Act.6-8 オニキスの愉快な仲間達、という名の問題児達。 scene.1 上

<一人称視点・アネモネ>


 ファイス=シュテルツキン――漆黒騎士団の副団長補佐の地位にいる人物で、下町で育った赤毛の青年といった風貌の華奢な男。

 彼はどちらかといえば臆病な性格で、極度の女好きで、逃げることばかり考えている。

 手先ばかり器用なので死体のフリや、卑怯な技ばかり得意になった二十歳で、その技をスカート捲りや覗きなどのしょうもないことに使う。

 しかし、その一方で本当に仲間に危機が及び、追い詰められた時には覚悟を決めて戦うことができる。そのことは、オニキスからも評価されており「やればできる子」だと思われている。

 【セクハラ男】、【騙し討ちの天才】、【狼少年】などの不名誉な異名を持っている。最年少で入隊し、その後一歳年下で入隊したウォスカーにはしばらく先輩面をしていた。漆黒騎士団の問題児その二。


 と、まあ彼の紹介はこれくらいでいいんじゃないかな?

 要するに、ファントの直属の部下にあたる副団長補佐で、ウォスカーに匹敵する問題児ということになる。

 今日も得意の死体のフリを駆使して堂々と侍女のスカートの中を覗きつつ驚かせようとしていたんだろうねぇ……よく出禁にされないよな、コイツ。


 侍女達はファイスを見た瞬間に顔を顰め、遭遇するよりも大回りした方が被害は少ないと瞬時に判断したようで、優雅さを崩さない程度に大急ぎで来た道を戻っていった。どうやら、ファイスの顔は危険人物として覚えられているらしい……ってか、そんだけ同じこと繰り返していたら流石に覚えられるだろ?


 ボクは特に気にする様子もなく、そのまま廊下を歩いた。スカートを抑えずに歩いたことで、風で僅かに広がり、死んだフリをしていたファイスの目にもスカートの中が見えたらしい。僅かに嬉しそうに口元を歪めるファイスにボクは不快感を表す訳でもなく――。


「……一体何が楽しいんですか? 私にはそのスカート覗きの趣味の良さがさっぱり分からないのですが?」


 と、死体のフリをしていることは真っ向無視して、悪意ひとつない純粋無垢な瞳を向けた……こういう演技は得意なんだよねぇ。


「えっと、アネモネさんだったっけ? 女の人には分からないと思うんだけど、覗きっていうのは男のロマンなんだよ? といっても、最近はスカート捲りは成功しないし、王宮のメイドのスカートって長いからなかなか覗きは成功しないじゃん? だから、俺はスカートじゃなくて下から見る大人のお姉さん達のお胸を観察しようと思ったんだけど、まさかストッキングじゃなくてガーターとガーターストッキングで無防備に近づいてくる大人のお姉さんがいるなんて幸運だったよ! しかし、随分と扇情的な下着を履いているんだね、黒レースのショ――」


 流石にイラッときたので、思いっきりファイスを蹴り上げ、スカートが捲り上がるのも気にせずボレーシュートで蹴り飛ばした。

 面白い軌道で飛んでいったファイスはそのまま廊下を飛んでいき――。


『なるほど、面白そうな本ですね。次は是非その本を借りさせて頂きます』


『お待ちしていますね』


 運の悪いことに・・・・・・・、仲良く本を抱えながら会話する二人の女性の近くに落下した。

 一瞬、目を見開いた銀髪の女性だけど、その人物がファイスであることを認識した瞬間、汚物を見るような視線を向け――。


「こんなところでまた覗きですか? 相変わらず変態ですね、生ゴミ。生ゴミは生ゴミらしく土に帰ったらどうですか? いえ、失礼致しました。土がお可哀想ですね」


 毒舌の刃でグサグサとファイスを突き刺した。隣の女性も、それを止めることはなく、ため息を吐きながらファイスの頭をグリグリと踏みつけている銀髪の女性と一緒に汚物でも見るような視線を向けている。


 フレデリカ=エーデヴァイズ――漆黒騎士団の騎士団員で銀髪の二刀流の女剣士。普段は分厚い本を読み漁っている。

 ジト目がデフォルトで感情の起伏に乏しく毒舌だが、文章での会話ではハートマークなどを多用する。また、可愛い物好きで私室はプリンセスの部屋のように全面ピンクで天蓋付きベッドが置かれ、沢山の縫い包みが置かれている。


