第124話謁見。そしてエシェットのあの匂い?

(ウイリアム視点)

 夕方に近づくにつれ、部屋の中が慌ただしくなった。もうすぐ私とオリビアと父さんで、リチャード国王との謁見の時間だ。まずは3人だけで国王にお会いする。ルオン、そして死黒の鷹狩りの事についての報告と、それに対するお言葉をいただくためだ。その後のパーティーは食事というよりも、飲み物を飲み、いろいろな立場の貴族と、軽く話をする感じだ。まあ情報交換だな。それが終われば、次は問題のユーキ達だ。そのユーキといえば…。


「母さん、もうすぐ時間だけど大丈夫?ユーキがちゃんとに洋服着てくれるか心配だ。」


「大丈夫よ。安心して行って来なさい。あとは私に任せて。アンソニー達も居るのだから。」


 昼寝からまだ起きていなかった。ぐっすりだ。後で個人的に国王にお会いするとはいえ、服装など、気をつけなければいけない事がたくさんあるのに。

 結局私達が謁見に行くまでに起きることはなかった。母さん達にユーキを任せて、いよいよ謁見の時間だ。


 リチャード国王、また、権力者達が集まって居るだろう、大広間のドアの前に立つ。そして大きなドアが開かれた。私達の名前が呼ばれ、中央をすみやかに進み、王座の前の階段手前で止まり片膝をついた。


「よい、立て。そち達は今回の主役。そんなにかしこまる事もあるまいよ。」


 国王の言葉に、すぐに立ち上がった。


「まずは今回のルオン率いる死黒の鷹狩りの殲滅。誠に大義であった。」


「ありがたきお言葉、恐れ入ります。」


「が、証拠を見んことには、信じることはできぬ。他の者もそうじゃろう。ルオンを倒したという証拠をここへ。」


 国王の言葉に返事をして入ってきたのはエイムだった。それからエイムの後ろから台が運ばれてきた。台の上には布で隠された、おそらくあれが運ばれてきた。階段の前まで来ると、エイムが一呼吸おき、バッと布を取り去った。


 やはりアレがそれには乗っかっていた。ルオンの頭だ。周りからどよめきが起こる。本当にルオンなのか、間違いで別人ではないのかなど、いろいろ言っている声が聞こえる。まあ、そう簡単には信じないか。今までどんな事があっても捕まらなかった奴だ。

 国王が手を挙げると全員がすぐに黙った。側近の1人が国王に何か紙を見せている。多分ルオンの手配書だ。顔の確認をしているのだろう。そして少し経つと。


「それはルオンに間違いない。ウイリアム、よくやった。」


 その言葉を聞いた途端、大広間が歓声に包まれた。歓声が続く中、もう1度国王が手をあげる。再び全員が沈黙する。


「これに対しての報酬を支払わねばな。後ほど決定し連絡しよう。」


「ありがとうございます。」


「よし、ここからは、皆でこの喜びを分かち合おう。グラスを用意せよ!!」


 何とか無事に、謁見を終える事が出来た。ふう、何もなくて良かった。安心しているところへ、次々とグラスが運ばれてくる。これからはパーティーの時間だ。その場にいる全員にグラスがわたり、国王が王座から立ち上がる。


「皆のもの、宴を始めようではないか。」


 国王がグラスを上げ、パーティーの開始だ。私の所に次々と人が集まってくる。皆がお礼を言い、握手を求められた。皆の喜びようといったら…。純粋に喜ぶ者も居れば、自分が死黒の鷹狩りに関係しなくて良かったと喜ぶ者もいる。喜び方によって、その人物の事が分かってしまう。まあ、あまり役に立たなそうな役職の奴は、何処にでも居るがな。それとは別に。


「よう、久しぶりだな。」


「ジャニス、元気だったか?」


「勿論元気に決まっているだろう。今はここで、騎士隊長補佐をしている。お前も元気そうだな。まあ、奴らを倒すくらいだから、元気に決まってるか。」


 ジャニスもザクスと一緒で、学生時代よくつるんでいた友人だ。最近は連絡もできず、どうしたかと思っていたが、元気そうで何よりだ。


「お前、当分ここに居るんだろう。俺はこれから用事があるから、時間を合わせてゆっくり酒を飲もう。」


「ああ。」


「じゃあ、後で連絡する。」


 そう言うとさっさと行ってしまった。相変わらず忙しい奴だ。まあ、当分ボルフィスには居るし、私もゆっくり話したいからちょうど良いが。飲み過ぎには注意しなければ。チビ軍団の攻撃は、最恐だからな。


