Act.7-24 影の歩行者達との邂逅 scene.4

<一人称視点・ラナンキュラス/ビクトリア・ Sストレイン・ペンドラゴン>


 暗殺集団シャドウウォーカーのアジトは帝都の庶民街にある貸本屋の地下にある。

 これは、『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』の設定だけど、異世界化後も場所は特に変更されていないようだった。……まあ、帝国軍に場所が特定されなければわざわざアジトを変える必要はないからねぇ。


 闇夜に紛れて帰還するプルウィアとリヴァスに続いて帝都の庶民街を歩く。

 任務を終えてアジトに戻る間に帝国側の誰かとの遭遇戦が発生するんじゃないかな? というテンプレ展開に警戒していたんだけど、特にそういうこともなく、無事に目的地である貸本屋に到着した。


「プルウィアさん、リヴァスさん。ピトフューイさんへの取り次ぎ、お願いねぇ」


「……取り次ぎはするけど、俺達は別に便宜を取り計らったりはしねぇからな?」


「勿論、そこまでの手間は取らせないよ。ちゃんと説明して、その上で協力を得られるようにするのはボクの役割だからねぇ」


 プルウィアとリヴァスがアジトに入っていってから十分後――プルウィアから許可を得たボク達は貸本屋の隠し階段から地下に入り、そのまま応接室に通された。


 応接室にはリーダーのピトフューイをはじめとして、イリーナを含めた暗殺集団シャドウウォーカーの全メンバーが集結していた。

 ピトフューイに促され、対面のソファーに座った。アクア達はボクの背後に控える形で、暗殺集団シャドウウォーカーと対面するように立っている。


「お時間を取らせて大変申し訳ございません。私はローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルトと申します。今からお話しすることは信じ難いものでしょうが、最初に真実であることを断言しておきます。それでも、信じるか信じないかは個人の判断に委ねられてしまいますが。その上で、私達と共同戦線を張るか、あくまで自らの手で革命を成すか、この判断は勿論お任せします」


 姿をローザに戻し、微笑むとピトフューイ達が早速衝撃を受けたようでボクのことを二度見してしまっていた。……いや、この程度のことで驚かれても先は長いんだけどなぁ。


「それでは……核心部に入る前に、まずは前知識として知って頂かなければならないところからご説明致しましょうか? そうですねぇ……まずはこの世界の成り立ちについてから」


 異世界ユーニファイドの真実と、前世である百合薗圓が生きた虚像の地球に関する話。

 そこを出発点にして、ボクがローザに転生してからの行動や、ボクの知る限りの『管理者権限』を保有する神々による戦いの状況、ブライトネス王国とフォルトナ王国とルヴェリオス帝国の関係、そして今後のルヴェリオス帝国の行末にも関わっている『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』のストーリーの説明など様々な話をした。


 最初はこの荒唐無稽な話を疑いほとんどで聞いていたけど、ピトフューイ達は知られていない筈の使用する帝器や経歴を語った段階で、イリーナは自分の前世がヴェガス=ジーグルードであることを言い当てられた時点でボクの話を信じる気になったらしい。……ってか、イリーナの前世の話はピトフューイ達も驚いていなかったけど、話していなかったのか? ……まあ、ゲームでも自分の前世を打ち明けるのは終盤だったから、打ち明けていない方が自然なんだろうけどねぇ。


「……驚くことが過ぎて何から驚けばいいのが分からないが……イリーナ、私達に前世の話を打ち明けなかったことを後ろめたく思う必要はないぞ。人間誰しも秘密の一つや二つある。それに、お前が仲間であることには変わらないのだからな」


「……ありがとうございます、ピトフューイさん。皆さん、こんなに大切なこと、黙っていてすみません」


「関係者でもなんでもないボクが言うのもなんだけど、イリーナさんが申し訳なく思う必要はないと思うけどねぇ。イリーナさんが気を咎める必要があることなんて何もない。二代目皇帝に仕え、祖国のために戦った君の頑張りがあったからこそ帝国の繁栄がある。勿論、その活躍には賛否両論あるだろうけど、今回の件では俎板の上に上げられるような話じゃないからねぇ。……君の罪があるとすれば、君の率いていた騎士団から皇帝暗殺の下手人を出した監督不行届という一点かな?」


