Act.6-38 ドゥンケルヴァルトの開拓村と、魔女の森の魔女の女王様と弟子 scene.3

<一人称視点・アネモネ>


 開拓村に戻ってきたボク達はその足で未開拓地域に向かった。

 今回はルイスを始めとする村の若者達も同行している。領主として赴任して大口叩いた女がどれくらいできるのか、口だけ達者で無能なのかを確認しにきたみたいだねぇ。


「琉璃、真月。お願いした通り貼ってきてくれた?」


『はい、ご主人様! お願いされた十二枚の札、真月と一緒に貼ってきました!』


『ワォン! 完璧だよ! ところでご主人様、お腹減ったんだけど』


「はいはい、後で甘いお菓子をあげるよ」


『ワォン! やったぁ!!』


『真月、ダメでしょう。ご主人様、すみません……真月はわがままばかりで』


「遠慮しなくてもいいよ、後で琉璃にもちゃんと食べさせてあげるからねぇ」


『……あ、ありがとうございます』


 琉璃はちょっと謙虚過ぎるよねぇ。真月ほどマイペースなのはそれはそれで困り物だけど、もうちょっと甘えてもいいんじゃないかって思う。

 まあ、周囲に必要以上に目を向けてしまったり、周りに遠慮してしまうっていうのも琉璃の個性だからねぇ……ボクが気付いてさり気なく甘えたそうにしている時は甘えさせればいいんだよ。


「それでは初めていきますね。まずは未開拓の地帯の雑草を大規模な風魔法で切り刻みます。危険ですので、丁度リィルティーナさんがいる辺りまで下がってください」


 リィルティーナには事前に琉璃と真月が貼った陰陽符の少し後ろに立ってもらっていた。ボク達もそこまで移動し、開拓する場所に誰も人がいないことを確認し、陰陽五行エネルギーを右人差し指に宿した。


「貴人、騰蛇、朱雀、六合、勾陳、青龍、天空、白虎、太常、玄武、太陰、天后、十二天将の力を束ね、神の加護持つ結界を現出せよ――十二天結界」


 「式神縛呪」によって使役する思業式神の最高位に位置づけられる十二天将と十二月将のうち、十二天将を顕現するのに必要な符、「十二天将符」を全て使った究極の結界術――それが、「十二天結界」。

 ちなみに、この「十二天将符」を単体で使用し、「式神縛呪」を用いることで十二天将を顕現することはできる。……まあ、十二天将クラスを呼び出せるのは上位の陰陽師くらいだし、上位の陰陽師でも紙や薬、草木などで人の形をした形代を作り、そこに陰陽師の念を入れて使役する擬人式神を愛用している人も多いけどねぇ。

 例えば、土御門遥は土御門の始祖の安倍晴明の相棒の蝶の精霊、蜜虫をパートナーにしているし……まあ、長年に渡って使役されてきた蜜虫は最早十二天将クラスの力を有しているから戦闘力面から見ても問題はないんだけど、まあ十二天将よりも愛着はあるから多用しているんだろうねぇ。


 ちなみに、ボクは式神を使役していない。「十二天将符」も一応持っていたってだけで、百合薗圓の力では一体だけでも制御はできなかったからねぇ。……まあ、ハーモナイアの調整を受けたローザなら十二天将と十二月将を全て同時に顕現どころか、陰陽術の最高難度の禁呪で安倍晴明クラスの術者がその命を引き換えにするほどの陰陽五行エネルギーを行使することで死者を蘇生する「真・泰山府君祭」をノーリスクで使えそうだけど。ただ、「真・泰山府君祭」はあんまり旨味がないんだよねぇ……蘇生のタイムリミットを超えて対象を蘇生することができないし。

 それよりも、邪道な屍術と混合された魂亡き屍を自在に操作する「屍縛支配」や魂亡き死体そのものを式神として使役する陰陽師の念を入れて使役する擬人式神の派生系、穢屍式神みたいな禁呪の方がまだ有用性があるだろうけど、死者の尊厳を無視したそういった術には嫌悪感しか感じないから使わないけど。


