百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.5-91 ※ド=ワンド大洞窟王国は観光立国ではありません scene.1
Act.5-91 ※ド=ワンド大洞窟王国は観光立国ではありません scene.1
<一人称視点・アネモネ>
「さて、国を見て回るとは言ったものの……」
同盟を組む前の段階、場合によっては互いに干渉しないという決定になるかもしれないから直接ドワーフの職人のところに行ってドワーフの技術レベルを確認するのはグレーゾーン。
武器や防具作りでも有名なドワーフの本領を確認すべく工房に……って言ってもさっきあっさりディグランの剣をぶった斬っちゃったし。
魔法陣の刻印辺りも得意な種族みたいだけど、ボク自身もやろうと思えばできるし、そもそも『
一種類の魔法を大気中の魔力や自身の魔力を魔法陣という技術はそれなりに凄いものではあるけど、ボクにとってプラスになるとは言い難い。
「アリーチェさん、何かおススメな所ってない?」
ということで、まずは暗部所属で監視役として付いて来ているアリーチェ=ヴォン=ライジャス=ダ=フェデッルにおススメの場所を紹介してもらうことにした。
このアリーチェという侍女は名前からも分かる通りフェデッルという区画の出身でド=ワンド大洞窟王国の首都にして玄関口の王都区画ド=ワンドに上京したのは成人してからみたいだけど、まあ、長いこと住んでいるみたいだしおススメの場所の紹介はできると思うんだよねぇ。
ちなみに、各区画は貴重な金属等を採掘して生まれた洞窟を拡張する中で作られたもので、現在は二十四区画あるそう。
「皆様が好まれるような場所はないかと」
「まあ、そうだろうねぇ」
ド=ワンド大洞窟王国は物を生産して販売する製造業メインの国家で観光を目的とした場所ではない。
ド=ワンド大洞窟王国を主に訪れるのは獣人族の商人くらいだからねぇ。彼らも商取引が目的で観光は目的にしていないからごく一部の例外を除けばこの国は製造と魔法技術と軍事特化なんだよねぇ。
「意外とこの国って魅力ないっスよね? 昨日と一昨日はずっと宿に引きこもっていたっス」
「サーレも一日暇していたのです。カエルラだけは朝早くから宿を飛び出して行きましたが……」
「あー、キャバクラやクラブねぇ」
女性陣全員からジト目を向けられるカエルラ。
まあ、元々行商人として活動しているのは男性がほとんどみたいだし、彼らをターゲットにして外貨を得ようとする商売が発達するのも世の常。あっても不思議じゃないよねぇ。
「……お嬢様、そういうものご存知だったのですね。確か、享年十七歳――そちらの世界では未成年だった筈じゃ?」
「まあ、伝があってそっち方面にも出資はしていたからねぇ。打ち上げとかで何度か利用させてもらっていた店もあるし。まあ、その店も胡蝶さんっていうホステスさんが切っ掛けでちょっとした経営難に融資をしたことから始まったお付き合いで、いつからかホステスさん達の忘年会に呼ばれることも増えたけどねぇ。あの人も生粋の百合好きで女の子がいっぱいいる職場で働きたいからっていう理由でホステスを始めてナンバーワンまで登っちゃったっていう変わり者だったからボクと胡蝶さんが参加するともれなく百合祭になるんだけどねぇ」
「あー、つまり
まあ、ディランの言う通り美空とボクは同類だねぇ。
彼女には彼女の不思議な引力というか、影響力みたいなものがあって、最初は割とギスギスした職場だったみたいだけど美空がホステスを始めるようになってからホステス同士の仲も少しずつ良くなって、中には百合に目覚めた人もいたみたいだし。
実際に面倒見も良くてリアルでもゲームの中でも人の中心にいるような人なんだけどねぇ。ただ、美空を嫌う人が一定数いるのもまた事実……その原因はボクを引き抜こうとした例の一件で、ボクを女神かなんかだと勘違いしている
ただ、月紫さん達の心証もそこまで悪いみたいじゃないし、本当に嫌っている連中はリーリエの容姿ばかりに目を奪われていてに夢を見過ぎている一部の連中だけ――全く、本当の意味で女神なのは『神聖歌姫』の✧Étoile✧さんと『桜花猫姫』の桜猫さんの二人だって。
「ちなみに、他の区画を見て回るのは?」
「国王陛下から認められているのは王都区画ド=ワンドのみです」
「……だよねぇ」
結局、城下町を巡りながら食事を楽しんだりしつつ、時間を潰すことになった。……これって、ド=ワンド大洞窟王国に来た意味が本当にあるのかな?
