縛は既に解き放たれている。もう、帝国に縛られる必要はない……それだけは忘れないで欲しい」
「…………私も、ヴァルナーのことが好き。……誰よりも正しくあろうとして、沢山悩んできたことを私はずっと見てきた。任務の合間に困っている人のお手伝いをしていたその優しさも、純粋に人々のために戦ってきたことも知っている。ずっと憧れだったんだ……ヴァルナーみたいになりたいって。私にもなれるかな? ……私の手はもう汚れてしまっているけど」
「……それを言うなら、ボクとかラピスラズリ公爵家とかどうなるんだ? ……まあ、いずれその報いは受けることになると覚悟はしているけどねぇ。さて、ネーラさんも目を覚ましたし、二人にはこれから成果報告会兼祝勝会兼今後の話し合いに参加してもらいたい。トネール大将軍やプルウィアさんもお待ちかねだよ。……そこでの話を聞いてから身の振り方を決めてもいいんじゃないかな?」
◆
シャドウウォーカーの大食堂が成果報告会兼祝勝会兼今後の話し合いの舞台となった。
テーブルの上にはボクが作った大皿料理が並べられ、それぞれが欲しい料理を盛り付けた状態で、まずは自己紹介が始まった。
八賢人のノイシュタイン、
その後は具体的な戦果報告に移った。欅と梛からはフィーロとブルーベルの勧誘に成功したという報告を個別に受けているけど、二人に関しては死んだことにしておいた方が都合がいいので報告会の中では戦死扱いになった。
「……グランディネ隊長、カルマさん、アルゴンさん、セリューさん、フィーロさん、ブルーベルさん、ローウィさん……みんな死んじゃったんだ」
「一緒に寝食を共にした仲間を奪われた……ボク達を恨む気持ちは分かるけどねぇ。……この先、帝国が生まれ変わる際に旧帝国を象徴する彼女達がいたら変われるものも変われなかっただろうし、それぞれ討伐されるだけの理由があった。必要なら、それぞれを討伐した理由を説明するけど?」
「……いや、いい。どっちにしろ仲間を殺された怒りが消える訳じゃないしな。……薄々は分かっていた。ヴァナルガンドのメンバーの多くは闇を抱えていたって……でも、大切な仲間だったんだよ」
「……その仲間がもう戻れないところまで来ていたのなら、帝国の腐敗の要因の一つと成り果てていたのなら、君はどうしたんだい? ヴァナルガンドの中にいながらも君は仲間の歪みに本当の意味で気づいていたのか? もし、気づいていたのなら、何故その歪みを正そうとしなかった? ……別にボク達が正しいなんて言わないよ。どんな理由であれ、人殺しは悪だ。その報いはいずれなんらかの形で受けることになるだろうねぇ。……シャドウウォーカーも革命軍も正義じゃない。でも、帝国崩しを成し遂げた彼らが今度は中心となって政治を行っていく。その中で旧帝政は悪とされていくだろう。史実上の正義や悪ってものは、そうやって過去の政治を批判することで今の政治を肯定する、そういったものの積み重ねだ。……幸い、君は誰も殺していない。ヴァナルガンドの中では唯一、正しい人間だった。いや、シャドウウォーカーや革命軍を含めても唯一と言えるかもしれないねぇ。そんな君だからこそ見えるものがあると思う。君には君の信じる正義を、理想の国を目指してそ欲しい。シャドウウォーカーや革命軍が間違った道に進もうとするなら、それを止めるのが君の役割だ。そのために君を生かしたんだから、期待に応えてその分の働きはしてもらいたいものだねぇ」
「ああ、言われなくてもやってやるよ! 仲間の分も、俺達は生きないとな。……俺は誰も苦しまない、悲しまない国を作りたい。そのためにできることをするのが、これからの俺の仕事だ」
「私は、ヴァルナーを支えたい」
「ってことだけど、ピトフューイさん、トネール大将軍、それでいいかな?」
「無論だ。これからの新しい国づくりが正しい道を進めるかどうかは分からない。私達が間違った道に進もうとしていたら、それを止めて欲しい」
「彼のような国の未来を憂う青年がいるのなら、これからの国も安泰だろう。……お前達が本気でルヴェリオスを変えようとしていることはよく分かった。私も微力ながらお手伝いさせてもらおう」