「それでは、参ります。――烈旋空針暴颶嵐域エアニードル・テンペストリージョン


 使い捨ての風属性の指輪を【万物創造】によって生み出し、ボクのオリジナル戦略級魔法・・・・・を発動した。

 発生した巨大な暴風の領域で風を数百ナノメートルサイズという微小な刃状に形態変化させ、領域に存在する全ての切り刻む。魔法の殺傷性はネストの固有魔法「エアリアル・ウィンドテンペスト」をも上回るけど、魔力の消費量も操作の難易度もその威力に相応のものだからねぇ……戦略級として使おうと思ったらかなり使い手が限られるんじゃないかな? ネストなら余裕で使いこなしそうだけど、攻略対象スペックでねぇ。


 暴風で雑草がボロボロになり、風が止むとゆっくりと地面に落下する。リィルティーナやルイスがその威力に驚愕して恐怖で顔面蒼白になり、アクア達が「相変わらず自重しねぇな」と生温い視線を向ける中、ボクは【練金成術】を発動して僅かに鉱物を含んでいた土を操作して雑草の残骸を丸々呑み込んだ。

 と同時に、作農師の天職を獲得し、更に豊穣耕作師にグレードアップしたようだ……これで、随分やり易くなったかな?


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百合薗圓/ローザ=ラピスラズリ 17歳/5歳 女 レベル:999

天職:万物創造之錬金術師、条理之書紡師、公爵令嬢、悪役令嬢、裏ボス令嬢、鑑定士、刀剣術士、大魔法師、巫覡、竜騎士、戦乙女、暗殺者、盗剣術師、天上聖女、魔剣術士、天上勇者、ゲームクリエイター 職業:ー 副職業:公爵令嬢、冒険者、実業家、投資家、料理人、製作士、建築士、イラストレーター、小説家、漫画家……

筋力:16

体力:140000

器用:150000

耐久:16

敏捷:160000

知力:150000

精神:150000

魔力:140000

魔耐:140000

運:777

魅力:999


戦闘系技能:剣術…双剣術+斬撃速度上昇+斬撃威力上昇+抜刀速度上昇+刺突速度上昇+刺突威力上昇+連続高速刺突+無拍子+明鏡止水+辻斬+不意打+急所狙突+状態異常付与+能力低下・縮地…迅雷縮地+重縮地+震脚+抜き足+無拍子・格闘術…身体強化+部分強化+集中強化+浸透破壊+急所狙突+柔能制剛・槍術…刺突速度上昇+刺突威力上昇+連続高速刺突+火纏+風纏+光纏・生贄之突…貫通力上昇+消費生命力減少・血之喝采…狂乱抑制+身体的制限解除・跳躍…空歩・竜技…竜属性付与+部分竜化+身体能力上昇+風纏・竜鏖・毒付与・麻痺付与・投擲・隠業…無音移動+影分身+気配分散+幻撃・剛力…怪力・先読・位階の限界突破・限界突破…限界突破・改+限界突破・超+限界突破・極+限界突破・覇+限界突破・滅+限界突破・殲

魔法系技能:全属性適性…全属性効果上昇+全属性威力上昇+光属性範囲上昇+発動速度上昇+効果上昇+持続時間上昇+連続発動+複数同時発動+遅延発動+複合魔法+詠唱速度上昇+魔力弾・回復魔法…回復効果上昇+回復速度上昇+範囲回復効果上昇+発動速度上昇+効果上昇+持続時間上昇+付加発動・状態変化系魔法…弱体化効果上昇+弱体化範囲上昇+強化効果上昇+強化範囲上昇+状態異常付与+発動速度上昇+持続時間上昇・支援魔法…回復効果上昇+攻撃力上昇効果上昇+防御力上昇効果上昇+敏捷上昇効果上昇+ 攻撃力低下効果上昇+防御力低下効果上昇+敏捷低下効果上昇・障壁魔法…魔力効率上昇+発動速度上昇+遠隔操作+連続発動+複数同時発動+持続時間上昇+連続発動+遅延発動・加護付与…攻撃力上昇効果上昇+防御力上昇効果上昇+敏捷上昇効果上昇・見鬼・式神顕現…持続時間上昇・魔力回復…高速回復+瞑想+精神波・魔力制御…味方魔力認識+味方魔力量調整+自然魔力回復量上昇・魔法剣…属性適正連動

