――二月十五日――

 昨日の雨のせいであちこち濡れている。滑って転びそうになりながら、何度も行ったり来たりして探したけれど、赤い紙バッグはどこにも見当たらなかった。あるのは水たまりばかりだ。

 ――どうしよう。もし誰かが拾ったとしても、封を開けて中を見ない限り、持ち主はわからない。中を……見られちゃったらどうしよう。

「だめ。絶対、絶対見つけなきゃ」

 とは言え、いつまでも探しているわけには行かない。未練がましく左右に目を走らせながら、紫杏はとぼとぼと学校に向かった。通学路にも、校舎の外のグラウンドにも、昇降口の先の廊下にも、もう誰もいなかった。

 二年四組の教室に入ると、授業はとっくに始まっていた。

「遅刻だぞ、日野原」

「す、すみません」

 担任の栗田くりたに睨まれて、紫杏は身をすくめた。

「早くノートを開け。昨日の続きだ」

「はい、先生」

 小さくなりながら、紫杏は席に着いた。右隣に座る仲良しの貴美恵きみえが、笑ってこちらを見た。左隣の林崎は欠席らしい。

 授業の内容はまるで頭に入って来なかった。どうしても、消えたチョコレートのことばかり考えてしまう。

 ――ああ、せっかく決心したのに。今日こそ告白しようって。一日遅れになっちゃうけど、チョコレート渡そうって。

 紫杏は誰にも気付かれないように、こっそりため息をついた。

 とにかく、チョコレートが見つからないことにはどうにもならない。深紅にも一応聞いてみよう。昨日紫杏の部屋に入った様子はなかったけれど、深紅ならどんなチョコレートだったか知っているし、何かわかるかもしれない。

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