――二月十五日――

 紫杏は自分の部屋からダイニングへと走り出た。

 双子の妹の深紅みくが、椅子に座ってのんびりカフェオレをすすっている。けれど、紫杏はそれどころではなかった。

「おはよう、紫杏」

 トーストにジャムを塗りながら、深紅が振り返った。

「お、おはよう、深紅。私、先に学校行くね」

「朝ご飯は?」

「いらない」

 急いで家を飛び出した紫杏は、この時、深紅の様子も少しおかしかったことに気付かなかった。



 ――マンションの下に着いて、辺りを見回す。

 昨日、帰りに落としたのかもしれない。学校までの道を辿ってみよう――紫杏はそう考え、歩き出した。昨日泣いて走った道を、今日もまた泣きそうになりながら。

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