耐性技能:物理耐性…金剛+瞬間無敵化・全属性耐性・状態異常耐性

感知技能:鉱物感知・気配感知…正確認識・魔力感知…空間認識+正確認識・罠感知

職業系技能:万物創造…物質限定型記憶再現+イメージ補正+完全再現…練金成術…完成予測…鉱物系鑑定+精密錬成+高速錬成…複製錬成+魂なき器の創成…圧縮錬成+遠隔錬成+自動錬成+鉱物分離+鉱物解体+鉱物融合+鉱脈干渉+消費魔力減少+錬成の黄金法+黄金錬成…彫金…改造+精密改造+高速改造+複製改造・変換+上位変換+下位変換+高速変換+複製変換+自動変換+消費魔力減少+失敗は成功の母+変換の黄金法…合成+高速合成+複製合成+自動合成+消費魔力減少+生成の黄金法+飽くなき探究心…分離+高速分離+複製分離+自動分離+消費魔力減少+分離の黄金法・性質改変+高速改変+複製改変+自動改変+消費魔力減少+改変の黄金法・属性改変+高速改変+複製改変+自動改変+消費魔力減少+改変の黄金法・効果付与・書術…高速書写+完全複製+契約書作成・鑑定…高速鑑定+複数鑑定+精密鑑定・調合…高速調合+連続調合+魔法薬調合+調合の黄金法・農場支配…土壌回復+範囲耕作+遠隔耕作+自動耕作+異物転換+成長促進+品種改良+窒素固定促進+窒素同化促進+自動収穫+農地温度調整…豊穣慈雨…農場結界…発酵操作+急速発酵+範囲発酵+遠隔発酵・薬系鑑定…高速鑑定+複数鑑定+精密鑑定・薬草鑑定…高速鑑定+複数鑑定+精密鑑定・強奪・鍵開・罠設置・罠解除……管理者権限

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 ここから一気に【農場支配】系統と時間加速魔法を組み合わせて土壌改良と雑草の腐葉土化を進め、荒野の農耕地化は終了した。これでも農耕地としては充分だけど、今回はここからが本番。


「ミスルトウさんがあの戦場で立てた土地には精霊の力を増幅する場所と、そうでない場所の二種類が存在し、緑霊の森とユミル自由同盟がその増幅する場所のではないという仮説と、自然の象徴である精霊の存在によって、気候条件を無視した植物の栽培が可能になるのではないかという仮説ですが、私もこの二つの仮説は正しいものだと考えています。今から試すのはこの二つの仮説を補填するものです。契約応用式召喚魔法・紅羽」


 召喚の魔法陣が顕現し、中から紅羽が飛び出した。


『お呼びですか、ロ……アネモネ様』


「急に呼び出してごめんねぇ。紅羽さんって精霊を呼び寄せることってできるかな?」


『できます……が、私が呼ぶよりもアネモネ様がお願いした方が早いと思いますわ。エルフは唯一精霊に仮名をつけることで認識することを可能にし、精霊力を与えることで力を借りることができます。しかし、アネモネ様は人間でありながらエルフ以上に精霊との親和性を有していますわ。この土地は緑霊の森やユミル自由同盟のような場所に比べたら精霊は遥かに少ないですが、それでも望めば集まってくると思いますよ』


「……一つ仮説を聞いてもらってもいいかな? これまで緑霊の森やユミル自由同盟は特別に精霊に好かれている土地だと思っていた。でも、本当は順序が逆だったんじゃないかな? 精霊が沢山集まった場所はより精霊にとって住みやすい土地になる。緑霊の森は昔からエルフが住んでいた土地で、ユミル自由同盟は何らかの理由でエルフが放棄した後に獣人族がその豊かさに目をつけて移住した土地……なんじゃないかなって思ったんだけど、間違っているかな?」