続いて、スティーリアからアルバの暗殺に関する報告があった。
トネールは同格の大将軍の死に思うことがあったらしく、「アルバ、逝ったか」と少し悲しそうに呟いた。
「アルバ大将軍はこれといった悪事を行ってきた訳ではない。でも、彼は帝国の腐敗を知った上で容認してきた。腐敗しようとなんだろうと、帝国という国に仕えてきた彼は、きっとルヴェリオス帝国の崩壊を知れば帝国と心中する覚悟を決めて新国家に攻撃を仕掛けてきた。どちらにしても、戦いは避けられなかったと思うよ」
「……彼は彼なりの正義に従って国に仕えてきたのだが、残念だ」
トネールの説得に関しての報告は割愛。いよいよ、話題はゲーム時代には存在しなかった「
「帝城に入ったボク達を待ち受けていたのは、「
「聞いたことがない者達ばかりだな。まさか、そのような者達が帝国内部に潜んでいたとは」
「……アクルックスが裏切り者だと聞いた時は驚いた。……あの人は本気で帝国を変えようとしていた人だったのにな」
「アクルックス、グローシィ、ハーメルンは三代皇帝を現人神と崇めていた。恐らく、『管理者権限』を手に入れ『唯一神』となった皇帝を崇拝するようになったんだろうねぇ。崇める神のためなら、どんなことでもする……例え、腐敗した帝国がそのままになろうとも、それが神の望みなら……そう心変わりしたとしても別段不自然じゃない。まあ、その皇帝のカリスマもオーレ=ルゲイエには通用しなかったみたいだし、ニウェウス王国の裏切り者のダートムは皇帝が戦いを肯定したから「
「ローザの気持ちはありがたかった。あたし達もこれで一区切りをつけることができたし、謝る必要はないよ」
「これで、死んでいった仲間達への弔いもできたと思います」
「それから、もう一人……いや、もう二人かな? 暗黒騎士ガーナットに関してだけど、彼はゲーム時代に主人公の役割を与えられていたイリーナさんの前世、ヴェガスと転生する際のもう一つの可能性――男主人公と呼ぶべき存在のデータを顕現した存在だった。そっちは、イリーナさんとアクアの二人に討伐してもらった」
「伝説の騎士団「
「過去の自分を踏みにじるような行為……イリーナさんにとっては思うところがある戦いだったと思うけどねぇ」
「今の私はイリーナ=シャルラッハだからな。過去の自分や有り得べからざるもう一人の自分と相対しても、特に何も思いはしなかったが、ただやりにくい相手ではあった。自分と同じ剣術や体術を使い、自分より体格の良い相手と言うのは厄介だな」
「その辺りは上手く闘気とかでフォローして勝利を収めてくれたみたいだけどねぇ。……さて、最後はボクの戦いの話か。待ち受けていた敵は皇帝トレディチ=イシュケリヨトと『魔界教』の『強欲』の枢機司教グリードだった。既に『
「お嬢様、一つ質問いいですか? 時間停止によってあらゆる攻撃も通らない相手を、分魂魄を破壊せずにどうやって倒したのですか?」
「アクアの疑問はもっともだねぇ。カラクリは簡単――時間停止を時の束縛から抜け出すことで無効化し、無敵化を無意味にしたんだよ。まあ、こういった芸当はボクや同じ時空魔法の使い手のシェルロッタくらいにしかできないし、『時空魔導剣クロノスソード』の使い手なら、この件を使って時間干渉を可能にすれば勝てるって感じかな? まあ、皇帝よりは厄介な相手であったのは間違い無いけど、無事権能と『管理者権限』は回収したし、問題ないかな?」
「……できるなら、私達の手で皇帝を討ちたいと思っていたが……話を聞く限り、スケールが違い過ぎて私達では何もできそうにないな。そもそも、「
「まあ、「
「ローザさん、どうしても一つだけ突っ込ませて欲しい! 護国の神「
「ヴェガス殿……ではなかった、イリーナ殿の言う通りだ。「
「だって、あれはただのデカブツでしょう? 『強欲』みたいな無敵能力は備わってないし、「
……なんか突然、部屋が静寂に包まれたんだけど……変なこと言ったかな?
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