Act.4-12 エルフの女剣士のフードの少女〜情報交換と邂逅するエルフとハーフエルフ〜

<一人称視点・リーリエ>


 絶句するマグノーリエとプリムヴェールそっちのけでテントを設営し、二人を連れて厨房代わりのテントに入った。……そこに何故かミーフィリアが同行していたけど。

 ちなみに、他のメンバーは各々森の魔物と戦ったり所属の違う者達同士で情報交換や模擬戦を行っている(暗殺者に、騎士に、冒険者に、今回のメンバーは同じ戦闘職でも全然違うから互いに刺激を受けることも多いんだろうねぇ)。ちなみに、アクア、ディラン、バルトロメオの三人は魔物討伐競走に向かった……まあ、いつものことだねぇ。


「ところで、なんでミーフィリアさんまで来たのかな?」


「私が来てはダメだったか? 私も一人暮らしだからな。異世界の料理というものを学んでおきたいと思ったのだが」


 まあ、いいけどねぇ。……プリムヴェールに人間並みに嫌悪されているハーフエルフだからと、睨まれ続けている訳だから針の筵みたいな場所に居たくはないんじゃないかと思ってねぇ。


「まあ、何、慣れたものだよ。どちらにもなれず、ずっと人間の社会に暮らす中でそう言った目を向けられ続けてきた。だからこそ、人一倍実力があることを証明するために努力する必要があった……その結果が「落葉の魔女フォール・リーフィー」という二つ名や元宮廷魔法師という肩書だな。まあ、そうなればそうなったで妬み嫉みも向けられることになるし、陰口を叩かれたことも、嫌がらせをされたこともあった。エルフの血を引いているんだから、特別なんだってな。……まあ、そんなことは分かり切っていたことだ。人間だって、エルフだって、本質は変わらない。……正直、幼少の頃は父と母を恨んだよ。なんで、生まれてくる私の気持ちも考えずに駆け落ちしたんだって……。だが、もういない親を恨んだって仕方ないだろう? そんなことをしているくらいなら、少しでも認められるように方法を模索するしかない。実際に、私には沢山の友人ができた。私がハーフエルフでも関係なく友として接してくれる人間がな。人間だって全員が全員エルフを下等だと思っている訳ではないんだ。それが分かってからは少しだけ心が軽くなったよ」


 性格はどうであれ、ラインヴェルドはエルフだから、人間だから、と一纏まりの種族として差別することは無い。

 ……まあ、だからといって彼が差別主義者じゃないかと問われると全力をもって否定するけど。彼にとっては「自分のにとって面白いか、クソつまんねえか」の二者択一だからねぇ……面白くなければ人権も命もないっていういっそ清々しいまでに自分本位で極重悪人な基準で人を差別するからねぇ、あいつ。


 まあ、その基準もボクが相手をと断ずる時、つまらない奴だと断ずる時の基準とかなりの部分で共通しているから分かり易くはあるんだけど。


「……ミーフィリアさんは、ナノーグ・・・・なのですよね?」


「ああ、父はフィレンツという男爵家の出身だったのだが、母と駆け落ちする際に家から勘当されたようでな。フィレンツを名乗れなくなり、母の旧姓であるナノーグを名乗ることになったんだ。なんでも、代々エルフ族族長を務めているメグメル家の分家筋にあたるナノーグ家の出身だそうだ」


常若の国ティル・ナ・ノーグに、喜びヶ原メグ・メル……ねぇ。トゥアハ・デ・ダナーンがアイルランドの祖と云われるミレー族との戦いに敗れた後に、移住したとされる土地の名前で、妖精達の好みの棲み家であり、三通りの島々――生き物の住む島、勝利者達の島、そして水底の島と言われている場所の名前から確かに取った記憶があるねぇ……族長の家名は。裏設定だけど……となると、やっぱりナノーグはその関連かな。……ところで、ボクの知る限りこの世界には最も広大な領土を持つ人間、各地の森に隠れ住むエルフ、洞窟や炭坑の近くに国を作るドワーフ、森を住処として各部族ごとに拠点を持つ実力主義の獣人族、シャマシュ聖教教会や天上光聖女教に目の敵にされている魔族、海辺で暮らす海棲族……この辺りの情報しか持っていないんだけど、最近火妖精サラマンダー水妖精ウンディーネ風妖精シルフ木妖精ドリュアス土妖精ノーム闇妖精スプリガン光妖精アルヴ猫妖精ケットシー工匠妖精レプラコーンのいずれの種族か、或いはディーウァ=妖精クァエダムを名乗る存在が訪ねてくることはなかったかな?」


「先ほどお話にあった『Ancient Faerys On-line』の種族ですよね。……もし、知っていればもっとすんなりとあの荒唐無稽な話を信じることができたと思います」


「…………荒唐無稽ねぇ。まあ、そうだよねぇ」


「も、勿論圓さんの話は信じています! いまいち実感は持てていませんし、嘘だったらどれほどいいかと思っていますが!!」


 まあ、ヨグ=ソトホートとか、この世界における脅威の代表例みたいな人間や魔族が束になって戦ったって勝ち目がない相手ってもう既に意味不明な恐怖だからねぇ。

 この世界の人々にはボクみたいな超越者プレイヤーみたいな超人的な強さステータスがある訳じゃないし。


「まあ、とにかくそれなら良かったよ」


「…………それが無くとも、【エルフの栄光を掴む者グローリー・オブ・ザ・フォレスト】がいるがな」


 【エルフの栄光を掴む者グローリー・オブ・ザ・フォレスト】……聞き慣れないねぇ。というか、情報をくれるなんて随分とプリムヴェールも随分と丸くなったねぇ。


「【エルフの栄光を掴む者グローリー・オブ・ザ・フォレスト】って何? ボクも設定した記憶が全くないんだけど……」


「他種族排斥を掲げる若いエルフ達によって構成された組織だ。……私がお前達に向けていた敵意など奴らに比べたら生温い。…………未だに心の整理はつかないが、圓――お前達は信用に足る。私はそう判断した。……それに、裏切り者のナノーグ家の娘も、まさかそこまで人間の世界で苦労していたとは、一度も考えたことがなかった。ミーフィリアさんは、とても苦労してきたのだな」


