Act.5-70 獣王決定戦開戦〜模擬戦を含めて全試合、実況の琉璃と解説の真月でお送りします〜(3) scene.1 下

<一人称視点・ネメシア>


「魂魄の霸気――《黒騎士》!!」


 戦闘開始早々、アクアが漆黒騎士の形をした黒いオーラを纏った。漆黒騎士は変則的な剣技の構えをして、漆黒の剣を逆手で持ち、巨大な大剣を高速で薙ぎ払う。


 ボクは素早く武装闘気を纏い、その上から神攻闘気、神堅闘気、神速闘気を重ねて纏うとアクアの大剣を受け止めた。

 ふぅ、ぶっつけ本番だけどなんとか防げたねぇ。


「神攻闘気、神堅闘気、神速闘気……三種類の闘気の極地ですね。一体どうやれば使えるようになれるのですか?」


「試合中には教えられないねぇ。終わってからなら教えてあげるよ」


 まあ、使い方は実は簡単なんだけどねぇ。各種闘気を武装闘気とは別に操作できるようにすれば、後は簡単――武装闘気が纏えるくらいになっているなら闘気自体の熟練度は大幅に上がっているから、そこからは個々の闘気の熟練度を上げた上で、それぞれの闘気の極致の形を詳細に思い浮かべればいいだけ。そうすれば、闘気の純度を変化させ、最高純度の三種の神闘気も扱えるようになるんだよ……実はもう一種類、神闘気に分類されるものもあるんだけどねぇ。


「魂魄の霸気――《影の腕》! 闘気昇纏・武装闘気! 闘気昇纏・神光闘気!」


 それが、神光闘気――まあ、なんとなく想像がつくと思うけど、治癒闘気を極めたものということになるねぇ。恒星の光と同じ性質のエネルギーを最大まで強化することで治癒の力として使うことはできなくなったけど、攻撃版の外活闘気として使う場合は治癒闘気以上の威力が見込めるようになった。……ただ、威力が強過ぎて吸血鬼じゃなくても火傷するほどの力を持っているから、纏わせる場合は武装闘気を併用しないといけない諸刃の剣なんだけどねぇ。

 ちなみに、ほとんどの闘気は水や金属と同じで治癒闘気や神光闘気を伝達するんだけど、武装闘気だけは闘気を通さない、絶縁性質を持っている。まあ、より強い闘気で攻撃されたら流石に貫通するけどねぇ。


 ボクの影から現れた五つの影の腕に武装闘気と神光闘気を纏わせて巨大な漆黒騎士を殴る、殴る、殴るッ!!

 魂魄の霸気には闘気を伝達するという性質があるからねぇ。例えば、バトルロイヤルの時にディランが自分の《影》に外活闘気を流して遠距離攻撃をしていたよねぇ? それと同じ理屈だよ。


 アクアの斬撃が影を斬り裂く。だけど、斬撃を放った剣伝いに神光闘気がアクアへと流れ込み、アクアの身体を焼く……かなりダメージを与えたみたいだねぇ。

 装備は【破壊成長】付きだからダメージを受けない……けど、アクア自身へのダメージは軽減されないからねぇ。


「【治癒陣】! 【天使之王】! 【超加速】!」


 流石に的になるだけの《黒騎士》をそのままにはしておかないよねぇ。《黒騎士》を解除して治癒闘気と【治癒陣】で傷を癒し、その上で天使化――飛翔して速度を上げてからの【超加速】発動で高速急降下斬撃を放ってきた。


飛竜の歩技ワイヴァーン・ステップ!」


 武闘家系三次元職の格闘王の習得する特技で跳躍から飛龍の如く舞い上がり――。


「阿修羅刹降龍拳!」


 そのまま武闘家系四次元職の武闘帝の習得するフィニッシュ技の奥義を発動した。竜のエフェクトが出現すると同時に、のけ反るような宙返りを決め、空中に身を置く状況であることを忘れてしまったように物理法則を無視して縦の回転を加速させていき、そこから突きと蹴りを暴風雨のように放つ。


