Act.3-7 国王陛下御前の模擬戦-ローザvs漆黒騎士の転生者- scene.3

<一人称視点・リーリエ>


「静寂流十九芸 剣術三ノ型 渾衝流」


 挨拶代わりに渾身の斬撃により、剣から発する振動波を剣を通して相手に伝え、相手の神経を麻痺させる衝撃剣を放つも呆気なく躱され、猛烈な速度で刃が迫って来る。


 素早く『漆黒魔剣ブラッドリリー』を使って防ぎ、唐突に投げられた左手に握られていた剣を「千羽鬼殺流・玉兎」を一点集中させて、武装闘気を纏った左手を盾代わりにして弾き――。


「常夜流忍暗殺剣術・反刃斬」


 斬撃を放ちながら刀を素早く持ち替え、相手の守りのタイミングを狂わせる変幻自在の斬撃をアクアは天性の反射神経で防ぎ、お返しとばかりに小さい身体からは想像もつかない重い斬撃を放ってきた。

 左手でその斬撃を防ぎつつ、アクアの跳び蹴りをバックステップで躱し、「常夜流忍暗殺剣術・薙暗器」で斬撃を放つと見せかけて剣とは逆の手で暗器を放つ奇襲技を仕掛けるも、猛烈な速度で振るわれた『カレトヴルッフ』で防がれる。


「千羽鬼殺流・破軍」


 一度目に刀の刃を抜かずに鞘に納めたまま斬撃を放って態勢を崩し、二度目に踏み込み、三度目に円を描くように抜刀して敵を斬るという三段技に、アクアは土魔法を利用して作り出した巨大な壁を利用して、スカートから白い太腿が覗くことにも躊躇せず壁を蹴り上げて躱すと、天高く跳び、落下に合わせて身体を前方に回転させてスピードを付けながら剣を一回転させて剣自体の重さも使って加速した。


「木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木……陰陽五行の力を束ね、一線を引け。境界を束ねてあらゆる禍いから我が身を守れ! 陰陽境界-局所盾-」


 陰陽五行エネルギーを束ねて左の人差し指に溜め、小さく空中に一線を引く。妖や魑魅魍魎などといった存在を突破できなくする陰陽の技を陰陽五行エネルギーを更に注いで物理的な防御へと昇華させた。


「禊祓の障壁」


 神職系四次元職の神子が覚えるダメージ遮断の障壁を「陰陽境界-局所盾-」に重ねるように展開して保険をかける。

 この神職系は結構複雑で、女性と男性で全く名前が違うんだよねぇ。女性は巫→梓巫女→斎女→神子、男性は覡→宮司→禰宜→権禰宜と上がっていき、名前の読み方が同じなのは最初のカンナギだけ。まあ、覚える技は一緒なんだけど。


 アクアの渾身の攻撃は防いだけど、まだ安心はできない。

 素早くその場で回転し、遠心力を乗せた斬撃と八度の攻撃を経て盾が砕かれた……マジか。


「…………やはり、お嬢様は強いですね。漆黒騎士団にも貴方のほどの強さの剣士はいませんでした。それほどの実力者は前世では【白の魔王】を含めて数人しか知りません」


「やっぱり、アクアは強いねぇ。これほど剣を扱えるのは、月紫さん、清之丞さん、満剣さん、雪風さん……これくらいしか思いつかないよ」


 互いに互いを称賛して、ボク達はクスクスと笑った。

 だけど、楽しそうな表情から一点、アクアの表情が陰る。


「……お嬢様はまだ本気を出していないんですよね?」


「うん。そうだよ。……ボクは歴史の影で圧倒的な力を蓄えてきた桃郷にも、鬼斬機関にも、常夜流忍者にも敵わない。どれだけ頑張っても結局ボクは表側で暮らしてきた人間――ボクと彼女達との間には大きな実力の溝があった。だからねぇ、ボクは人間をやめたんだよ。ずっと剣を振り続け、剣を振るうために最適な脳の伝達信号を編み出し、己の身体の全てを支配し尽くし、そして辿り着いたのが「圓式基礎剣術」や「圓流耀刄」と呼ばれる剣の極意、その領域。だからねぇ、アクア。恥じることはないんだよ、例え歴戦の剣士であったとしてもボクには勝てないんだから。ただ一点、剣という分野において、ボクは誰にも負けるつもりはない。それこそ、能因草子や橋姫紅葉にだってねぇ」


 ボクの領域に辿り着くこと自体は誰にだってできる。

 とある帝国の将軍サマにだって、本好きを拗らせた変態にだって、あの忌まわしい女の同僚の鬼娘にだって。

 だけど、ただ一点――剣の分野においてはそんな彼らにだって負ける気がしない。


 元々、高かったらしい反応速度は最適な脳の伝達信号によって完璧な状態となり、完成したその速度はFDMMORPG『SWORD & MAJIK ON-LINE』のシステムの調整を二十回もやり直さなければなくなるほど。


 というか、ジーノに見せたのも随分と手を抜いて遅くした「圓式基礎剣術」だからねぇ。まあ、流石に加減ができないから余力は残した状態で「圓式基礎剣術」を使うけど。


 『白光聖剣ベラドンナリリー』を取り出して左手で握る。

 左右の剣を両翼のように広げ、一歩音もなく踏み込むと同時に、都合十二撃――黒白の剣の残像すら捉えられない無音の神速太刀が空気を擦過した白熱した大気の輝きを伴ってアクアに殺到した。


