百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.4-8 ローザ一行の初遠征と、三つのクエスト scene.8
Act.4-8 ローザ一行の初遠征と、三つのクエスト scene.8
<一人称視点・アネモネ>
……どうして、こんな状況になっているのだろうか? ……何か選択を間違えたかな?
ギルドの奥にある応接室――長ソファーに座って相対するのはシルフスの街のギルドマスターのダヴィッド=ファイフィスと、シルフスの街の領主を務めるバチスト=シルフス伯爵。
……なんで領主が出てくるのって話だよねぇ。
「まずは、お礼を言わせてください。この度は、ミーラン街道の盗賊を退治して頂き本当にありがとうございます。あの街道は同盟国のブライトネス王国との交易の要所……これで、その交易を一切の憂いなく行うことができます」
何故、バチストがこんなに大袈裟なことを言っているかというと、今回の盗賊達は全て手配書が出回っている盗賊で、尚且つこの三つの盗賊団以外にミーラン街道を根城にしている盗賊はいない――つまり、憂いになっていた盗賊が一網打尽にされたからなんだよねぇ。
「……それで、今回の件について領主である私からほんの少しばかりですがお礼と歓迎の席を用意したいのですが」
その領主バチストからの提案に対応に困り、ボクに一斉に視線を向けるヴァケラー達と、「アタシは指示に従うよ」という視線を向けてくるラル……まあ、一応許可ももらえたし話を進めさせてもらうよ。
「折角の提案ですが、お断りをさせて頂きます。実は今回は大枠の依頼がありまして、その道中で解決できそうな依頼を見繕ってここまで参りました。それに関連して、高貴な身分の方もいらっしゃいますので、あまり長居は出来兼ねます」
「そうか……高貴な身分の方ですか? 差し支えなければ依頼の内容をお聞かせ頂きたいのですが……」
「確かに、領主である伯爵様のご厚意を無に帰すという無礼な態度を取っておりますのに、理由を述べないという訳には参りませんよね。……依頼主はブライトネス王国の国王ラインヴェルド陛下で、同行者には王弟バルトロメオ殿下、ディラン大臣、護衛として元宮廷魔法師一名と隊長格二名が同行しております」
「「……はっ!?」」
予想外の状況に困惑する
「しかし、冒険者ギルドの依頼にブライトネス王国からの指名依頼などは無かった筈だ。ならば、冒険者ギルドを通さない依頼か?」
まあ、冒険者ギルドを通さない依頼……闇営業もあるにはあるんだけど、大体その内容は非合法なもの……殺人、誘拐、結婚を破談にするために女性を襲うなどなどの、明らかな違法依頼なんだよねぇ。冒険者ギルドが許可していないから、闇営業で受けた依頼に関しては冒険者ギルドは一切の助力を得ることはできない。結局自己責任の話になるんだよねぇ。
「いえ、今回は冒険者アネモネではなく、ビオラ商会の商会長アネモネとして受けた依頼です。我々とブライトネス王国の目的が一致したことで私を含むこちら側のメンバーと隊長格二名、元宮廷魔法師を護衛にバルトロメオ王弟殿下、ディラン大臣閣下のお二方を全権大使に据えた使節団を派遣することになりました。目的は緑霊の森のエルフとの国交と交易の樹立になります」
「……スケールが大き過ぎる話じゃわい。……しかし、そうなるとブライトネス王国は、亜人族であるエルフと交流を持とうとしているということになるのだろうが、そうなると天上光聖女教に反対されるのではないか?」
あそこは、魔族と敵対している上に亜人族を下等な種族として見下しているからねぇ。実はシャマシュ聖教教会と教義は似たより寄ったりなんだよ。……同族嫌悪かな?
