Act.5-84 極寒山脈〜目指せ、フォトロズ最高峰! 砕け、勇者(筋肉)の石像!〜 scene.2 上

<一人称視点・ネメシア>


 フォトロズ大山脈地帯は一万メートル級の山が三座、九千メートル級の山が八座、八千メートル級の山が十三座、七千メートル級の山が百座を超えるというアホみたいな難易度を誇る。

 大きく北フォトロズ、中央フォトロズ、南フォトロズに分かれ、シャマシュ教国・オルゴーゥン魔族王国側からは北フォトロズ、中央フォトロズ、南フォトロズと三つの山脈を越えなければド=ワンド大洞窟王国に到達することはできない。逆もまた然り。


 さて、今回ボク達はどこに行くか……というと、流石に北フォトロズや中央フォトロズに行く訳ではない。そもそも、国王に謁見する準備が整うまでそう時間も掛からないと思うからねぇ。

 ボク達を国に入れるか、門前払いするか、兵を出して殺しに来るか、あの警備隊員のドワーフに託した書状が国王に届くのであれば、その三つのいずれかの行動を取るか早急に決めると思うからねぇ。反対に書状が届かなければいつまで経ってもボク達は謁見の機会を得られない。いずれにしても結果はすぐに出ると思う。


 そう山登りに時間を割いてはいられない。挑戦する山は一つ……といっても、それが標高一万百メートル、フォトロズ大山脈地帯の最高峰ってのは笑えないけど。

 そういえば一年前……いや、未来でか。ボクが冗談めかして「単純に敏捷と体力を上げたいならフルマラソンとかアドベンチャーレースとかをやってとにかく身体をイジメ抜けって話だねぇ。三百名山制覇とか、大陸横断レースとか、エベレストやK2登頂を目指すのも効きそうだねぇ」なんて言ったけど、エベレスト以上に過酷な修行場がこんなところにあったんだねぇ……灯台下暗しっていうよりは前人未到の空白地帯だけど。


「一万メートルあるし、真面に挑戦したら大変だから各自、闘気で身体能力を向上させて、治癒闘気を巡らせていこうねぇ。酸素薄くても治癒闘気回しとけばとりあえず苦しくても生命維持はできるってボクの闘気の師匠が吐蕃の山奥に住んでいる闘気修験者から聞いたみたいだし。――それじゃあ、纏ったら行こうか」


 全員マナオーラと武装闘気、迅速闘気又は神速闘気、ボクは金剛智證通と耐魔智證通と剛力智證通、内活智證通を発動して真月達の後を追う。


「おっ、なんか出てきたなぁ……魔物か?」


 何故かプルっとした見た目の氷色の魔物と、同じくプルっとした見た目のマグマ色の魔物――名付けるならアイス・プリンとマグマ・プリンと呼ぶべき存在が姿を現した……やっぱり、ここって火属性の敵も出るんだねぇ。

 後は霜を纏った蜈蚣の化け物や氷の装甲を持つ蜥蜴、全身氷で覆われた蜘蛛など……うん、圧倒的に氷属性の魔物が多いみたい。


「それじゃあ、一丁暴れるか! いくぞディラン!」


 アクアとディランが『光を斬り裂く双魔剣カレドヴールッハ』と『闇を斬り裂く真魔剣フェイタル・エリュシデータ』に武装闘気と覇王の霸気を纏わせると、地面を蹴って弾丸のように飛び出していく――。


「あの二人は本当に相変わらずだな。……しかし、この山は相当な標高なのだろう? あんなペースで飛ばして本当に大丈夫なのか?」


「あの二人の体力は底無しだからねぇ。今の二人なら余裕で登頂できると思うよ? 折角だし二人も色々と試してみればいいんじゃないかな? 体力が減ったらゆっくり休めばいいし……ここの魔物は冒険者ギルドの魔物リストにも登録されていないから、素材部位に適正な値段を付けられないし、好きにぶっ壊しちゃっても問題ないからねぇ」


 別に魔物を素材回収できないところまでズタボロにしたことを今でも根に持っている訳じゃないよ? ……ないよ?


