第49話それぞれの森の中の攻防

<ウイリアム視点>

 止める間も無く、オリビアが飛び出し、アメリアもそれに続く。

「おい、待て!向こうには闇魔法を使う奴がいるんだぞ、気を付けろ!」

 声を掛けたが聞こえているか…。何しろ。

「ユーキちゃんを拐ったのは、お前かあああ!!」

「ユーキ様は何処だあああ!!」

 オリビアは雷の魔力を剣にまとわせて、それをひと振り。アメリアは風の魔力を剣にまとわせてひと振り。

 突然始まった2人の攻撃に黒服達は対処が遅れ、10人は吹っ飛ばされた。多分死んだ奴もいるだろう。

 残りの黒服達が、驚いた顔をして、それでもなんとか、防御の姿勢を取った。

 ザクスが苦笑いしながら、

「俺達、必要か?相変わらずの無茶っぷりで…。巻き込まれたく無いんだが。2人だけで全員倒せるんじゃないか。」

 私が剣を抜くと、他の騎士も剣を抜く。

「そう言うな。ほら、私達も行くぞ。放っておいたら、全員死にかねん。それにあちらも本気で来るみたいだぞ。」

 黒服達が身構え、攻撃態勢に入ったのが分かった。

「よし行くぞ!相手は闇の力を使う者達だ。皆気を付けて戦え!いいな無理はするな!!」

 私の掛け声と共に、騎士が全員動き出し、黒服の方も動き出した。


<ユーキ視点>

「マシロ、マシロはやくでしゅ!」

 僕はマシロの背中を、パシパシ叩きます。早くお父さん達のとこ行って、お手伝いしなきゃ。

 妖精さん達はずっと、ディル達に今の、お父さん達がどうなってるか、伝えて来てくれてます。

 お父さん達も、黒服の人達も、同じくらい強いんだって。黒服の人達何人か倒したけど、騎士さんも何人かお怪我してるって。

 僕が行けば、ディルが居るから、お怪我治してあげられるよね。

「ん?ちょっと待てマシロ。」

 エシェットの待てで、マシロが止まりました。もう!早く行きたいのに。僕がぷんぷん怒ってると、エシェットは頭を撫でてきました。

「待ってくれ。マシロ、アレを見てみろ。」

「何だ?…、あれは!!」

 2人が見てる方を僕も見ます。誰かが、こっちに向かって走って来てました。

 あっ、あれ!!

「マシロ!あのひとでしゅよ!あの、くろふのひとでしゅ!」

 走って来たのは、僕にご飯くれなかった黒服の人でした。でも、他にももう1人一緒に走って来てます。誰だろう。同じお洋服着てるから、仲間だよね。

「アレがユーキ達を拐った連中か?」

「アイツらが力を使ったか分からんが、仲間なのは確かだな。闇魔法を使うぞ。」

「そうか…。アイツらが。確かに向こうに居る連中よりは、力が強いな。」

 エシェットは、人の力がどのくらい強いか、分かるんだって。

 そして、少し走って来た2人を見た後、マシロに降ろせって言いました。

 僕が慌てて、何で降りるのか聞いたら、2人を倒してくるって。僕を苛めたから、お仕置きしてくるって。

 でもでも、僕早くお父さん達の所行きたいし。

 「何、奴らなどほんの数秒で、片付けられる。すぐお仕置き出来ると言う事だ。お前達は上から見ていろ。」

 おじさんはサッと、下に降りてっちゃった。そして。


<エシェット視点>

 我は走ってくる黒服の前に、見事綺麗な着地を決めた。

「な、何者だ!」

 なる程。よく見れば2人とも闇の力は使えるが、片方は石の力に頼っている感じか。それにやはりな。此奴らなら一瞬で殺せるだろう。殺気だけでいけるか?

 我は2人に殺気を放った。

「…!何だこれは…。」

「ぐっ…。」

 石に頼っている男の方が、先に膝をついた。

 ほう、殺気だけでは死なんか。思ったよりもやるようだな。だが。

 我が手を上げ、その手に力を溜めだすと、膝をついた方の男が、我の周りに闇を張り巡らせた。こんな事をしても、無駄だというのに。辺りが見えにくくなるくらいだ。

 闇を吹き飛ばそうとした時、

「行け!お前だけでも戻れ!早くしろ!」

「…分かった。お前のことは、あの方にちゃんと伝える。」

 膝をついていない方の男が、別の闇の中へ消えようとした。張り巡らされた闇が濃くなる。そうか、攻撃ではなく、本当に見えにくくするための闇だったか。仲間を逃すためか。そうはさせない。が、我が闇を吹き飛ばした時には、膝をついた男だけになっていた。ちっ、逃すとは不覚。

「仲間は何処へ行った?」

「ふっ、言うと思うか。お前に我々が敵わぬことなど、最初の殺気でちゃんと分かっていた。ここで2人で死ぬよりも、1人でも帰らなくては。」

「それで、自分は死を選んだと。」

「私の心は、すでに決まっている。その為ならば、死を恐れる事もない。」

「そうか。」

 死を覚悟している此奴を殺しても、此奴は本望だと逆に嬉しがりそうだ。うむ。

 我は力を溜めていた手を下ろし、代わりに服のポケットから、ある木の実を取り出した。そして、奴の首を絞め、無理やりに口を開けさせ、その実を食べさせる。

「ぐっ、げほっ、何を食べさした…。」

 我は何も言わずに、木の上へヒョイヒョイと登ると、マシロの背に跨がった。

 ユーキがちょっとふて腐れながら、早く行きたいのにと、我に文句を言って来た。そして、お仕置きは終わったのかと聞いて来た。

「ああ、勿論だ。これで奴はもう悪いことは出来んだろう。」

 そう言うとユーキは、小さい声でありがと、と言って来た。可愛い奴だ。


 マシロが、ユーキの家族の元に向かいながら、教えてくれた。

 我が下に降りてからユーキに、我はユーキの為に、黒服にお仕置きに行ったのだから、家族に会いたいのは分かるが、ちゃんとお礼を言うように言ったらしい。

 ユーキはちゃんとお礼を言った。偉いぞユーキ。我はユーキの頭を撫でてやった。

 我が奴に食べさせた実が、効果を現すのは半日後くらいか。

 あの実は食べた者に、強い幻覚を見せる。その者ににとって1番の苦痛を幻覚で見せるのだ。しかもほぼ1日中だ。

 そして作用はそれだけでは無い。苦痛に耐えかね、その者が自殺しようとして息が止まっても、必ず蘇生させ、また幻覚を見せる。不思議なことに、体を爆発などでバラバラにしても、元に戻ってしまうのだ。

  奴はこれからずっと、苦痛の中で生きて行かなければならない。死ぬ事も出来ずに。ユーキや他の生き物に、ひどい事をしなければ、こんな事にはならなかったものを。

 さあ、もうユーキの家族は目の前だ。さっさとユーキに害を成す物達を片付け、再会させてやろうではないか。ユーキの喜ぶ顔が早く見たい。

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