 まあ、苦労ってレベルじゃないと思うけどねぇ。

 しかし、プリムヴェールが申し訳なさそうにするなんて予想していなかったな。彼女も結構エルフ至上主義なところがあると思っていたんだけど。


「まあ、大したことはない。私には魔法があった。興味があるものがあって、それに打ち込むことができた。その中で掛け替えのない友人スザンナもできた」


 類は友を呼ぶというか、あっちも重度の魔法ヲタだからねぇ。友達は肌色カラーパレットや種族じゃなくて、どれくらい魔法の造詣が深いかというところで選んでそうだからねぇ……きっと友達少ないだろうなぁ。

 スザンナあの人にもヴェモンハルトっていう互いに互いの趣味は・・・・・・・・・理解できないけど・・・・・・・・、互いのことを信頼しあっている仲間婚約者もいるし、まさに変人変人を呼ぶだねぇ……なんか、急にこれをボクに当てはめると何気に自爆になりそうだって気づいたんだけど……そう、ボクは何も考察しなかったんだよ。


「ところで、そもそも二人をなんで呼んだのかって話に戻るけど、エルフって食べられないものとかあるの?」


「圓はこの世界の作者なんだよな……では何故、エルフが食べられないものが分からないのだ?」


「そりゃ、設定したものには酒を飲んではならない、生臭(肉)を食せない、逆に酒を飲む、肉を食するって同じエルフでも様々なバリエーションがあるからだよ」


「何故、肉を食べないのだ? 捕らえた獲物の命を自然に感謝して頂くことが奪ったの命に対するせめてもの礼儀ではないのか?」


「……あの、お酒も。果実酒は採取した木の実……葡萄や檸檬、林檎や洋橙オレンジを使ったお酒も飲みますよ」


「エルフのお酒は二百年もの、三百年もの……この辺りはザラにあるからな。人間の場合だと百年を超えるオールドヴィンテージワインは相当な金額になる。……私はまだ三十代だから、エルフの長寿は実感したことがないが、普通のエルフでも五六百年は生きるのだろう?」


「はい、年若いエルフと言われるのは大体百歳くらいまでですね。ちなみに、私は十八歳でプリムヴェールさんは十九歳です」


「二人ともエルフの中ではかなり若いんだねぇ……。それなら、肉や酒を出しても問題なさそうだねぇ。……ちなみに、ボクのエルフ像は菜食主義者、弓を扱う、精霊を使役した独自の魔法を使うっていうのが根底にあるんだけど、弓を使うのに菜食なのかとか矛盾があって結構バリエーションが増えていたからねぇ。お酒を飲まない、肉食をしないってのは辛頭教、耆那教、仏教の肉食の禁止や最終予言教や仏教の飲酒の禁止のイメージに何と無く引き摺られたのかも……まあ、二人にも同じ食事を出せば良さそうだねぇ。……そうだ、折角だからあれも出してみようかな? エルフの二人ならお酒への造詣も深そうだからねぇ」


「……人間の作った酒か? 必ずしも古い酒が美味しいという訳ではないが……」


「大口の資金援助をしていた酒蔵から送られてきた芋焼酎と日本酒……まあ、そこそこのお値段一本三十万円はするものと、ユグドラシルの樹液から作ったという二千年ものの樹液酒。まあ、ボクはお酒をあまり嗜まないし(そもそも未成年だったからねぇ……神の舌があるから味見くらいはしていたけど)丁度貯まっていたから飲んじゃえばいいんじゃないかな?」


「「「に、二千年もののお酒!?」」」


「し、しかもユグドラシルって! 神話にも登場する神聖な樹木だよな!? そんなお酒、普通なら手に入らない……飲んでもいいのか!?」


「……まあ、《浮遊城ホワイトリリー》には何本か世界樹ユグドラシルを植えていたし、そう希少でもないから好きに飲んでいいと思うよ。腐らせておくのも勿体無いからねぇ。……《浮遊城ホワイトリリー》が今どこにあるかすら分かっていないけど、あれが万が一敵に回ったら一方的に蹂躙されて終わるだろうねぇ」


 ヨグ=ソトホートの虚空こくうを筆頭に化け物揃いだったからねぇ……まあ、全ての従魔をコンプリートしていたんだから、そりゃそうなんだけど。

 そういや、中でも強い者達を四天護神とか、七禍魔王とか勝手に呼んでいたけど、あれって引き継がれているのかな? 公式じゃなかったから微妙なところだねぇ。


「…………もしかして、世界の終焉まで秒読みなのか!?」


 ボクがそんなことを考えている間、プリムヴェール達はこの世の終わりを見たような表情で絶望に苛まれていた……もしかして、話さない方がいいことを話しちゃったかな? まあ、この話はラインヴェルドにもカノープスにも話していなかったんだけどねぇ……まず、ヨグ=ソトホートだけでも対応できない状況で知ってもどうしようもないから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る