Act.5-36 使節団の再始動〜ブライトネス王国発、ユミル自由同盟行き〜 scene.7

<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>


「えっ……と、ちょっと整理させてくれねえか? 冒険者のアネモネさんが天上の薔薇聖女神教団の女神で吸血姫のリーリエさんと同一人物で、その正体がラピスラズリ公爵家令嬢のローザ様々で、緑霊の森と国交を結ぶための使節団は、元々ローザさんが香辛料を得たいがためにエルフと交渉しようとしていたのに国王陛下が便乗したっていう形で……で、この世界はローザ様の前世、圓さんが作った三十のゲーム? が形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]を得たハーモナイアっていう女神的存在によって作られたもので、その力を簒奪した神の一人がシャマシュ教国のシャマシュ。そのシャマシュによって、圓さんはクラスメイトとこの世界に召喚され、死んだ結果『スターチス・レコード』という乙女ゲーム? の世界観を色濃く受け継いだブライトネス王国の、悪役令嬢ローザに転生したと。ローザさんは一つ目はこの世界の真の神というべき存在――ハーモナイアから管理者権限を奪った神々の討伐を目指してつつ、基本的には平和な日常を謳歌したいと……話を聞く限り矛盾しているけど、流石にそこは気にしちゃいけねえから置いといて。最近の変な現象――巨大な迷宮の出現やゲートウェイの出現は複数のゲームの融合の余波みたいなもので、それは完全にランダムだからハーモナイアにすら予測できない。その中で脅威となりうる存在としてヨグ=ソトホートが存在し、ブライトネス王国の中枢はそいつに対抗できる力を求めている……と。で、俺達やヴァケラー達には冒険者達の能力の底上げのためのモデルケースになってもらうことと他に、信頼のおける事情を知っている仲間になってもらうことを求めている……ってことか。お腹いっぱいなんだが、どれから消化すればいいんだ? 何気にもう頭がパンクしそうなんだが……」


「まあ、背景をなんとなく知っておいてくれば、有事になればボクの方から依頼をするからねぇ。この指名依頼も協力者を援助して戦力強化に取り組んでもらうことと、有事の場合の連絡系統をきっちりしておくためのものだし。流石にヨグ=ソトホートの討伐とかは頼まないから安心してねぇ。そういうのに参加するとすれば……どうだろう? 宮廷魔法師は今後次第だけど、ミーフィリアさんとか、後は陛下達は動くんじゃないかな?」


「師匠ってやっぱり一流の魔法使いだったのね」


「どっちかっていうと分類は賢者だと思うけど……そもそもあの人はエルフと人間のハーフエルフじゃなくて、エイミーンさんと同じ先祖返りのハイエルフと人間のハーフっていう特殊な存在だからか魔力保有量が群を抜いて高いし、本来なら宮廷魔法師として今も一級として活躍できる方なんだよ。それに、今回の件でエルフの魔法技術を得たから更に強くなっている……ただ、ミーフィリアさんはどちらかというと魔法省寄りの研究者でねぇ、実力主義で熱血寄りで、暴力的な現宮廷魔法師団長のメリダ氏とは性格が合わなくて去ったんだよ。現に、第一王子の婚約者のスザンナさんとは魔法学園時代から現在まで親友の関係にあるし、陛下が裏の中枢会議にゲストとして呼ぶほどの重要な立場に今なお居るからさ。別に爪弾きにされている訳じゃないよ? ただ、ここ最近色々なことがあって一回庵でゆっくりしたいってことだから戻ってくるみたいだけどねぇ。丁度今日辺りには着くと思っているんだけど。まあ、今回の旅はボク達五人の少数精鋭で問題ないだろうし、ミーフィリアさんにはゆっくり休んでもらいたいけどねぇ……ボクの研究成果に興味津々だったからなぁ……応用研究のために庵に戻るって言ってたし、弟子としてきっちり休むように声を掛けてあげてねぇ」


「……分かったわ。善処してみる……」


 まあ、難しいだろうけどねぇ。あの人はあの人で変人だから……というか、陛下の周りって変人しかいないんだけど(ボクのことは棚に上げて)……人が止めても好きなことに心血を注いで身を削ってまで追い求めると思うんだよなぁ……ホント、誰に似たんだろうねぇ。


「確かに、吸血姫の超越者SS+ランク元漆黒騎士団団長SS-ランク元漆黒騎士団副団長S+ランク族長の娘Sランク族長補佐の娘Sランク……これほどのメンバーであれば、シャンタブルズム山脈越えも少数精鋭で十分に攻略できますね」


 ちなみに冒険者登録でアクアはラインヴェルドと同じSS-ランク、ディランがバルトロメオの暫定と同じS+ランク、プリムヴェールとマグノーリエはヴァケラー達より一つ上のSランクとなった。本来ならSランクが一人出現すれば称賛の声が上がって引っ張りだこになるんだけど、今回はランク上位者が多過ぎて逆に反応が少なかった。まあ、使節団メンバーで声を掛けるのが無理だから勧誘の声が上がらなかったのも大きいだろうねぇ。


「それでは、恒例? の武器支給をしましょうか。まあ、愛用の武器が一番だろうけど、幻想級の武器はその性能も桁違いだからねぇ……ヴァケラーさん達が強くなった理由の一つには武器の強化もあったし……」