「【劇毒之王】――劇毒八大蛇デッドリー・ポイズン・ヒドラ!」


 アクアの毒が真紅に染まり、無機物すら汚染し侵食する【劇毒之王】本来の毒が九つの首を持つ毒竜へと姿を変えた。

 『光を斬り裂く双魔剣カレドヴールッハ』から毒の九頭竜が放たれると同時にその勢いを利用してアクアは「阿修羅刹降龍拳」の射程から脱出――そして、ボクは猛毒を浴びて……随分と巧みな真似をするじゃないか。


全状態異常回復術式パーフェクト・キュア! 聖究極治癒術式セイクリッド・ヒーリング!」


 神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの状態異常回復魔法で猛毒を解除し、神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの回復魔法で体力を全回復させる。


「……危なかったねぇ。死ぬかと思ったよ」


「冗談はやめてください。……これで決まったと思ったのに武装闘気を纏ってダメージを最小限に抑えましたよね? ここまでのチャンス、早々ありませんわ。……さて、次は――どうしましょうかッ!!」


 「天使の加護エンジェル・プレッシング」で聖属性を付与して、「劇毒之纏剣デッドリー・ポイズン・フォース」で真紅の劇毒を纏わせて、更に武装闘気と覇道の霸気を纏わせて全部乗せで重い斬撃を放ってくるとはねぇ。


「――狼咬の後退ウルフバイト・バックステップ!!」


 武闘家系三次元職の格闘王の習得する特技を発動して真後ろに高速で後退――と同時に出現した牙のエフェクトがアクアに迫る。

 発動と同時に牙に武装闘気を纏わせておいた――そのまま食らえばただでは済まないだろうねぇ。


「――押し通るッ!!」


「……はっ!? そこで加速するのッ!?」


 まさか牙のエフェクトがアクアを咬む数秒手前で地面を蹴って弾丸のように加速して、《強化》の派生の《昇華》を使ってくるとは思わないじゃん。しかも、ご丁寧に《弱体化》でボクの速度も低下させてきているし……楽しいなぁ。楽しいよッ! そう来なくっちゃ!!


「魂魄の霸気――《強化》!」


 アクアに《弱体化》を掛け、ボクに《昇華》を掛けることで強化を相殺――牙を回避して一直線にボクに向かって突撃してくるアクアに向かって拳を構える。


巨神の七連拳撃オリオンズ・フィスト!」


 ペテルギウス、リゲル、ベラトリックス、ミンタカ、アルニラム、アルニタク、サイフ――オリオン座を構成する七つの星を、オリオン座をなぞるように拳で打ち、星座が完成すると打ち込まれた衝撃が共鳴し合って時間差で大打撃を与える武闘家系一次元職の武闘家の奥義でフィニッシュ技をアクアに向けて放った。


「【劇毒之王】――劇毒八大蛇デッドリー・ポイズン・ヒドラ!」


 まさか、このタイミングで「劇毒八大蛇デッドリー・ポイズン・ヒドラ」を放ってくるとはねぇ……アクアの性格からしてこのまま押し通ると思っていたんだけど。

 「巨神の七連拳撃オリオンズ・フィスト!」で七つの首を破壊した……んだけど、残る二つの首はそのまま顎門を開いてボクを飲み込んだ……あっ、かなりHPを削られたねぇ、具体的にいうと二十分の一くらい?


全状態異常回復術式パーフェクト・キュア! 八百万の神祇に捧ぐ御神楽舞!」


  【万物創造】で作り出した時計を砕いて全てのスキルのリキャストタイムを無効化して状態異常を回復させ、神職系四次元職の神子が習得する奥義でダメージ遮断の効果のある障壁と一回だけあらゆるダメージを無効化するバリアを張り、体力を全回復した上で三百秒間永続する数秒毎の回復を自身に付与した。


勇者に捧ぐ聖女の祈りプレイ・フォー・ザ・セイント! 反応起動治癒リアクティブ・ヒール! 不死鳥甦光癒ザ・フェニックス!」


 更に味方一人の全ステータスを上昇させる聖女の特技を勇者ではなくボク自身に付与し、起動回復を付与する神官系四次元職の施療帝の回復魔法と死後に一度だけHPの半分を回復した状態で復活することができる聖女の奥義の蘇生魔法を自身に掛ける。