「なっ――!!」


 どうにか、天性の剣才でどうにかできると思っていたアクアもまさか残像すら捉えられないとまでは考えてもみなかったみたいだねぇ。

 一撃が『カレトヴルッフ』に当たる度に重い斬撃が腕を伝わってアクアにダメージを与える。直接命を奪いにいくのではなく剣を通してダメージを与えるようにしているけど、流石に狙いが分かっていてもどうにもできないみたいだねぇ。……十二撃終わるまでコンマ一秒、しかもエネルギーロスなく放つから物凄い重い斬撃になっているし。


「…………降参です」


 ふう、終わったみたいだねぇ。……さて、ジーノ達にはそろそろ回復してもらわないと。今までの壮絶な戦い、というか急展開も含めてついていけてないみたいだし。

 その後、アクアの事情については改めて説明した上で理解してもらい、約束通りアイテムストレージから選び抜いた幻想級装備を参戦者達にプレゼントした。


「素晴らしい剣だな! うちの王宮にある古ぼけた剣など捨ててこいつを我が国の秘宝としよう!」


「……それ、ブライトネス王国の王家に伝わる宝剣レガリアティンのことだよねぇ。……流石に捨てるのはまずいんじゃないかな? 国宝というか、王権の象徴だし。王の物レガリアだけに」


 しかし、安易なネーミングだねぇ。「王の物」を意味するラテン語regalisの複数形に枝、杖を意味し、レーヴァテインを想起させる古ノルド語のteinnの造語って。……本編に関係ないし、どうせ大したフレーバーテキストをつけても本編中でも以降にも使えないからって宝剣レガリアティンっていう安易なネーミングと「ブライトネス王国を建国した初代国王が竜を倒した時に使った剣で、代々国王に継承されている」程度のフレーバーテキストしかつけなかった記憶があるけど。



<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>


「ということで、近々分家筋から養子を取ることになった。その子に正式にラピスラズリ公爵家を継いでもらうことになる」


 模擬戦の翌日、ラインヴェルドが幻想級装備『ノートゥンク』と引き換えに宝剣レガリアティンを置いていき「この骨董品を一流の武器へと鍛え直してくれ! ああ、仮に壊れても責任は王家が持つし、宰相共の仕事が増えるだけだ。どっちにしろこんな錆び付いた剣でドラゴン退治なんてできねえし、この骨董品が素晴らしい剣に生まれ変わるならそれはそれで国益になるし、失敗して宰相共があたふたするのもクソ面白い。ああ、依頼料か? できたら好きなだけ踏んだくっていいぞ。お前との交渉はクソ面白そうだからな」って爆弾を落としつつ嵐のように去っていってようやく鎮まっ……これって鎮まったの? 一息つけるのかな……剣を打ってから? というか、変えちゃっても大丈夫なのこれ。と思っていた頃、お父様の執務室に呼び出されたボクとお母様は突然の爆弾発言に驚いた。……もう、爆弾はいらないよ。ラインヴェルドだけでいいよ。

 あの人、つくづく人が嫌なことを押し付けてくるからな。この性格悪子さんめ! 一回しばいてやろうか! ……面白いからいいけど。


 義弟……カノープスが理解した上で分家筋から呼んできたとなると、攻略対象の一人――ネスト=ラピスラズリかな?

 これまで攻略対象との接近はアーロン=シャドウギア……ラルの息子のアーロン=ジュビルッツとしかない。その彼も現在三才、暗殺組織・極夜の黒狼は非合法なことには手を出していないので彼も曲がることなく育っている。ラインヴェルドが手を回したらしく、ラル達も正式な立場というものを手に入れたし、学園に通うとなれば暗殺者としてではなく、一人の学生として入学することになるだろう。普通に可愛い男の子だったし、特に敵対する気配はない……というか、三才で冷めているのってボクだけだよねぇ。


「……それは、ローザでは当主に相応しくはないということですか?」


「いいや、ローザほどこのラピスラズリ公爵家の当主に相応しい人間はいない。だが、カトレヤ、ローザから聞いていると思うが彼女は転生者だ。この先、彼女はこの国に留まらず様々なところで活躍する……私はそう思っている。だからね、こんなラピスラズリ公爵家というちっぽけな場所に縛りつける訳にはいかないんだよ。……勿論、ラピスラズリ公爵家の存続のために養子に迎えた子をスケープゴートにするつもりはないし、カトレヤの立場を悪くするつもりもない。私にとってカトレヤは大切な人だからね」


 ホント、よく赤面もせずにそんな甘い言葉を口にできるよ。ちっ、イケメンめッ!!


「……思うことはあると思うけど、これから来るであろう彼のことも自分の息子のように大切にしてあげてほしい。……人に聞いた話だけど、分家筋の方では冷遇されてしまっているようでね」


 長男と次男とは異なり、ソーダライト子爵家の当主と娼婦の間に設けてしまった子供であり、そのことから義母や異母兄弟からイジメられていた……ってところかな? ……やっぱり、ネストじゃん。


「……分かりました。ローザに愛情を注げなかった分、その子に精一杯愛情を注ぎたいと思います」


「はっ…………お母様、それってどういう……」


「確かに、ローザは記憶を取り戻してすぐに大人になってしまったからな。彼はそういうことにはならないだろうし、目一杯愛してあげて欲しい」


 …………二人揃って仲良く嬉しそうにしやがって……解せぬ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る