百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.3-10 玉座の間にて-大人達の秘密会議-
Act.3-10 玉座の間にて-大人達の秘密会議-
<三人称全知視点>
王宮の玉座の間、謁見の予定を全て後回しにして人払いされたその場所で、カノープスは玉座……ではなく、会議室から持ち込んだのであろう一般的な騎士達が使うような簡素な椅子に腰掛けたラインヴェルドに、続いて第一王子のヴェモンハルト=ブライトネスと、軍務省の長官を務めている王弟のバルトロメオ=ブライトネスに恭しく礼を取った。
「そういうのはいらねぇから、とっとと座れ。……届いた報告はクソ笑える内容だったからなぁ、それで追加の情報はあるのか? クソ笑える内容のものが」
ニヤリと笑ったラインヴェルドに、カノープスは「それは勿論。陛下に絶対に面白いと仰って頂けると思います」とにこやかに返した。
その瞬間に、白髪の混ざった銀色の短髪、痩せ型ではあるものの引き締まった長身の男で大臣を務めているヴァルグファウトス公爵家の次男のディラン=ヴァルグファウトス、乙女ゲーム時代は隠しキャラ候補にも上がったバルトロメオ、特に隠しキャラではないものの途轍もない美形として注目されていたヴェモンハルトと婚約者的立場にいるアンブローズ男爵家次女で、国で一番の才女と称えられた人物で魔法省特務研究室所長の立場にあるスザンナ=アンブローズ(この二人は国にとって害をもたらす存在を駆逐する【ブライトネス王家の裏の杖】の役割を担っている)……つまり、ブライトネス王国の宰相でアクアマリン伯爵家当主のアーネスト=アクアマリンと、今回ゲストとして急遽招集された「
「……香辛料の話のくだりまではお前の部下経由で聞いて大急ぎでこの人員を集めたんだ。ついでに面白いことを暴露して、そいつの反応をクソ笑ってやろうと思ってな」
「……相変わらず、クソ野郎過ぎる、この王様」
「確かに、お父様はクソ野郎ですからね」
「……そういう貴方も似たようなものでしょう? ヴェモンハルト様。お二人のせいで毎日どれだけ胃痛に晒されているか……いっそ、叛乱でも起こして天下を取ってやりましょうか?」
「……ああ、宰相によくある奴な。大体悪役は宰相って相場が決まっているみたいだし? でも、そういうキャラじゃねえだろ、アーネスト」
ディランはアーネストの性格を熟知している……それこそ、王城に勤めるずっと前から、或いはずっと後からというべきか。
だからこそ、彼が絶対に謀反を起こすことがないことを知っている。それに、この生真面目な男では国王になってからも仕事に押しつぶされるだけだろう。立場が変わっても性格が大きく変わるとは思えない。
「それで、報告なのですが、娘――ローザから宝剣レガリアティンの改良が終わったという報告がありました。……最早原型を留めていませんが、フレーバーテキスト通りに新たな王権の象徴として使えばいいのでは、と。……それで、剣は私がお持ちしましょうか?」
「ん? いいや、直接謁見させて持って来させれば良くねえか? そっちの方が面白そうだろ?? ……まあ、ついでに話したいこともあるしな。具体的には以前から話には上がっていた香辛料の問題だが……案の定というか、そっち方面で動くつもりだってことが証明されたみたいだな。……そのために用意はしていたが、まさかこんなに早く動くとは思わなかった。つくづく面白い奴だよ、お前の娘は」
以前から、ローザが香辛料に興味を示してエルフや獣人族と交渉するために動き出すのではという予想はあった。……流石にまさか召喚された時点、つまり圓の段階で考えていたとは思いもよらなかったが。
とはいえ、香辛料が育てにくい環境で、備蓄を垂れ流しにしていればいつかは無くなる。この動きは誰にだって読めるものだ。別に大したことではないと、ラインヴェルドは自らの推測のレベルを過小評価する。
「で、だ。普通の社交界にも出ていない勉強途中の貴族令嬢に謁見させるのは、無理があるだろうが、お前の娘ならそれについては問題ないだろう? ある程度人も厳選するし……で、その時に俺が昔から構想していたエルフや獣人族との和解――そのための使節を提案してあいつを巻き込んでやろうと思うんだが……やっぱり、予想されているか?」
「……それを予想して、『あっ、やっちゃった』と思って口封じをしようとしたようだから、まず間違いないでしょう。ちなみに、情報源の料理長は試食中だったカレーという料理に純粋カプサイシンなるものを混ぜられて口に大火傷を負ったようです」
「ああ、やっぱり、ただではやられないってところが最高だな! 掌の上ってのはやっぱり詰まらねえ。そうでなくっちゃ……しかし、マジか、口に大火傷って、あはははは、クソ笑える。なあ、そう思うだろ? ディラン」
「まあ、確かにただではやられねえぜというところが本当に面白い奴だよな、お前の娘って。面白味のかけらもない奴からよくそう言う奴が生まれてくるよ」
