Act.7-57 帝国崩壊後の戦後処理〜ルヴェリオスの黎明〜 scene.3

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>


「…….まあ、親友ローザの基準は俺達とはズレているし、実際親友ローザにとって楽勝だったんならそれでいいんじゃねぇか?」


「なんか、ボクを規格外な存在として納得しようという雰囲気になってきているけど、リーリエってゲームの制作陣が本気で考えた最強育成を実践したアカウントを転生の際に受け継いているだけだし、ボク個人は大して強くないと思うんだけどねぇ。まあ、仮に強いとしてもその力は過保護なハーモナイアのお節介のせいだし……ボク個人は弱いんだけどさ」


 アクアが「あの人外の剣は自前でしたよね?」と遠い目をしながら独り言のレベルの声で言っていたのは聞かなかったことにした。


「『強欲』という共同戦線を張っていた仲間を失った皇帝は残る兵器では勝てないと踏んだんだろうねぇ。そこで、恐らくシャマシュ辺りからもらった異世界召喚の術式を使い、ノイシュタインさんを召喚した。まあ、そのまま利用せず、召喚した人間を支配できる呪いを付加したみたいだけどねぇ……寧ろ、何故シャマシュがこれをしなかったのか甚だ疑問だけど。ボク個人、今回の最終決戦で一番の強敵はノイシュタインさんじゃないかなと思う。八賢人の現身として作られた人造魔法少女としての頑丈さは規格外で、固有魔法の﴾神すら殺し英霊を従える槍を操るよ﴿も神殺しすら可能なほどの莫大なエネルギーにより構築された槍を自在に操り、投げた槍は因果を無視して命中し、並の人間ならば穂先を向けられただけで蒸発し、直視しただけでその魂が消え去るほどで、の一撃を受けた者に聖痕を刻み、自らの戦奴エインヘリャルとすることができるというこちらも規格外なもの。後に行われるシャマシュ教国の召喚勇者全員と比べても戦力的には遥かに上、ただ魔王を倒して魔族を根絶やしにしたいならノイシュタインさん一人で十分というレベルじゃないかな?」


「結果としてこの我も一度殺されたのだがな。規格外は果たしてどちらか?」


「……ノイシュタインさんを撃破した後は、執念が具現化し、六枚の翼を背に持ち、無数の背輪を背負った無貌の神と化した皇帝と戦ったんだけど、それでも大して評価は変わらなかった。正直、今回は帝国入り前の道中で現れたアザトホートのコケラ・ラメッドの方が正直厄介だったと思うんだよねぇ。……総括すると、今回は皇帝と『魔界教』、シャマシュ、そしてアザトホートのコケラ・ラメッドを送り込んだ存在の四陣営が大きく関わった事件だったと思われる。アザトホートのコケラ・ラメッドを送り込んだ『Eternal Fairytale On-line』の『唯一神』や、『強欲』を送り込んだと思われる『魔界教』の空の玉座に座る『憂鬱』、シャマシュの三人に関しては今後警戒を強めた方がいいと思う。この敗北が意図したものなのだとすれば、その背後に目論見がある可能性も高いからねぇ。報告は以上。さて、食事に……ってもうみんな食べているか」



 主要人物の大半を失ったルヴェリオス帝国、リーダーを失った革命軍と、その下部組織に過ぎなかったシャドウウォーカー。

 新しい国造りは、帝国大将軍の唯一の生き残りであるトネールと、帝国崩しの立役者であるシャドウウォーカーのリーダー、ピトフューイの二人が中心となって行うことになった。

 リーダーが裏切り者だった革命軍は、シャドウウォーカーとの序列が逆転し、本来革命軍のリーダーがいるべき位置だった場所にはピトフューイの姿がある。ちなみに、かつて将軍だったという経験もあり、実質革命軍の新リーダーにピトフューイが就任したことについては特に異論が出なかったようだ。


 トネールが招集した帝国の残党と、シャドウウォーカーを中心とする革命軍を中心に国家が再編され、ピトフューイを首相、トネールを副首相とする新国家ルヴェリオス共和国が創設された。

 内部の構造は、革命軍の関係者と帝国の残党が入り乱れるように配属され、どちらの所属も優遇しない形になっている。また、旧帝国軍も共和国軍と名を改め、再編されたそうだ。


 現在はイリーナが暗黒騎士ガーナットが騎士団長を務めていた「暗黒騎士団アーテル」のメンバーを核として「真紅騎士団グラナートロート」を再設。副団長となったプルウィアと共に共和国軍最強の騎士団の団長、副団長として訓練に勤しんでいる。


 シャドウウォーカーのメンバーに関しては、リヴァスが新たな騎士団の団長に就任し、ホーリィとクラリスは文官側の要職についた。この中で貧乏籤を引いたのはクラリスで、共和政府の文官の最高位として新設された大官吏に任命されてしまった。

 ピトフューイの首相、トネールの副首相に次ぐ第三位で大官吏はイリーナが騎士団長と兼任することになった共和国軍の統帥権を首相から委ねられている大参謀と対をなす文官の実質トップで、ルヴェリオス帝国の宰相から文武が分離して生まれた役職の一つということになる……まあ、なんとなく想像がつくだろうけど、この役職は地位が高いように見えてトラップ、ほら、三途の川の向こうで宰相さん達がおいでおいでしているよ?