 ジャスティーナ=サンティエ――王族と親密な関係にあるサンティエ公爵家の三つ子の長女でオニキスの友人達からは少女司書と呼ばれている。

 くすんだ金髪の端正な顔立ちに柔和な印象の新緑色の瞳を持つ二人の弟によく似た少女でフレデリカとは親友の関係にある。

 彼女の三つ子の弟には兄のヨナタン=サンティエ、弟のジョゼフ=サンティエの二人がいる。


 ヨナタン=サンティエ――オニキスの友人達からは悪魔の少年司書の兄の方と呼ばれているドSで、くすんだ金髪の端正な顔立ちに柔和な印象の新緑色の瞳を持つぱっと見優しげな少年。

 

 ジョゼフ=サンティエ――オニキスの友人達からは悪魔の少年司書の弟の方と呼ばれているドSで、ヨナタンそっくりのくすんだ金髪の端正な顔立ちに柔和な印象の新緑色の瞳を持つぱっと見優しげな少年。


 この二人は姉ジャスティーナと同じ司書だけど、ジャスティーナは完全にドS趣味に走っている弟達に見切りをつけていて、マイペースに生きている。二人の弟とは違って優しい性格だけど、完全な博愛主義者という訳ではなく言いたいことはきっちり言って、意思表示をしっかりするオニキスの友人の中では珍しいレオネイドと張るくらいの常識人だねぇ。


「お久しぶりです、ジャスティーナ様、そちらの騎士様は初めまして。申し訳ございません、覗き魔を蹴り飛ばしたらそちらまで飛んでしまいました」


「フレデリカ=エーデヴァイズです。うちの覗き魔が大変失礼致しました。……ビオラ商会の会長様ですね、お噂はアクア様とドネーリー様から聞き及んでおります。……しかし、ここまで飛ばすとは相当な脚力がおありなのですね。白氷騎士団の騎士団長の剣を受け止め、蒼月騎士団の騎士団長のヅラを吹き飛ばした強さ、以前から興味を持っていました。機会がありましたら、拝見させて頂きたいものですね。……そう身構えなくても結構ですわ。私は他の脳筋共と違って初対面の相手に剣を向けるような無粋な真似は致しませんから」


「いえ、ただ美女二人が並ぶ姿はやはり素晴らしいものだと思いまして。尊いと申しましょうか、絵になるというべきでしょうか? もしよろしければお二人の絵姿を描かせていただいてもよろしいでしょうか?」


「「「はっ?」」」


 ボクの言葉が余程驚きのものだったのか固まるフレデリカとジャスティーナと、何故か発言権を与えてないのに口を開いたファイス。


「もしかして……アネモネさんって女の子同士の絡みが好きなのかな?」


「ご存知ありませんでした? 私はガールズラブ――百合を愛でるのが三度の飯より好きなのですわ」


「確かに、あの陛下が招喚した方が普通の方ではないとは思っていましたが……アネモネ様はそういうご趣味をお持ちだったのですね?」


「逆にそういう趣味を持っていてはいけないのでしょうか? 私は女の子が好きです! 女の子同士が愛し合う姿を見るのが好きです! 一体何の問題があるというのですか!?」