冷酷な性格と王族大好きという成分だけで構成されている面白味のかけらも無いと思っていたカノープスから、ローザという台風のような性格の娘が生まれたと聞いた時は「そういうこともあるものなのか?」と思っていたが、カノープスからローザが転生者だという報告を聞いてからは「ああ、なるほど」とあっさり合点して、ラインヴェルドやかつての親友に似た破天荒を持ち合わせる少女に親近感を覚えるようになった。
ちなみに、今のディランの言葉はただの嫌味という名のジャブで、特に意味はない。
「それで、お父様はわざわざ隠居しているミーフィリア氏をゲストとして呼んだのですよね? それで、残る人選はどうしますか? 個人的に私は国を離れたくはありませんから」
「……弟達のことが好き過ぎるからだろ? まあ、俺も似たようなものだからあまり強く言えないけどさ……そろそろ嫌がられると思うぞ、思春期っていうのはそういうもんだ」
「……この人の場合、思春期じゃなくても気持ち悪がられると思いますけどね。だって変態だもの」
スザンナがヴェモンハルトにジト目を向けながら、「私も研究があるので長期の遠征は参加したくないですね」と素直に意見を述べた。
ちなみに、弟の王子達が大好きで部屋には絵姿が夥しいほど貼られているというヴェモンハルトと、重度の魔法オタクで魔法に関しては変態的な粘着質を誇るスザンナはどう考えても同種である。好きなものに対する表情は鏡で写したようにそっくりだ。
「私も離れるのは無理ですね。私がいないと呆気なくこの国が滅んでしまいそうです」
「いや、そんなことはないだろ? 俺とラインヴェルドがいれば――「だから、お前らがどう考えてもトラブルメーカーなんだよ!!!! ……はぁはぁ」
社交界のご婦人達が見れば発狂してしまいそうな、普段とはあまりにもかけ離れたアーネストの姿だが、ここではいつものことなのでスルーされる。当然何を言ったって暴走列車達は止まらない……つまりは、エネルギーの無駄なのだが、どうしても言ってやらなければならないとこうしてアーネストばかりがダメージを負うのはお約束である。
「となると、やっぱりある程度の地位の奴が欲しいだろうし、ディランかバルトロメオが妥当か?」
「……いや、ラインヴェルド。俺、大臣。本気で分かっている?」
「それを言うなら俺は軍務省の長官。抜けたら穴埋め大変だろ?」
「……サボり魔のお二人がいなくても別に成立すると思いますので、遠慮なく行ってらっしゃい。あっ、判子は置いておいてくださいね」
「……酷くね? まるで俺達が要らない子みたいじゃん」
不平の視線を向けるディランとバルトロメオだが、全くの事実なので二人を擁護する者はこの場にはいない。ただ、ラインヴェルドだけが抱腹絶倒していた。
「アハハハ、マジ面白え! と、これで反対者もいなくなったし、行くのはミーフィリア、ディラン、バルトロメオで決まりだな。んじゃ、面白えついでに爆弾落とすぜ! 実はカノープスのとこにリボンが似合う奴がいる見た目だけは可愛らしいメイドがいるんだが、なんと正体がオニキス=コールサックだって言うんだぜ、な、クソ笑えるだろ!!」
「「「「「…………はっ??」」」」」
ディランの正体が漆黒騎士団の副団長で、オニキスの相棒をしているファント=アトランタの転生者であると知らないバルトロメオ達は揃って「こいつ何言ってんだ?」という視線をラインヴェルドに向けた。
「えっ、親友も転生してんの? というか、カノープスのところのリボンメイド? いや、聞いたことはあったけど……マジか、そんなところにいたのか」
一方、ディランの方はその意味を理解したようで、驚きと、嬉しさと……様々な感情が混ざった表情を浮かべた。そんなディランの顔を見て、ラインヴェルドが悪戯が成功した時の子供ような顔で笑う。
「ってことだ。打ち合わせもあるだろうし、アクアの状態を一発で見抜いたあの化け物転生者のことだ。きっと、お前のことも見抜くだろう。いい感じに計らってくれるんじゃないか? それからアーネスト、お前のところの娘って容姿が原因で引きこもりになっていたよな? 白髪と赤い瞳で「呪われた子」だったか? クソつまんねえ話だよな、そういう差別って。肝心なのは見た目じゃなくて中身だと思うんだけどな? ……で、提案なんだが、お前の娘を一度あいつと引き合わせてみたらどうだ? まあ、悪いようにはならないと思うぜ」
『スターチス・レコード』の登場人物――つまり、自分のデザインしたキャラクターを気持ち悪いということはまず無いだろう。
どのような結果になるかは分からないし、その過程も全く想像がつかないが、決して悪いようにしないだろう。……圓とどこか性格が似ているラインヴェルドはそう確信してアーネストに提案した。
ラインヴェルドはこういう時は決して悪巫山戯をしないことをよく知っているアーネストは、物は試しとこの提案に同意し、数日後にローザを招いた小さなお茶会がアクアマリン伯爵家で開かれることになった。
圓の受難は続く……。
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