「
唖然とした表情で固まる二人……と「アネモネさんなら本当に天上光聖女教を秒で制圧しちゃうだろうな」と全幅の信頼(?)を置くヴァケラー達。
「あっ、この話は他言無用でお願いしますよ。騒ぎになると面倒ですので(意訳:騒ぎになると色々と処分しないといけなくなりますので)」
「ああ、勿論だ……。我々は何も見なかったし聞かなかった。これで何も問題はないな」
まあ、天上光聖女教をどうする云々は別として、それ以外は知られてもどうとにもなるレベルに調整して話していたから問題ないんだけどねぇ。天上光聖女教も攻め込んで来たらそれこそ返り討ちにすればいい訳だし。
「それでは、皆様を待たせる訳には参りませんし……」
「そうですね。引き留めてしまって申し訳ありませんでした。……せめて、ギルドの外までお見送りさせて頂くことはできないでしょうか?」
「伯爵様にそこまでのお手間を取らせる訳には参りません」
「いいえ、私がしたいのです。ブライトネス王国とフォルトナ王国の交易を邪魔し続けてきた盗賊を退治してくださった皆様に何もできなかった私の自己満足みたいなものですよ……領主として、何もお礼ができなかったというのは恥ずかしい話ですからね」
いや、犯罪奴隷として売ったお金が貰える訳だし、その上懸賞金もあるからねぇ……それ以上は貰い過ぎだと思うんだけど。ボクらは依頼を受けてやってきた訳であって、シルフスの街の領主に集りに来た訳じゃないんだからねぇ。
「そこまで仰られるのであれば、断る方が無礼ですね。分かりました、お心遣いに甘えさせて頂きます」
◆
<三人称全知視点>
「ギルドでの終わったか?
ギルドを出たところで、待っていたディランとアクアと合流した。どうやら、出発の準備が終わったことを伝えるためにギルドの外で待っていてくれたらしい。
「どうでしたか? シルフスの街は?」
「ああ、
「確かにいい街だった。……
長身の上品なローブを纏った男の隣のリボンの似合うメイドは、可愛らしいその見た目に似つかわしくない男口調で、優しい笑みを湛えていた……が、その優しさの奥に深い悲しみの影が垣間見え、その表情は何故かバチストの心を深く締め付ける。
「……アネモネさん、こちらの方は?」
「メイドのアクアさんと、ディラン大臣閣下です。アクアさんはラピスラズリ公爵家の一人娘ローザ=ラピスラズリ様の専属メイドを努めておりまして、紆余曲折を経まして、現在は波長の合うディラン様とよく行動を共にしているようです。今回は
「そうでしたか…………いえ、そんな訳はありませんよね。……実は、私の大切な友人にとても似ているように思えたのですが……姿形も違いますし、お二人は王都にいる筈ですし……そんな訳はありませんよね」
アクアとディランの表情が僅かに曇ったように見えた。
フォルトナ王国は二人の本当の故郷――思い出の場所も国中にあるだろうし、友人知人も国中にいるだろう。
二人の反応を見るに、バチストも二人の親友だったのだろう。
「……さあな、俺はブライトネス王国の大臣をしているディラン=ヴァルグファウトスで、こいつは親友のアクアだ。俺はファント=アトランタって漆黒騎士団の副団長にして参謀は知らねえし、オニキス=コールサックって【漆黒騎士】のことは知らねえよ、なぁ親友」
「ああ、そりゃ知る訳ないだろ?」
(……無いって否定すればするほど浮かび上がってくる「汝の家郷は有らざるべし!」みたいだねぇ、それ。まあ、二人にそう言う以外に方法はないのは分かっているけどさ)
「そうですか……
「「いい街だよ……だから、何があってもこの街を守れ。……お前が大切だと思うものを守れ」」
「――ッ! はい、分かりました!!」
親友の面影を残す、姿形も立場も違うメイドと大臣の強い気持ちを受け取り、バチストは改めて絶対に大切なシルフスの街を守ると心に誓った。
◆
<一人称視点・リーリエ>
「……本当に良かったのかな? 二人の親友だったんだよねぇ? バチストさんって」
「まあ、な。……元漆黒騎士団のメンバーだよ。シルフス伯爵家ってのは今時珍しい代官を立てずに代々直接領主である伯爵が領地経営をするって家でな。今から確か三年くらい前に父親が流行病で急死しちまって、家を継がないといけないって騎士団を抜けたんだ。いい奴だよ、この街が好きで、シルフスの街の話をする時は子供みたいに目を輝かせていたな」
そうか……フォルトナ王国の内乱で、このシルフスの街にも戦火が広がったんだねぇ。
それを知っているから、
「……二人がもし、フォルトナ王国の反乱を止めたいのなら、その時は力を貸すよ。ボクはアクアとディランの親友だからねぇ」
「ありがとう、ございます。……お嬢様」
「やっぱり、持つべきものは親友だな。その時はよろしく頼むぜ、
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