◆
連絡用の水晶玉経由で、王宮への招集が掛かったのは二時間後。
ボク達はボロボロの謁見の間……ではなく、先程謁見の後に使用した応接室。この場所を選んだのは謁見の間がボロボロで悲惨な状況になっているのをこれ以上見られるのは自国の恥だから……という訳ではなくて、謁見――つまりド=ワンド大洞窟王国の方が立場が上、という訳ではなく対等な立場であるとアピールしたいという意図からだと思う。
まあ、あれだけやらかしたんだからこれ以上傲慢だと受け取られかねない行動は取れないよねぇ。
応接室にはディグランだけではなく、この国の幹部達の姿もあった。
ドワーフには珍しい長身でローブ姿の神経質そうな男、大臣ハイン=ヴォン=ヴェルデヴォロ=ダ=ド=ワンド。
軍服風の衣装を身に纏ったドワーフらしい背の低く屈強で髭を蓄えた見た目の軍部の最高司令官パーン=ヴォン=マジェボルツ=ダ=ド=ワンド。
白銀の鎧に身を包み、剣を帯刀しているドワーフの平均身長から考えればやや背の高く、ドワーフの男としては珍しく体毛が薄めの優男、宮廷騎士団長ロックス=ヴォン=ハルシャタ=ダ=ド=ワンド。
オーソドックスな魔女を彷彿とさせる三角帽子を被り、黒のドレスローブを纏った金髪碧眼の性別不明、宮廷魔法師長のヴィクトス=ヴォン=カイネハリス=ダ=ド=ワンド。
侍女服に身を包んだ少女のような見た目の女性、暗部の長兼侍女長のエリッサ=ヴォン=リゼローズ=ダ=ド=ワンド。
さっきは姿が無かったハインも含めて全員揃っているみたいだねぇ。
「待たせたな。観光は楽しめたか?」
「美味しいものをアクア達も食べられたし、ちょっとした騒ぎになったけど……まあ当初考えていた観光とは違う形になったけど、それなりに楽しめたよ」
「……アリーチェさん、貴女がついていながら騒ぎとは、一体どういうことですか?」
最初はアリーチェの職務怠慢を疑ったエリッサだけど、顔を青くしているアリーチェから事情を聞くうちに同情し始め、最終的にこの場にいたド=ワンド大洞窟王国側の全員がアリーチェに同情する事態になった。
まあ、それも仕方のないこと。プリムヴェールとマグノーリエは溜息を吐いて、アルティナとサーレは若干引いていて、カエルラに至っては完全に正気を失っていて「一回の食費だけで金貨が……」とぶつぶつ呟いて上の空になっている。
まあ、ボクの財布はそこまで痛んではいないけどねぇ。それでも普通の金銭感覚だととんでもない出費だけど。
「まあ、アクアとディランさんの食欲は底無しだからねぇ。まだ露店の食べ物をほとんど食べ尽くしたレベルだったからまだマシじゃないかな?」
漆黒騎士団のメンバーは総じて大喰らい。燃費が物凄い悪いけど、途轍もないパワーを発揮することも多い。
その性質がアクアとディランにも受け継がれているからとにかく食べる量は尋常じゃないんだよねぇ。
「店には迷惑料込みで支払ったし、問題は……多分ない、と思いたいけど。……食材の補填もしておいた方が良かったかな? まあ、それは後で再度店と交渉するとして……。それで、結局同盟か鎖国かどっちにするか決まったの?」
「満場一致で同盟を結ぶという意見になった。まあ、あれだけの利益を提示された以上、多少のデメリットには目を瞑るしか無かろう。エルフもそう考えたからこそ、同盟を結ぶことを決めたのだろう?」
「いえ……確かに、人間に対する怒り身を任せず、冷静な判断で損得を見極めて同盟か鎖国かを選んで欲しいというプリムヴェールさんのお父様――族長補佐のミスルトウさんのお言葉の効果でそれぞれがエルフの未来を考えた結果として同盟を結んだ……と思いたいですが、最終的にはブライトネス王国の料理の魅力に取り憑かれたお母様がゴリ押ししただけなような気がします」
最後は、炊き出しで舌を肥えさせて強引に票を傾けさせたからねぇ、エイミーンは。ミスルトウの演説で折角いい雰囲気で投票に入れた筈なのに、エイミーンが欲をかき過ぎたからねぇ……うん、一生言われ続けるんだよ?
「それじゃあ、同盟を結ぶってことで決まりだねぇ。一応、公平に行きたいからドワーフに提供する技術に関する説明は他の同盟の主要メンバーも交えてしたいから……ちょっと時間をもらっていいかな?」
ディグランに許可をもらってからアクア達を応接室に残して『全移動』でラピスラズリ公爵家の自室に飛び、そこで王宮の侍女服に着替えてから王宮に再び転移して統括侍女のノクトの部屋へ。
「――最近、途轍もなく美しい謎の侍女がいると噂になっていますよ。全然溶け込めていませんからね」
「そう言われましても、これが一番目立たないですから。三歳の公爵令嬢が王宮を歩いている方が不自然ですよ」
といういつものやりとりを交えつつ、ノクトにラインヴェルド達に「ドワーフと同盟を結べそうだから、進めている会議にド=ワンド大洞窟王国の主要メンバーを参加できるようにしてもらいたい」と伝えてもらい、結果的にボク達の方が地下三階の冷暖房完備の会議室に移動することに……って、なんでそこで会議しているの!? そこってボクの記憶違いじゃなければ、ボクが拡張した地下施設の筈なんだけどなぁ〜。
ちなみに、本日はクソ陛下達がサボったせいで謁見がキャンセルされている訳ではなく、元々会議のために謁見が最初から入っていないそう。まあ、今の最優先事項は多種族同盟の方だけど、内政の仕事が減る訳じゃないから、そっち関係は全部簡略化してアーネストと文官達で必死こいて頑張って進めているみたいだけど、アーネストは多種族同盟の方でも仕事がある訳で…………うん、過労死してないといいけどねぇ。
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