第216話偽獣人の逆恨み
(ウイリアム視点)
昨日オリバー達がゴルスタイン達を連行し、ボルフィスに到着した次の日の午後から順次、今回の事件に関わった人物達の尋問が開始された。
最初に始まったのはゴルスタイン達ではなく、サルバドール殿下が指揮し捕らえてきた者達からだ。ホプリン達が確認したあの疑いがかけられていた貴族達の似顔絵の中に、ボルフィスの近くの街に住んでいる貴族が何人か居たのだ。カージナルから戻った殿下はすぐにその貴族達を捕らえ、尋問の準備をしていた。
次々に裁かれていく貴族達。ほとんどの貴族が既に覚悟が決まっているのか、大人しくサルバドール殿下と陛下の質問にに全て答え、私達が考えていたよりも早いスピードで判決が言い渡されていく。
とは言うものの、今回捕まえた貴族その関係者はかなりの数にのぼっていたため、1日や2日で終わるものではない。途中休憩を挟みながらやっていくしかないのだが。2日目の夜、ユーキが少し駄々をこねた。
この前ゴルスタインによって不快な想いをしたユーキ。夜には元気になったと思っていたが全快ではなかったらしい。夕食のあとすぐに仕事に戻ろうとしたのだが、なかなか私から離れてくれず、側にいて、絵本を読んで、一緒に寝ると最後にはぐずぐず泣き始めてしまった。オリビアに聞けば、昨日の夜もこうしてグズついていたらしい。あのゴルスタインの嫌な笑みを思い出して、オリビアやマシロ達が側に居るのだが、私も一緒がいいとグズついたようだ。
エイムが私を迎えに来たのだがユーキの様子を見て、サルバドール殿下に話に行ってくれたようだ。今日の仕事はもういいからユーキと一緒にいるようにと、殿下から許しをいただいた。
ベッドに入るとすぐユーキが私にしがみ付いてきた。それから絵本を読んでくれとエシェットに頼み、机の上から5冊の絵本を取ってこさせた。オリビアが今日の昼、ユーキを元気付けるためにお店通りに連れて行ったのだが、そこでたくさん絵本を要求してきたらしい。机の上には持ってきた絵本と買った絵本が、合わせて10冊以上乗っていた。それを見て私は苦笑いしてしまった。
そしてユーキが眠りにつくまで延々と絵本を読む羽目になったのは言うまでもない。
さらに2日後、いよいよゴルスタイン達の尋問が始まった。今回1番この事件に関わっているのはゴルスタイン達だ。最初に関係者。次に家族。最後にゴルスタインの順で行われる。
何事もなく今まで通り予定通りの時間で進んでいく尋問。そして最後のゴルスタインの番となった。奴が中に入ってくる。その姿を見て私もその場にいた騎士達も、そして陛下や殿下も息を呑むのが分かった。
奴の姿は最初に見た時よりもかなり窶れ、あれだけ丸かった体や顔が痩せこけている。顔色も悪く青白い顔色で、確かにこれからゴルスタインの処刑は決まっているが、すでに死人のような姿だった。
オリバーの報告から食事には一切手をつけず、水しか飲まないと聞いていたが、ほんの数日でここまで痩せここけてしまうものなのか?
フラフラと歩き中央までくるゴルスタイン。尋問が始まり質問されてもなに1つとして答える様子がない。
そしてなかなか進まない尋問に、陛下自らゴルスタインに質問をした時だった。それは突然だった。ゴルスタインが急に大きな声で笑い始めたのだ。
「フハハ、フハハハハハッ!!」
陛下がゴルスタインに話しかける。
「何がおかしいのだ?」
「これも全てあのガキが連れているルーリアと、あのガキのせいだ!! どうせ私は死刑になるのだ。私の邪魔をしたすべての人間を落としてやる、落としてやる!!」
その言葉を聞いた瞬間、殿下の隣にいたシャーナが殿下を守るように立ちはだかった。そして叫ぶ。
「その男! 体の中に闇の魔力石の力を感じるわ! どうやって体の中に隠してたか知らないけれど、力を使うつもりよ!!」
皆がゴルスタインを見る。
「ハハハハハッ、落ちろ、落ちてしまえ! 闇に全員落ちてしまえ! あのガキもルーリアも全て!!」
その言葉と共にゴルスタインの体から闇が溢れ出てきた。そしてその闇は一瞬で私達を飲み込んでしまったのだ。この前の黒服達と同等くらいの闇の力。いやそれ以上かも知れない。闇に飲み込まれる瞬間ユーキの顔が頭に浮かんだ。そしてユーキと一緒にいるであろうオリビア、アンソニー、ジョシュア。きっとユーキ達は大丈夫だ。モリオンが付いている。この間のようにモリオンが闇を祓ってくれるはずだ。モリオン、そしてマシロ達。頼むユーキ達を守ってくれ。そう思いながら、私の意識は途切れた。
(ユーキ視点)
お父さんがこの前絵本たくさん読んでくれて、昨日はお父さん一緒に寝られなかったから、今日は一緒に寝てもらおうと思って、僕読んでもらう絵本選んでます。
「どれにしゅるでしゅよ。」
「オレ冒険の絵本が良いぞ!」
「ボクユーキと一緒。」
「キミルは森が出てくるお話!」
「僕も冒険がいいなぁ。」
「ボク図鑑が良いよ。」
リュカそれ絵本じゃないよ?