「……まさか、トレディチ=イシュケリヨトが俺達や皇帝を暗殺し、三代皇帝の座についたとはな」


「実はこの点に関しても、イリーナさんが責任を感じる必要はないんだけどねぇ。既にトレディチは君の知るトレディチではない。神の座に至ったトレディチは既にこの世界がゲームを基にした世界であることを、自分の運命を知っている。……つまり、イリーナさんが転生していることも、暗殺集団シャドウウォーカーが自分の命を狙っていることも気づいているということになるねぇ。まあ、君達は宰相を倒した時点で真実を知り、最後の敵を倒しに行く筈なんだけど。……例えば、もし自分がトレディチの側に立ったとしたら、自分が殺される運命にあるとしたらどんな行動をするかな?」


「普通なら、自分を殺す可能性のある私達を殺して可能性を潰すわよね? でも、それならなんで帝国はシナリオ通りに動いているのかしら?」


 ボクの問いに答えたのはクラリス。しかし、本来ならするべき動きを全くせず、ただシナリオの通りに動く帝国に疑問を覚えてそこから先に進めなくなったみたいだねぇ。


「皇帝が何も手を打っていないということはまずないと思うよ? フォルトナ王国崩しを企てたグローシィ=ナイトメアブラックの余裕から見てもボク達の存在を認識した上で、勝算があると確信していたんじゃないかな? ……そこから考えられることはいくつかある。一つ、皇帝はボク達に対抗できる武力の準備があること。この国で武力といえば、帝器があるよねぇ? でも、それだけじゃ安心できない。そもそも、自分の命の危険を脅かす存在が暗殺集団シャドウウォーカーであると確定しているなら、その動向を完璧に監視できる体制を真っ先に整える筈。ボクなら革命軍にスパイを送り込むか、革命軍の人間を自軍に取り込んで暗殺集団シャドウウォーカーを監視させるだろうねぇ。皇帝にとって最も警戒するべき相手は間違いなくボク――そして、ボクが暗殺集団シャドウウォーカーに接触するところまでは予測できる筈。暗殺集団シャドウウォーカーの戦力という情報を持ち、対抗するための装備を整えた帝国に、何も知らない暗殺集団シャドウウォーカーが挑めば結果は見えている。既に皇帝が君達を大した敵ではないと考えていたとすれば、暗殺集団シャドウウォーカーを泳がせ、そこにボク達が接近したところで一気に叩けばいい。一番怖いのは準備も何もできていないタイミングで仕掛けられる奇襲――それを封じ込めてしまえば、後は武力の差がモノを言う。神である皇帝は自分の戦力でボクを倒せると考えているか、協力関係にある神の戦力も加えた上でボクを倒せると思っているから分からないけど、勝算があるんじゃないかな? だから、今回の件はくれぐれも内密に――例え、ボク達と組まないとしても革命軍にはこのことを報告しないでもらいたい。……まあ、ボクがこの国に侵入したことは知られている可能性が高いと考えるべきだろうけど」


「あのコケラですね。協力関係にある神が皇帝に報告しているなら、既に私達が帝国に入ったことを知られているということになります」


「シェルロッタさんの指摘する通り、アイオーンが報告しているなら帝国入りしていることを既に察知しているだろうけど、それでも現在地がどこなのか、どこまで動いているかは分からないだろうからねぇ。革命軍にスパイがいたとしても、ボク達が暗殺集団シャドウウォーカーと行動していることを知られていなければ、奇襲を仕掛けることは十分に可能だよ。革命軍にも悟られないタイミングで、皇帝も予測できないタイミングで奇襲を仕掛ける。……ただし、共闘するとなれば今の君達よりも強くなってもらいたいけどねぇ」