 それからも、たくさんの人に挨拶して、気づいた時には父さんが居なくなっていた。国王様もいつの間にか退席していた。普段なら全員がお辞儀をしなければいけないのだが。これは2人で抜け出したな。後で、個人的な話合いがあるっていうのに。それまで待てなかったのか。


 2杯のお酒と、後は挨拶だけのパーティーが終わり、父さんがどこに行ったのか分からないまま、オリビアと部屋に戻った。そしてそこでは、やはり問題が待ち受けていた。


(ユーキ視点)

「やーでしゅう!」


「ユーキちゃん、これは着なくちゃいけないお洋服なのよ。」


「やあー。」


「あれキツいもんね。僕も小さい時あの洋服嫌いだったよ。首のところは締め付けられて苦しいし、ズボンも固くて歩きにくいし、座りにくいし。腕だってあげにくいし。」


「とにかく硬い洋服だよな。子供には合わないよ。」


 僕がお昼寝から起きたら、お父さんもお母さんも居ませんでした。何かね、お話しに行ってるんだって。それでね僕もこれから誰かに会うんだって。だから夜ご飯食べてから、お着替えしましょうって言われて、お兄ちゃん達と夜ご飯食べました。

 それからね、ばあばがお洋服着せてくれて、着れたんだけど…。色はね青と白で、洋服もカッコよかったんだ。でもとっても苦しいんだ。首のところがギュッとしてるし、動きたいのに上手く動けないの。僕こんなお洋服嫌だ。いつもの誰かに会う時に着る、ちょっとカッコいいお洋服か、うさぎさんかねこさんのお洋服がいい。だから僕お洋服脱いじゃった。

 僕が着るの嫌がってたら、お父さん達が帰って来ました。


「どうしたんだ。何騒いでるんだ。」


「それがユーキちゃん、お洋服嫌がっちゃって。」


「やっぱりか。ユーキダメだろう。ばあばの言うこと聞かなくちゃ。」


「やーでしゅよ。ぼく、うさぎさんがいいでしゅう。」


 僕イヤって言ってるのに、お父さんもお母さんもダメって言うんだ。僕はぶーぶーです。お母さんが、もし我慢出来たら、明日、お店通りに行って、お菓子たくさん買ってくれるって。でも…。


「ユーキ!お菓子のためだよ!」


「そうそう。お菓子はとっても大事だぞ!!」


 ディル達がお菓子お菓子って。う~、仕方ない。お菓子のために少しだけ我慢。本当は着るの嫌だから、だらだらお洋服着ます。我慢してお洋服着たけど、やっぱり苦しい。早く脱ぎたい。

 歩きづらいから、誰かに抱っこしてもらおう。お父さんもお母さんも、今は抱っこやだ。僕にお洋服着せたもんね。エシェットに抱っこしてもらおう。僕はエシェットのところに行って、エシェットのお洋服引っ張りました。


「エシェット、だっこでしゅ。」


「………。」


「エシェット?」


「ん?ああ、抱っこだな。よし。」


 どうしたんだろう。何か考え事してるみたい。マシロが近づいて来ます。


「おい、この匂い。」


「ああ、まさかとは思ったが。ここに着いた時は匂いがしなかったが、今は確実にしているな。まさかこんな所に居るとは。」


「エシェットだれかいるでしゅか?」


「ああ、ちょっとな。」


 僕のお着替えが終わって、エイムさんが迎えに来ました。あれ?じいじが居ません。エイムさんが、じいじはもう別のお部屋に行ってるって。今からそのお部屋に行くみたい。マシロもディル達も皆んな一緒に行って良いんだって。廊下をエシェットに抱っこしてもらったまま進みます。


「とうしゃん、だれにあうでしゅか?」


「ん?そうだな。きっとユーキは驚くし、喜ぶ人だ。」


 誰かなあ。ザクスさんかな?でもザクスさんこの前バイバイしたよね。すぐに会いに来てくれたのかな?それともオルガノおじさんかな。誰だろう。楽しみ!


(エシェット視点)

 まさかこんな所で、匂いを感じるとは思いもしなかった。マシロも気づいたようだし、間違いないな。

 ユーキを抱っこしたまま、ウイリアム達について行く。すると、あれの匂いが強くなってきた。それはどんどん強くなり。もしかすると、これから行く場所に居るのでは?


 会うのは構わないんだが、別れた時の状況がな。さて、どうしたものか。横を見るとディルとリュカがニヤニヤしていた。多分2人も気づいたのだ。はあ、なんか憂鬱になってきた。あの時は久しぶりで、舞い上がっての行動だったが。ユーキが気づいたら、きっとこう言ってくるだろう。


「ごめんなしゃいでしゅよ!」


 とな。真剣な顔をして言ってくるだろう。

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