「好きに暴れていい……ということは本気を出してもいいのですか?」


「いいよ? 大魔法使って魔力減ったら神水飲めばいいし、他の人の相手している魔物を奪いさえしなければ好き勝手やっていいんじゃないかな? (……後でド=ワンド大洞窟王国から苦情が来る可能性は無きにしもあらずだけど)」


「……それなら、私も大魔法をどこまで撃てるか試させてもらうとするか」


「プリムヴェールさん、良かったら精霊術法の練習をしてみませんか? 私の《精霊視》が切っ掛けになってプリムヴェールさんも精霊を認識できるようになれば、きっと精霊術法を使えるようになると思います」


「……本当に、私にも精霊を……」


「元々エルフは精霊の友だった種族だとお母様が仰っていました。私達はその認識の仕方を忘れている……でも、切っ掛けさえあればまた昔のように姿を見ることができるようになると思うのです。プリムヴェールさんなら、きっとできます!」


「マグノーリエ様……いえ、マグノーリエさん。ご指導よろしくお願い致します」


「そんなに畏まらなくていいよ! ……本当はいつも与えられてばかりだし、少しはプリムヴェールさんにお返しがしたいなって思って……」


 うん、最高だねぇ……眼福眼福、疲れが取れていくよ〜♡


「ローザさんも相変わらずですね。……お、女の子同士が仲良くしているところを見て、本当に癒されるのですか?」


ボク達みたい百合好きな人はそういう光景を見て癒されるんだよ? 例えば、緑霊の森で最初に会った時からずっと言っているけど、騎士様タイプのプリムヴェールさんとお姫様タイプのマグノーリエさんって絶対にいいカップリングだと思うんだ♡ 騎士のプリムヴェールさんがお姫様のマグノーリエさんを守って……っていうシチュエーションも勿論いいんだけど。プリムヴェールさんをマグノーリエさんが守るっていうギャップも萌えるし、マグノーリエさんがプリムヴェールさんを攻めるっていうのもギャップ萌えだと思わない? ……例えば、前に馬車の効果でプリムヴェールさんがドレスを着た時に赤面していたでしょう? あの時、可愛いと思わなかった?」


「ろ、ローザ! その話はやめにしてく――」


「た、確かに可愛かったです。普段ドレスみたいな衣装とは無縁ですから、プリムヴェールさんのドレス姿を見て少しドキってきちゃいました。それに、赤面しているプリムヴェールさんもちょっと可愛かったです」


「わ、悪かった……あの時は私も愚かだったんだ……だから、これ以上黒歴史を掘り返すのは……」


 まあ、あれはプリムヴェールが悪いとかじゃなくて、当然の反応だと思うんだけどねぇ……しかし、赤面しているプリムヴェールを見て少し嬉しそうにするマグノーリエ……素質は前々から感じていたけど、もしかしてタチ攻めとして覚醒した……のか。


 プリムヴェールとマグノーリエは、そのまま二人で精霊術法の練習をしながら山を登って行き、ボクも精霊術法の練習を並行しつつ闘気戦闘術と仙術を駆使しながらアイス・プリンを殴り飛ばし、マグマ・プリンを蹴り飛ばし、進んでいく……と。


『ご主人様、妙な石像がありました!』


『ワォン? なんなんだろう? これ』


「力瘤見せつけているムキムキの石像あるけど……なんなんだ、これ」


「ウォスカー……っていうよりはドロォウィンみてえな身体していんな、コイツ……なんの石像だ? こいつは」


「きゃぁぁーーっ!」


「は、は、破廉恥なッ!!」


 先行していた真月達が立ち止まっているから何かあったのか……って思っていたけど。

 ちょうど千メートルくらいのところに筋肉ムキムキでボディービルのようにポージングを取る石像が……ってか、そこじゃなくてよくそのスピードで千メートルも登り切ったなって言いたいんだよねぇ? まあ、闘気とか使えば常人と山登りとは違うペースになるのは当然だし。