「開き直ったよ、この人!?」


 全く心外だよねぇ……この愚かな覗き魔は――。


「もう一回いっぺん吹っ飛びやがれ――でございます!」


 高速でトゥキックの要領でファイスを蹴り飛ばす。

 超越者プレイヤーの脚力は凄まじく面白いようにファイスは飛んでいき――。


「ぐびゃっ……」


 神経質そうな銀縁眼鏡をかけた美丈夫に激突しそのまま目を回して撃沈したファイス……まあ、すぐにボコボコにされたことを忘れると思うけど、記憶力皆無だし。

 しかし、意識が吹っ飛んで良かったねぇ……飛んでった先、お前の苦手なモネじゃん。


 モネはズレた眼鏡を直すと、氷のような凍てつく双眸をボクに向け、至って真剣な表情で言葉を紡いだ――。


「素晴らしい一撃でした。しかし、まだ満足はしておりません。さあ、打ってください」


 途端、フレデリカとジャスティーナの目が揃って不快感を露わにし、虫螻でも見るような冷たい視線を向ける。


「打てと言われて打つ奴がどこにいますか!? 派手に吹っ飛びなさい――ホリゾンタル・ターンキック」


 「千羽鬼殺流・貪狼」で距離を詰め、橙色の輝きが宿り、腰を回すようにして足を横から回して上足底で敵を蹴り飛ばす体術系ウェポンスキルを発動して、モネを壁まで蹴り飛ばした。


「なかなか素晴らしい蹴りだったな! 嘸かし、素晴らしい筋肉を持っているのだろう? フンヌッ!」


 筋骨隆々な巨漢を先頭によく知る騎士達が廊下の向こうから歩いてきた。


 彼の名はドロォウィン=シュヴァルツーテ――漆黒騎士団の騎士団員で筋骨隆々な騎士で筋肉を愛する男。一日に何十時間も筋トレに費やし、四六時中筋肉のことしか考えていない筋肉バカな脳筋。

 武器は矛を愛用し、巨体から繰り出される薙ぎ払い攻撃は一度に大量の敵兵を殲滅する。

 ウォスカー、ファイスに並ぶ問題児で、個人的には一番相性が悪い人物……全く、筋骨隆々のどこが素晴らしいんだろうねぇ? 暑苦しいだけじゃないか。


 後のメンバーは、漆黒騎士団騎士団長オニキス、漆黒騎士団副団長ファント、団長補佐ウォスカー、銀星騎士団騎士団長ファンマン、騎馬総帥レオネイド、臨時メンバーのアクアとドネーリー……仲の良いメンバーで部隊を超えて任務を遂行するっていう例の奴ねぇ。


「あっ……お嬢様が露骨に嫌そうな顔をしている」


「そりゃ、マッチョを嫌ってマッチョ像を嬉々として破壊する親友だぜ? ああ見えて顔に出る時は露骨に顔に出るからな……本当に嫌なものを見た時は」


「ドネーリーさん、ああ見えてってどういうことでしょうか? まさか、私だって女狐だと思われておりますか? オホホホホ、私は清廉潔白な普通の商会長ですわよ?」


「いやいや、そりゃねぇだろ!? ……しかし、確かに女狐って感じじゃないんだよなぁ。シューベルト相手に笑いながら斬撃放つって女狐っていうよりただの戦闘きょ――」


「ファンマン様、私、失望致しましたわ。女性に優しい紳士だと思っておりましたのに、まさか私をアクアと同列に並べるだなんて……」


「おい、お嬢様、そりゃどういうことだ? まさか、可憐な美少女の私のことを戦闘狂だなんて思っていませんでしたよ……ね」


「あら、察しがいいですわね。ぼんやりでうっかりな性格ですのに」


「……なんかどこかで聞いたことがある性格ですね」


「「――おい、相棒!? その反応はねぇだろ!? どう考えてもお前の性格――」」


「アクア、アネモネさん、眉間にしわを寄せて……便秘か?」


「違いますッ!」


「すぐに腹事情と繋げるのはとてもいい趣味だとは思えませんわ。少なくとも女性相手にそれはやめた方がよろしいかと」


「うむ、そうだな」


 ……これでウォスカーが学習してくれる訳がないんだよねぇ。だって、彼の脳味噌は異世界なのだから。


「……おい、なんかシューベルトが物凄く怒りながらこっちに向かって走ってきている気がするだが……今回の任務、シューベルトに声を掛けたか?」


「いっけねぇ、忘れてたぜ! あはは、逃げるぞ!!」


「いや、逃げられないっぽいですよ、ファンマン先輩。――反対方向からヅラが来ました!」


 前門のシューベルト、後門のポラリス……これ、どう考えても後者の方だな。

 ただ、部下を引き連れているポラリスの後ろに悪魔の少年司書の双子が見えるんだけど……さて、楽にこの状況を打破して部屋に戻るにはどうすればいいんだろうねぇ? えっ、『全移動』? ……でも、それなんの解決にもなってないからねぇ。

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