「武器が変わっただけでそこまで強くなれるものなのですか?」


「まあ、それを使いこなせるだけの力量を得ないといけないけどねぇ。『聖精のロンド』の皆様は優秀ですからすぐに使いこなせると思いますよ」


「おい、なんだよ……その期待感は。万が一使いこなせなかったら滅茶苦茶恥ずかしいじゃねえか」


 色々と吟味した結果、ディルグレンには幻想級の大剣武器『ダーク・カリヴァーン』、ダールムントには『旧約聖書』のメトシェラが使ったというフレーバーテキストがある幻想級の杖『メトシェラの大杖』、ジェシカには永久凍土の氷から作られた幻想級の杖『エターナルアイス・スタッフ』、レミュアには幻想級の細剣『彗星細剣コメッツレイピア』をそれぞれプレゼントすることになった。


 『精霊の加護持つ馬車』のおかげで山登りは順調に進んでいく。たまに出てくる魔物の中で依頼の対象になっていない魔物はバルトロメオの《剣》の魂魄の霸気で倒し、依頼書にあった魔物に関しては全員で降りて討伐した。……しかし、便利だねぇ……これ。


「焔獄撃剣」


 『彗星細剣コメッツレイピア』に巨大な炎を纏わせて敵を切り裂くレミュア……魔法剣か。しかし、なかなやるねぇ……相手のアーマーレックスもかなりダメージを受けている……けど、素材採取としては焦げが付いているから値段が落ちるかな?


「月の力よ、我が武器に宿れ! ムーンライト・スティング!! テンペスタース・ファンデ・ヴー!!」


 レミュアと競うように月属性の魔法を纏わせて二十四の刺突を放つ二十四連撃細剣ウェポンスキルを放つプリムヴェール……唯一の欠点は二十四回も攻撃を喰らわせるから素材が穴だらけになることか……まあ、討伐証明部位が残っているなら依頼達成になるけどねぇ。……でも、やっぱり素材も売りたいじゃん……そう思わない?


「瀬島新代魔法――重力操作! 武装風刃黒纏ウィンドカッター・セクステット


 マグノーリエは重力操作で六体のアーマーレックスに加重して、動きを止めてから武装闘気を纏わせたウィンドカッターを放つ……まあ、まだプリムヴェールに比べたら素材は傷ついていないねぇ。


「魂魄の霸気! 【透明化】、【超加速】!!」


 アクアは《昇華》の魂魄の霸気でただでさえ高い身体能力を大幅に底上げし、【超加速】でただでさえ速いスピードを更に加速――そこに【透明化】で厄介さを加えて途轍もない斬撃を放ってアーマーレックスの頭から先が消えた。……だから素材ィィ。

 まあ、【劇毒之王】を使われるよりはマシなんだけど……君達素材回収する気ある?


「魂魄の霸気――影縫いシャドウ・ソーイング! 【積嵐雲】!!」


 一方、ディランは《影》の魂魄の霸気でアーマーレックスの影を縫い付けると『群雲のスリーピース』のスキルの効果で黒い積乱雲をアーマーレックスの頭の上に生み出して雷を落として黒焦げに……だから、素材ィィ。


「我求むは焼撃! 炎を知らしめせ――火球」


「生命を司る水よ、投槍の形成して敵を貫け――水槍」


 火球を作り出して放つダールムントと、水の槍でアーマーレックスを貫くジェシカは流石はだねぇ。剣で攻撃しているディルグレンやレミュアも含めて『聖精のロンド』は素材があまりダメージを受けないように攻撃している。……まあ、アクアとディランに関しては完全に技の試し撃ちに使っているから素材を売却しようだなんて頭の片隅にすらないと思うんだけど。


「アクア、ディランさん。部位回収をするの忘れてない?」


「えっ? 討伐証明部位さえ残っていればいいんじゃねえの? そんなに食いきれねえだろ?」


「その通りですわ。流石に私が大食らいでも食べ切れませんって」


「いや、アクアなら食べ切れると思うからッ! 二人ともエゲツないくらい食べるの自覚してよ!! ……じゃなくて、冒険者ギルドに魔物の肉や部位は売れるんだよ。折角だから売りたいじゃん。プリムヴェールさんとマグノーリエさんもそう思うよねぇ?」


「確かにご相伴に預かってばかりだからな。ローザさんの懐が少しでも潤うのならそれに越したことはないが……」


「私も注意して攻撃しているつもりなのですが……やっぱり魔物を倒すとなるとどうしても傷をつけてしまって……」


「まあ、仕方ない話だけどねぇ……でも、商人の中には首や尻尾に傷があるってだけで大幅値下げをしたり、難癖をつけてくる人もいるかもしれないからねぇ。そういった商人に関しては冒険者ギルドに報告すれば冒険者ギルドは今後の取引を考えるようになると思うけど。そうなれば商売上がったりだろうねぇ……なるべくケチをつけられない討伐の仕方をした方がいいかもしれないと個人的には思うんだよねぇ。実際、ボク達五人にはその方法がある訳だしさ。……まあ、見てて」


 統合アイテムストレージから指輪を取り出して嵌める。


「時間差移動魔法-クロック・ラッシュ・アワー-」


 オリジナル時間加速魔法「時間加速魔法-クロック・アップ・ヘイスト-」とオリジナル時間停止魔法り「時間停止魔法-クロック・ロック・ストップ-」の組み合わせ魔法を発動し、停止させたアーマーレックスに「外活闘気」を流し込んでいく。


「これが三歳児でもできる簡単な無傷で魔物を倒す方法だねぇ」


「「「「「「「「できるかァ!?」」」」」」」」


 うん、勿論冗談だよ? 冗談だって…………いや、本当に冗談だからねぇ。なんだその目……ボクなら本気で言いかねないとか、まさか思っていたりするの? ボクって一体なんだと思われているのか小一時間ほど問い詰めたいねぇ。

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