Act.7-15 潜入・ルヴェリオス帝国 scene.8

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>


『『管理者権限』っていうと、ミスルトウさんが押し付けられたっていうあの力かな?』


「まあ、あれは単なるコピー……それも、最低限のものだけを抽出した劣化コピーだからねぇ。最低限の力だけ与えて捨て駒にしようとしたものと、完全な『管理者権限』は一緒にはならないよ。……まあ、『管理者権限』にも強い弱いの優劣があって、自分の元となったゲームの世界観が能力の限界を定めてしまうんだけどねぇ」


 『管理者権限』は当然ながら、元となったゲームのシステムそのものを意のままに操る力でしかない。……まあ、それでも世界改変を止められるほどの力も干渉する力もなく、神であろうとも自分勝手に世界を改竄することはできないみたいだけど。

 ただ、基礎になる能力を基に新たな力を生み出すことができることは、シャマシュ教国のスキルで実証済み。今後は現状に満足せず、より高みを目指す神が勝利する、そんな時代が来るんじゃないかな? 『怠惰』に研鑽を怠ると、まあどっかの誰かさんの二の舞になるだろうね。

 まあ、それでも基礎が違えば、そこからの伸び代も変わってくる。


「今回の皇帝は世界観で考えれば大したことはない。皇帝が新たな力を得るとしたら、メインウェポンとなる帝器を作るくらいしかないからねぇ。あれは初代皇帝が作らせた、もう二度と作成はできない最強の兵器なんだけど、『唯一神』なら話は別……他にもいくつか打つ手は思いつくけど、最も効率よく強化できるのは帝器の量産かな?」


「その帝器って……確か材料が危険種、なんだよな?」


「えっと……その危険種が帝器の材料で、その危険種はこのお山にいっぱいいるんだよ……ね? それでそれで、ローザさん達と戦う帝国さん達は武器の材料が必要だから……」


『だから最近山の下の方が騒がしかったんだね。……って、大変だ! オリヴィア、早く逃げないと』


「まあ、ここまでは想定済み。流石にナトゥーフさんみたいな強さがあるとは思えないし、流石にここまでは登ってこれないと思うけど、万が一に備えて水素爆弾どころか反物質爆弾の衝撃と放射線にも耐えられる瀬島新代魔法の『耐核結界』を張っておこうか?」


 瀬島新代魔法は原初魔法と原初呪術を元に異世界の技術を取り入れて完成した新時代の魔法だけど、物理法則を制御するこの魔法には原初魔法の資質が必ずしも必要ではない。

 霊輝マナを精霊に供給して事象改変を行う原初魔法に対して、瀬島新代魔法は霊輝マナによって直接事象改変を行う。……まあ、精霊にさせていた事象改変を自分自身でする必要がある訳だけど、香澄のように精霊との親和性が低く、一度に供給できる霊輝マナに制限があると大規模な原初魔法が発動できないということになるけど、瀬島新代魔法は精霊との親和性が関係なくなるから大規模な事象改変も引き起こすことができるようになる。


 ちなみに、精霊は大気中の霊輝マナを糧に存在している。精霊が精霊だけで自己完結しないのは、人間が霊輝マナを溜めておける霊輝マナ保有力を持っているから。人間が誰しも持ち合わせるこの霊輝マナ保有力によって溜められた霊輝マナを精霊に供給することで、精霊は存在するために必要な最低量の霊輝マナを超える霊輝マナを獲得することになり、その膨大な霊輝マナを利用した事象改変をお礼として引き起こしてくれる。これが、原初魔法使いと精霊の関係だねぇ。

 まあ、この霊輝マナ保有力にも個人差があって、香澄の場合は魔女の血族に相応しい人並外れた霊輝マナ保有力を有しているけど、精霊との親和性が低く、結果として強い原初魔法の行使ができないから落ちこぼれの扱いをされていたってことになるねぇ。


 ただ、代わりに瀬島新代魔法には事象改変能力――これはイコール、事象改変に必要な演算を行えるだけの魔法演算能力ということになるけど、この演算能力が必要になる。

 奈留美の場合はこの魔法演算能力も精霊との親和性も高い水準にあるけど、香澄の場合はこの魔法演算能力も常人より僅かに秀でているという程度、大規模な事象改変を引き起こすことはできない。

 だから、『耐核結界』や放射線を無害化する『放射線無害化』の事象改変は香澄一人の力では局所的にしかできない訳なんだけど、魔法演算能力に関しては外部装置――コンピュータによる演算――によって、カバーすることができるから、ボクの保有するハイパー・トリプルコンピュータ「百合」と接続が可能な虚像の地球においては、香澄は大規模な事象改変を引き起こすことができる。

 この『耐核結界』と『放射線無害化』は化野の反物質爆弾から身を守るために香澄自身が構築した瀬島新代魔法で、既に実証実験も完了している。放射線を九十九パーセントではなく百パーセントカットし、更に反物質爆弾の破壊力でも砕けないこの結界の力は異世界でも有用――ってか、この結界を破れるほどの力をボクは片手で数えられるほどしか挙げられない。まあ、帝国相手なら問題ないでしょう?