『僕も冒険が良い!』
みんな冒険の絵本が良いみたい。僕も冒険が良い。それでキミルは森が出てくる絵本が良いから、森を冒険する絵本が良いよね。最初に選んだのは森を冒険する絵本です。次は魔獣の絵がいっぱい書いてある絵本。リュカこれで良いって。その後もたくさん読んでもらう絵本選びました。
それからお昼食べてちょっとだけお昼寝して、そのあとはお兄ちゃん達と遊びます。お絵かきしておままごとして、お母さんは窓の近くで紅茶飲んでます。
そしたらねエシェットとルトブルがバッてお顔あげました。それからマシロが僕のことしっぽでくるんで、モリオンが騒ぎました。
「闇が来るよ! みんな気をつけて!」
それ聞いてお母さんが近くに置いてあったお母さんの剣を持ちました。それからディル達が僕の周りに集まります。
「闇って何?」
「来るってどうやって。」
お兄ちゃん達がモリオンに聞いたんだけど、
「説明の暇ないよ! ユーキ、今からきっと真っ暗になっちゃうけど、すぐに僕が闇消すからね。大丈夫だからね!」
モリオンがそう言った瞬間、壁から黒いモヤモヤがお部屋の中に入ってきて、すぐにお部屋の中真っ暗になっちゃいました。
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
「ユーキちゃん! 動いちゃダメよ!」
お母さんの声が聞こえるけど、真っ暗で何にも見えません。僕、この前の夢のこと思い出しました。真っ暗になって眠たくなって。そしてらたくさんの偽物のお父さんやお母さん達、それにマシロ達が出てきて…。
「うわあぁぁぁぁぁん!!」
「主! 動くな!」
「やあ〜でしゅう!! みんなうしょやでしゅう!!」
だって今僕にお話してるの、この前みたいに偽物だったら、僕どっかに連れて行かれちゃうかも。僕手や足バタバタします。モリオンが暴れないでって。
「やあぁぁぁぁ!」
「モリオン早くしろ! このままでは主が闇に取り込まれるぞ!」
「分かってるよ! もう少しで踊り終わるから! ふん、ひょい、はい!」
「何だその掛け声は…。」
「よし終わり!! ユーキお待たせ!」
モリオンの声がちょっとだけ遠くで聞こえた気がしました。それでだんだんと周りが明るくなっていきます。あっ、みんな見えた! さっきとおんなじお部屋だ。 それにお母さん達もさっきいた場所にいる。偽物じゃないよね。マシロが僕のお顔スリスリしてくれます。でも…。
「かあしゃん…、にいしゃん…。どちてねんねちてるでしゅか…。」
ん? そういえば僕も寝てるみたい。何で? マシロがモリオンに何か言ってるよ。でもやっぱり近くに居てくれるのに、声が遠くで聞こえるんだ。
「モリオン、主達の中に入ってしまった闇を消せ。それからディル、モリオンが闇を消したら回復しろ!」
「「分かった!!」」
「我とルトブルは様子を見てくる。くろにゃんも行くぞ。モリオンまでとはいかないが、お前も少しなら闇を消すことが出来るだろう。ユーキの力が上がっているからな。お前も力が強くなっているはずだ。」
エシェット達が窓から出て行くのが見えました。どこ行くの? 行かないで。みんな側に居て。僕みんなと一緒がいいよ。
「大丈夫だ主。すぐに良くなる。泣かずとも大丈夫だ。」
誰が泣いてるの?
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