 一方、ヴァルナーとネーラはというと、共和国政府の動向の監視を行い、良い治世の維持を目指す外部政治評価機関の会長と副会長となり、共和国政府の行く末を見守っている。


 そんなルヴェリオス共和国はより良い国を目指して内政に勤しんでいるが、ルヴェリオス共和国がやらなければならない仕事は内政だけではない。

 隣国フォルトナ王国などの諸外国との関係――外交の問題もある。


 ルヴェリオス共和国設立から約三週間後、ルヴェリオス共和国は多種族同盟の一員として承認され、加わることとなった。

 その結果、大官吏のクラリスの仕事が増えて発狂していた。流石に可哀想だったから手伝ったけど。

 基本的には多種族同盟で既に決められている条件をルヴェリオス共和国が飲むだけだから、多種族同盟側にはあまり負担はない。


 転移門の設置と、『時空魔導剣クロノスソード』の貸し出しも終わり、外政の仕事が落ち着いたのはそれから三日後。

 そこからクラリスは大官吏として内政の仕事に奔走するのであった。


 ちなみに、『時空魔導剣クロノスソード』は全部で二十本が貸し出されることとなった。

 この剣の所有者、所謂時空騎士は、ピトフューイ、トネール、イリーナ、プルウィア、ネーラ、ヴァルナー、リヴァス、ホーリィ、クラリスの九人が既に決定しているものの、残りのメンバーは今後決めていくつもりらしい。



 まだまだ話さないことは沢山あるねぇ。


 まずは、八賢人の現身のノイシュタイン。彼女はこの世界を旅することに決めたそうだ。この世界を旅して、知見を広めたいらしい。

 ……まあ、本音は未知なる強敵と戦いたいとかその辺りだろうけど。だって厨二病戦闘サークルにお忍びで参加していたような人だしねぇ。

 神関連で手に入れた情報はこっちに送ってくれることになったし、力が貸して欲しい時は駆けつけてくれると約束をしてくれた。心強いねぇ。


 ちなみに、冒険者登録をしたいと言ったのでブライトネス王国王都の冒険者ギルドに連れて行ったら、ギルドマスターのイルワが「はっはっはっ」と乾いた笑いを浮かべていた。

 しかし、「毎度毎度、よくそんな規格外の人ばかり連れてくるよね」と言われてもノイシュタインに関しては仕方がないと思うんだけどなぁ……この人、現身だし強いのは当たり前なんだよ。


 因縁の相手ダートムを遂に倒したレジーナとユリアは、その日のうちに魔女の森ウェネーフィカ・ネムスに送り届けたんだけど……何故か多種族同盟の会議にはミーアを伴って出席していた。

 苛立ち気味のレジーナによれば、魔女の森ウェネーフィカ・ネムスを一国家として認め、対等な存在として多種族同盟に入れるべくラインヴェルドとオルパタータダが動いたそう。


 オルパタータダは「ローザからフォルトナと同じ額だけの税を受け取っているんだろ? それってもう国家だよな?」と無茶苦茶な理論でレジーナを無理に参加させたらしく、多種族同盟の時に会ったら物凄い形相で睨まれた……後で、レジーナからそのことで謝罪されたけど。まあ、怒りたい気持ちも分かるし、良かれと思ってやったことで迷惑をかけてすみませんと謝るべきなのはこっちだと思うけど。


 続いてラファールについて。彼女はあの後すぐにルヴェリオス帝国を出発し、霊峰トゥールビヨンの庵の整理をして戻ってきた。

 どうやら、スティーリアと同じようにメイドとして仕えることにしたらしいんだけど……。


 部屋にラファールが残した置き手紙を発見した緑の使徒ヴェルデの行動は早く、正式にブライトネス王国に戻る前に緑の使徒ヴェルデがブライトネス王国の王宮に現れたという話を聞いて急いで戻る羽目になった。

 幸いなのは緑の使徒ヴェルデに自分達の神を取り戻そうというという気が全く無かったことか。


 緑の使徒ヴェルデの代表だというアリシータ=エメラインという巫女の女性は、ラファールとボクから事情を聞き、一つの決断を下した。

 ……風の国ウェントゥスが多種族同盟に加入するという。


 ということで、多種族同盟はルヴェリオス共和国、風の国ウェントゥス、ニウェウス自治領(魔女の森ウェネーフィカ・ネムス)を加えた九ヶ国による同盟となった。

 所属が決定した魔女の森ウェネーフィカ・ネムスと風の国ウェントゥスには、『時空魔導剣クロノスソード』をそれぞれ貸し出すことになった。魔女の森ウェネーフィカ・ネムスが三本、風の国ウェントゥスに二十本。そのついでに、前回はできなかったレジーナとリィルティーナへの新装備のプレゼントも行ったんだけど、まだルヴェリオス共和国への武器の供給や帝器の扱いがどうなったかといった話もしていないし、そのことと一緒に話そっかな?

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