 余談だけど、札を使った瀬島新代魔法は札に外部装置の役割を担わせ、事前に取り込ませておいた霊輝マナを使って発動させることで、それまでは使える人が制限されていた技術を誰もが使えるようにした技術だ。って言っても札は消耗品――札に魔法を込める仕事は魔法の才能を持つ者にしかできず、込められる魔法の限界も込める者の才能に左右されてしまう。まあ、結局どんな方法を使っても瀬島新代魔法の限界はその使い手の才能により決定されてしまうということだねぇ。


『それじゃあお願いしようかな?』


「了解、じゃあ後で張っておくねぇ」


 まあ、ついでだし認識を阻害する結界の方も張っておこうかな? あの、魔女の森ウェネーフィカ・ネムスと開拓村に相互で作用するように張ったものと同じものを。


「あの……ローザさん、あの話はしなくてもいいのですか?」


 これで話すべきことは全て話したつもりなんだけど、このタイミングでマグノーリエが言いにくそうに聞いてきた。……あの話、あの話ねぇ。


「あの話って……この城の元々の持ち主の話だねぇ? まあ、大丈夫じゃないかな? ナトゥーフさん、オリヴィアさん、実はこの旧ゲルニカ城はニウェウス王国の持ち物だったんだけどねぇ。ニウェウス王国内部で反乱が起き、第一王女だったレジーナさんが見切りをつけて去った直後にニウェウス王国は崩壊した。そこに一気にフォルトナ王国が侵攻して制圧したってところだねぇ。その後はフォルトナ王国が管理していたんだけど、廃都ゲルニカを任された領主もあの城は持て余していたみたいでねぇ、結局手付かずのまま残されていた。それをナトゥーフさんが持ち帰ったってことだねぇ。まあ、フォルトナ王国も弱ったところを叩いて奪い取ったみたいだし、レジーナさんも必要なものは全て持って逃げたみたいだから大丈夫なんじゃないかな? いずれにしても、もうレジーナさんの所有物じゃないからねぇ」


 ニウェウス王国は長きに渡り、周辺の国々と戦争を続けてきた。そんな時代を変えたいと当時の国王は周辺諸国と条約を結び、ようやく平和な時代が来た……という矢先にニウェウス王国は滅んだ。

 戦いによる立身出世、武力による下克上を望む元軍部の宮廷魔法師達によってクーデターが引き起こされ、第一に国王の暗殺と武闘派の名門宮廷魔法師と第一王女の婚約が計画され、その作戦の実行として、一部軍部による条約を結んだ国への侵攻も行われた。その一つがフォルトナ王国であり、フォルトナ王国はその侵攻を大義名分として混乱の渦中にあったニウェウス王国に侵攻した。


 当時、計画の中心にいたのは【錬成の魔術師】ダートム=アマルガム。当時、そこまで掴んだジェーン=ドゥはダートムの討伐に踏み切ったようだけど、最終的に逃げられたらしい。その後の消息は不明……まあ、それ以外の戦争賛成派軍部の上層部はジェーンの暗殺と、フォルトナ王国による侵攻で全滅したみたいだけどねぇ。


 レジーナも王国の腐敗に気づいていたようで、ニウェウス王国からの脱出を提案したのはレジーナだったそうだ。レジーナはレジーナにとって大切な存在だったジェーンと共に逃げ……そして、これ以上束縛してはならないと彼女を解放した。その後はみんなもご存知の通りだねぇ。


「……でも、レジーナさんもこのお城に思い出があるとオリヴィアは思うの。今度、レジーナさんにもお城に来てもらいたい!」


『ボクからもお願いできるかな?』


「そうだねぇ、話しておくよ。まあ、あの人もあんまり未練なさそうだけどねぇ……二人の愛の巣……じゃなかった、新しい家をもう持っているからねぇ」


「愛の巣って……お嬢様、思いっきりリィルティーナさんのこと忘れていませんか?」


「別に忘れてなんていないよ? 百合は二人じゃなくても問題ないし、三人で百合ればいいんじゃないかな?」


『『『『『『『素晴らしいお考えですわ! お姉♡』』』』』』』


「まあ、百合は強制するものじゃないしねぇ。……個人的にはプリムヴェールさんとマグノーリエさんの百合を見たいけどねぇ」


「そ、それは……」


「そ、そう、か……」


 うーん、プリムヴェールが「破廉恥な!」って叫ぶかと思ったけど、案外脈があるのかな? 二人の関係ってもう親友愛よりも深くなっている気がしていたんだけどねぇ? もしかしたら、あり得る……のか? やったね!


「そういえば、リィルティーナさんも魔法学園に通うってことになっていたっけ? オリヴィアさんも通っておいて損はないと思うけど、どうしたい?」


『ボクはオリヴィアが望むなら……個人的にはオリヴィアには同年代の人間の友達を作って欲しいと思っているけどね』


「魔法学園かぁ……行ってみたいな?」


「まあ、本来なら年代的にボク達よりもオリヴィアさんの方が年上だから、そのままの年齢で入学すると先輩になるんだけど、編入でボク達と同じ時期に入学するってことも可能だからねぇ」


『ローザさんがいるならボクも安心だね』


 うん、計画通り。ボクの入学するタイミングで随分と魔法学園は一変するだろうねぇ。

 新たに聖女の血を引く転生者と竜の巫女の入学――まさに、黄金世代だねぇ。


「それじゃあ、上手く陛下に掛け合っておくよ」


 まあ、あのラインヴェルドなら絶対に食いつくと思うけどねぇ。……こんなに面白いこと、滅多にないし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る