 えっ? そっちよりこんなところに宗教もある訳ないのに謎の半裸像がなんで置かれているんだって? いや、知らんよ。まあ、これが本来『スターチス・レコード』のどこかの山に置かれる予定だったボツ設定の石像ってのは分かるけど……ほら、石像の隣にヒエログリフで書かれた石碑が建っているし。


「えっ、これ読めるんですか? お嬢様」


「それが読めちゃうんだなぁ。シャマシュ教国のシャマシュの壁画に描かれている楔形文字も読めたし」


 昔から興味があって調べていたし、赤鬼小豆蔲師匠は仲良くなった国のトップに頼んで遺跡発掘調査に同行したことが何度もあるくらいの遺跡好きで、その関係で古代文字とかを教えてもらったこともあるからねぇ。ちなみに、小豆蔲師匠は同行した遺跡で墳墓を発掘するものを次々と呪い殺していった呪いのスフィンクスをボコしたり、地下迷宮に現地の遺跡発掘調査隊と一緒に閉じ込められて、転がってきた巨石を闘気を纏ってぶっ壊したりと、某考古学者にして冒険家に匹敵するくらいハードな冒険をしているらしい……あの人、調停者(各国の法律なんかを頭に入れておく必要がある)の仕事だけでも大変なのに凄いスペックだよねぇ。

 で……何が書いてあるの? なんとなく覚えているけど一応。




 〜伝説の勇者 ここに眠らん〜

 ボディビル・デ・マッスリュゥ

 先の キレテルの乱 デカイの乱 バリバリの乱で 武功をあげし勇者 ボディビル。

 その 筋骨隆々な身体は あらゆる漢を 惹きつけたり。

 その身に合う服は あらざりけり。




「……これは、どういう意味なんだ?」


「ネタ要素って真面目に突っ込むと崩壊するんだけどねぇ……。というか、これに関してはボクにも高槻のジジイにも責任はないし、悪いのは雪城シンパの飯島いいじま綸那りんなって言っても伝わらないか。『スターチス・レコード』でもキャラ班のメンバーだった、とにかく筋肉と男×男を愛するボクとは相入れない趣味な人がここの石像の大半をデザインしたんだけど……まあ、例の如く例のようにボツになったんだよねぇ。それがどういう訳かここに流れてきたみたい」


 飯島はゴシックロリィタを愛好して金髪縦ロールのお嬢様風の見た目にしているから、格好の趣味自体はボクと相性良さそうなんだけどねぇ……それに、雪城と飯島のカップリングも一種の百合だと思うけど、二人とも腐らせるタイプだからなぁ、しかも素材は男、相入れる訳がなかろう! 平バイト時代は高槻共々宿敵の一人だった……流石に殴り合いはしていないけどねぇ。


「……うん、やっぱりこの石像腹立つし壊しちゃうか。そもそもムキムキな男とか誰得なんだろうねぇ?」


「た、確かに破廉恥な像だが……壊してしまっていいのか? ……お墓みたいなものなのだろう? 壊したら、で、出たりとかしないのか?」


 もしかして、プリムヴェールって幽霊苦手なのかな? ……幽霊系の魔法使っていた気がするけど。もしかして、自分で作り出す幽霊はいいけど、天然ものの幽霊は嫌だとか? そんなんじゃ立派な鬼斬にはなれないよ! ……えっ、ならないって?


「それじゃあ、こんな汚らわしい像は壊してしまおう! 螺旋捻猛コークスクリュー・フィスト烈拳撃・ジ・テンペスト!」


「「きゃぁぁぁぁぁーーっ!!」」


 石像を壊すと下から石像と腐った筋肉野郎が姿を現した……というか、プリムヴェールとマグノーリエも可愛いねぇ。二人で抱きしめ合って。とりあえず、「E.DEVISE」で一枚隠し撮りしておいた。

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