『流石ですわ、アネモネ様。私達ユーニファイドの精霊は精霊力をエネルギー源としています。そのエネルギーは基本的に世界に量に差があるものの存在するのですが、その力を精霊器官により増幅、貯蔵することが可能な性質を持つエルフが住む地域では僅かに漏れ出る精霊力を目当てに精霊が集まってくるようになります。精霊力を行使すると、余剰の精霊力が精霊に供給されるため、精霊がその地に集まるようになり、精霊力は精霊が存在する場所で生成されるという循環が発生し、その相乗効果でアネモネ様がスポットと呼ぶ精霊の集まる土地が誕生するのですわ』


 うん、試す前に紅羽から裏付けが取れちゃったねぇ。


「もう裏付けが取れてしまいましたが、ミスルトウさんを今回お呼びしたのは先ほどの仮説を実証実験で確認して頂くためでした。この地に精霊を集めることで農地改良が可能かという実験をし、ミスルトウさんの二つの仮説と足し合わせて精霊と土地に関する一つの答えを導き出す……といっても、これを利用して滅多矢鱈に精霊式農法を導入するつもりはありません。かなり個人の力に依存してしまいますし、エルフの主産業を奪ってしまうことにも繋がりますから」


「アネモネさんはその辺りのバランスを考えずに行動をする方ではないことは存じているので心配ありませんが……では、具体的に何を育てるのですか?」


「そうですわね。……基本的にはこれまで開拓村で育ててきたものをそのまま育てることになりますが、折角ですのでこの世界では入手できなかった百味胡椒オールスパイス、熱帯原産のアラビカコーヒーノキ、希少な薬草、それから地上ではまともに育たないとされている世界樹ユグドラシルと、ちょっとポキッとちょろまかしてきた栽培難度お高めのガオケレナ、黒幹……尖ったものばかりですが、この辺りは試してみたいですね」


「……アネモネ、さらりととんでもないことを言った気がするのだが……ポキッとちょろまかしたのか? 【生命の巨大樹ガオケレナの大集落】のシンボルを」


「まあ、大丈夫ですよ? ちょっと枝を折っただけですし、すぐ治癒魔法で治しておきましたから。私ってちょっとした収集癖がありまして、色々と集めてしまうんですよね」


 「ちょっとしたじゃねぇだろ、ってか、いつまで猫被っているんだ」っていうアクア達のジト目が痛い。


生命の巨大樹ガオケレナは別にいいのですがぁ……ユグドラシルも植えるのですかぁ? まさかぁ、マグノーリエとプリムヴェールが飲んだという二千年もののユグドラシルの樹液酒を……」


「あれならまだいくらかありますから飲みたいならプレゼントしますよ? ……まあ、二千年ものはエルフにとっても百年ものや二百年ものとかとは扱いが違うでしょうね。自然発酵以外の方法なら、発酵速度を能力で早めるか、時間を加速させるか……まあ、ユグドラシルの樹液自体は上品な甘味ですし、蜜を煮詰めたシロップも利益を上げられると思います。貴族向けの商品になりそうですが……《浮遊城ホワイトリリー》には街路樹感覚で植わっているんですけどねぇ」


 まあ、《浮遊城ホワイトリリー》は神話級のものがゴロゴロ転がっているような異郷だし、地上とは比較にならないんだけどねぇ……文字通り、掛けた金額が違うんだから。


 その後は開拓した土地に育てるものを植える作業と開拓村用の門が設置され、ビオラ商会の支店を中心に貴族向けの邸宅やマンション、社宅用の建物が立ち並ぶ都市区画の建設作業を進めた。ルイス達が何度も常識を揺さぶられて放心状態になっていたけど、これで驚いていたらこの先やっていけないよ?

 魔女の森ウェネーフィカ・ネムスとの間に相互の認識を阻害する結界と魔物除けの強固な結界を設置することも忘れない。こんな近く……ってほどじゃないけど、大きな建物が建ったらプライベートを侵害されかねないからねぇ、その辺りは気を遣ったんだよ。


 こうして、ボクはその日の内にやるべきことを全て終え、後のことはモレッティに任せてラピスラズリ邸に戻った。……さて、帝国潜入前に少しだけ休暇を過ごさせてもらいますか。溜まっている仕事も終わらせなきゃだねぇ。

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