 ……今のアクアを相手するとなると、これでも心許ないけど仕方ないよねぇ。


「闘気昇纏・武装闘気! 闘気昇纏・覇王霸気! 飛竜の歩技ワイヴァーン・ステップ――飛竜脚蹴ワイヴァーン・キック


 武装闘気と覇王の霸気を纏い、そのまま跳躍――飛龍の如く舞い上がり、アクアへと飛び蹴りを放った。


「――ッ! させるかッ!!」


 おっ、今回は真っ向勝負を受けてくれたみたいだねぇ。武装闘気と覇王の霸気を纏わせた『光を斬り裂く双魔剣カレドヴールッハ』とボクの足がぶつかり漆黒の稲妻が戦場を駆け巡る。


 ――掛かったッ!!


「阿修羅刹降龍拳!」


「しまったッ!? お嬢様の間合いだ! 【劇毒之王】――劇毒八大蛇デッドリー・ポイズン・ヒドラ!」


「逃さないよッ! 魂魄の霸気――《影の腕》!」


 アクアは「劇毒八大蛇デッドリー・ポイズン・ヒドラ」の推進力を使って間合いから脱出しようとしたみたいだけど、ボクに同じ手は通じないよ。

 アクアの足を影の腕で拘束して、「劇毒八大蛇デッドリー・ポイズン・ヒドラ」諸共アクアに「阿修羅刹降龍拳」を放った。


 劇毒に飲まれながら、ボクの暴風雨のような突きと蹴りがアクアに殺到する。


「…………危なかったねぇ。超越者プレイヤーのアカウントじゃなかったら負けていただろうねぇ」


 というか、超越者プレイヤー相手に互角に戦えるアクアってどんだけ化け物なんだろうねぇ。いくら独創級の装備で固めていても、超越者プレイヤーと互角に戦うのは難しいと思うんだけど……本当に人間離れした身体能力と戦闘センスだねぇ。



『…………はっ、すみません。魅入ってしまってご主人様とアクア選手の実況が全くできませんでした。しかし、素晴らしい戦いでしたね! まさに決勝戦に相応しい最高の試合……あっ』


『ワォン? まだ第三回戦だよ? でも、凄い戦いだったね! もうこれ以上手に汗握る戦いはないんじゃないかな? 期待できるのはヴェルディエさんくらいしかいないけど』


 二人とも辛辣だねぇ。……しかし、二人の実況と解説が聞こえないなって思っていたけど、魅入っていたんだねぇ。確かに、ボクも見気を使って会場の様子を確認する余裕もないくらい集中していたから人のことをとやかく言えないんだけど。


「……期待されても困るのじゃが。あれほどの戦いは儂には無理じゃよ」


 客席に戻ったらヴェルディエが弱音を吐いていた……おい。


「おっ、二人ともお疲れ。……相棒、俺の時、手加減していただろ?」


「……あれは限界を超えていたんだよ。超えなきゃお嬢様を倒せる訳ねえだろ?」


「そりゃそうだな。……しかし、親友もどんどん強くなっていくな。俺だって負けていられないや!」


 アクアとディラン――この二人は本当にどこまで強くなるんだろうねぇ。


(私も負けていられないな。マグノーリエ様を守るために……いや、マグノーリエさんと共に戦えるように更に精進しなければ本当に置いていかれてしまいそうだ)


(私も頑張らないと……このままだとプリムヴェールさんに置いていかれちゃうよ)


 この二人も張り合って強くなっていっているよねぇ。互いに互いを守るために、ずっと隣を歩めるように強さを求める……本当に尊い関係だよねぇ。


「それじゃあ、ボク達は一旦ジーノさん達の所に戻ろうか? ……ところでアクア、なんで最後に【守護天使ガーディアン・エンジェル】を使わなかったの?」


「あっ…………すっかり忘れていましたわ。オホホホホ」


 ……【守護天使ガーディアン・エンジェル】を使われたら実は追い込まれたのはボクだったんだけどねぇ。まあ、ダメージ遮断の障壁と起動回復、最悪の場合は蘇生も使って脱出して形勢を立て直すつもりではあったんだけど。

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