「おい、ちょっと待ってくれよ。革命軍にスパイがいる前提で話が進んでいるが、革命軍はこの国を変えようとしている帝国の敵対組織だぞ? そりゃ、これだけ大きければスパイが入るかもしれねぇが、それでもしっかりと身辺調査はしている」


「そもそも、一介の革命軍の人間にそれほどの調査能力があるとは思っていないよ。寧ろ、革命軍の内部の、それもそこそこの役職の人間の中にスパイが紛れ込んでいるとすればいると思う。――皇帝は尋常ならざるカリスマ性を持っているみたいだからねぇ。現人神として崇められるほどの存在――その威厳に魅せられ、崇拝して鞍替え、なんて可能性もある。何にしても常にあらゆる可能性を考慮して行動すべきだ」


「それについては同意だな。……しかし、神々の代理戦争か。随分とスケールが大きな話だな」


「こんな全く関係のない面倒ごとに巻き込んで大変申し訳ないけどねぇ。……別にボクのことを信じて欲しいなんてことは言わない。自分達でどちらに着くべきか考え、その上で決断を下して欲しい。……ただ、今回の戦いはできるだけブライトネス王国やフォルトナ王国の干渉であると見られたくないからねぇ。表向きは君達、暗殺集団シャドウウォーカーを含む革命軍によって革命が為され、腐敗する帝国が打ち倒されたという体裁にしたい。ボク達が出るのはその後――隣国の多種族同盟が、新たに樹立された国に多種族同盟への加入を提案するみたいな登場の仕方が理想だねぇ。もしくは、生まれて間もない国が正式なものであるというお墨付きをもらうために古い権力を持つブライトネス王国とフォルトナ王国に後ろ盾になってもらい、その流れで多種族同盟に加入というのもいいかもしれないねぇ。まあ、多種族同盟に加わらないという選択肢もある。革命を成した君達が、その後国をどうしたいか決め、自分達で理想の国を作り上げていくべきだ。他国が干渉するべき問題じゃない」


「なるほどな……しかし、随分と欲のない話だな。事情は分かった……だが、百合薗圓。まだ、お前の目的を聞いていない。この戦いでお前が欲するものは何だ?」


「ボクが欲するのは皇帝の『管理者権限』――ただ一つ。ただ、ボクは欲張りだからねぇ……それ以外にも得たいものは沢山ある。暗殺集団シャドウウォーカーとの繋がりも一つだし、帝国側にも欲しい人材が何人かいる。まあ、この辺りは死んだことにして引き抜こうかと目論んでいるけどねぇ。これに関しては君達にも迷惑を掛けないから見逃してもらいたいけど。君達にも思うところはあるだろうけど、君達に君達の考えや信念があるように、ボクにはボクなりの思惑と悪の線引きがある。詳しくはボクが作った所有帝器も載せたリストを見てもらえば分かると思うけど」


 アクア達に手渡していたリストをピトフューイ達にも手渡す。ただ、このリストにはどのような線引きをして引き抜きを考えたかメモ書きを加えておいた。


「極めて有用なリストだな、ありがたく使わせてもらおう。……だが、私達には私達の価値観がある。それに、相手が殺す気できているのにこちらが手を抜くということはできないならな」


「勿論、それは承知しているよ。そのリストの引き抜き候補にも君達の討伐対象になるような悪はいる。革命には協力するけど、これは互いの目的のための共闘であることをしっかりと認知してもらいたい」


 その後、ピトフューイと握手して正式に同盟を樹立したボク達は――。


「作戦決行は近日中に――少なくとも一週間以内には開始したい。ただ、今のままでは不安だからねぇ……いくらアクアとディランが強者だとはいえ、プルウィアさんとリヴァスさんっていう主力がこうもあっさり負けてしまうようでは話にならない。数日間の間に鍛えさせてもらうよ? ……ただ、その前にまずは腹拵えだねぇ。うちのメイドさんと大臣さんもお腹が減っているみたいだし」


 アクアとディランの腹の音が「ギュルギュルギュル〜」っと同時に鳴り響いた。……まあ、そりゃあれだけ暴れたらお腹も減るよねぇ。

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