黎明と慈雨
zank
一.雨開
1.約束
「...私には、幼馴染がいたんだ」
そう彼女、エルサが零したのは、私が旅についていくことになってからどれくらい経った時のことだっただろうか。私ら二人は、見た目の境遇などもありよく話す仲になっていた。
ある日の雨の日の夜、彼女がふと、いつもより活気のない声色で、そう話し始めた。
「...その、昔逃げた仲間の中に?」
「うん。チェイスって言うんだけどさ、珍しい見た目をしていた私にも沢山話しかけてくれたんだ、長の息子なのに。しかもいつかこんな族は2人で逃げてしまおうなんて言ってたんだ。意外と小心者の癖に、そういう所だけ強気なんだよ」
「...優しい人だったんだね」
私がそう言うと、彼女は無理やりに笑っていた笑顔を解いて下を向いた。
「...うん。でも、私は彼を裏切って狩人族の掟を破った。彼は私を殺そうとしたけど、殺せなかった。きっと、長に命令されたんだ。私を逃した彼もきっと裏切り者扱いだ。どんなことをされているかもわからない。」
彼女がゆっくりと顔を上げ、此方を見る。
今にも泣きそうな顔は、何かを悔い、懇願を滲ませていた。
「夢を見るんだ。彼が私を殺そうとする夢。でも、そこにはもう一人の彼がいて、」
「...」
「その彼が『助けて』って泣いているんだ。私はいつも手を伸ばすけど、もう一人の彼に殺される。彼の恨みに拒まれているんだ」
「それは...」
「お願いがあるんだ、モークシャに。貴方ならって、勝手に信じてしまうけど」
「若し、彼が助けを求めていたら、あいつ臆病だからさ、」
彼女が無理やりに涙を飛ばすように笑顔を向ける。
「私の代わりに、あいつのこと、助けてやってあげてくれない?」
「...ええ、私の名において、必ず助けてみせる。貴方の分まで」
そうして、幾度の戦いを超え、片割れと並ぶべく私は神の名を背負い、彼女も自分の力と向き合い、
あの日が、来た。
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