第92話 閑話、新型感染病


 武山薬品の中の掃除ははかどっている。スキャンダルが出るたびに株価は下りに下がりさきの株主総会の前に2000円を超えていた武山薬品の株価は800円ほどまで下がっている。ここでスキャンダルは打ち止めだ。特に申し合わせていたわけではないが、機関投資家たちの買いが入り、三日で株価が1500円まで戻してしまった。むろんドライは800円近辺で株を仕込んでいる。仕込んだ株数は切りのいいところで100万株だったそうだ。


 会社関係やドライの資金運用のオペレーションは順調なのだが、どうも世間が騒がしい。というのは、先月辺りから新型感染病が国内で蔓延し、生活基盤そのものにまで影響が出始めたようだ。政府からも、各製薬会社に対してワクチンの開発に全力を挙げてほしい旨の強い要望・・・・が出されている。ここで、点数を稼ぐことができれば大きい。


 そういうことなので、俺は、ドライのアイデアの元、武山薬品の中央研究所にキュアポーションとヒールポーション、それにスタミナポーションを大量に持ち込み、新型感染病に対しての治験を行うことにした。本来、治験を行うには厳しい審査があるのが通例だそうだが、非常時の特例として治験の実施が許可された。政府の迅速な対応の裏では服部が与党の有力議員や政府の複数の担当者に対してポーションを使って取り入っていたことも大きい。



 いま俺は、アインを連れてドライの元に行き、今後の対応について3人で会議をしているところだ。


「マスター、新型感染病の治験結果ですが、やはりキュアポーションとヒールポーション、スタミナポーションの同時使用で顕著な効果がありました。軽症から重篤な症状を含めた100例中100例、例外なく根治できたようです」


「予想通りとはいえ、すごい結果だな。国の認可が出るまで、治験の規模を大きくしろ。各都道府県の提携医療機関で治験の実施だ。治験を大々的に行うことで国にゆさぶりをかけて早期の認可を勝ち取る」


「治験の大規模実施についての政府に対する根回しは服部で何とかなるでしょうが、全国で行うとなると費用が相当なものになります。」


「気にするな。金を使いすぎて会社をつぶしては社員が困るが、1000億程度までなら問題ないだろう。時間との勝負だ」


「了解しました。偽善とか言い始めるやからも出てきそうですね」


「偽善? 大いに結構。大々的にやれ! 宣伝も忘れるなよ。武山薬品がどれほどのことを社会になしてきたかを知らせることは大事だからな。あの役員連中バカどものせいで地に落ちた武山薬品のレピュテーションひょうばんを取り戻すいいチャンスだ。いまは、SNSもある世の中だ、それなりのインフルエンサーを100人も雇えば何とでもなる。あとは、どの程度ポーションを供給できるかだが、ドライの方では目途めどが立っているんだろ?」


「はい。マナを濃くした特別栽培室を作ってみましたー。その中で成長させた薬草はこれまで普通に栽培していた薬草と比べ5倍の効能があるようですー。いいかえれば、5倍に薄めることができますー。これから、特別栽培室を本格的に大きくしますー。特別栽培室ではどの薬草も3週間で収穫できますー。1カ月後にはキュアポーションとヒールポーション、それにスタミナポーションをそれぞれ月産2000万個分作れるようにしますー」


「ポーション容器についてはすでに外部に発注しており、2週間後に2000万セットぶんの容器が納入される予定です。ドライからポーション原液を提供され次第容器に封入できるよう生産ラインの調整を行っています」


「抜かりはないようだな。早急に認可をもぎ取って売り出すぞ。いまは皮算用に過ぎないが、国内向けなら1セット5万はとれるだろうから、2000万セット売れば1兆だ。株価が跳ね上がるな」


「マスター、問題なのは、この組み合わせですと、今回の新型感染病以外の病気も根治してしまうでしょうから、他の病気の患者数が激減し、武山薬品の既存薬の販売数量が大きく減少する可能性が有ります。医療機関も患者が減少すると経営が厳しくなると考えられます」


「それは仕方がないだろう。国民が健康になる方が、医者が裕福になることより大事だろ? 武山薬品だけ安泰ならとりあえずいいだろう。なんなら、適当な病院でも買い取って新しい医療としてポーション医療を進めても面白いじゃないか」


「それですと、医者は不要になるのではないでしょうか?」


「適当に診察してポーションを出しとけばいいんだ。少々の誤診でもみんな治ってしまうから、勤めている医師はみんな名医になれるな」


「マスター、そんなのでいいんですかー?」


「問題ないだろ。要は、病気やケガが決まった金を払うだけで100%治るんだ。これほどWIN-WINな関係はないだろ」


「医師会から恨まれそうです」


「恨むのは勝手だが、自分たちの中で自分たちの直せない病人が出ようものなら、うちに泣きつくしかないんだ。うらもうがうらむまいが何もできやしないよ」


「おっしゃるとおりでした」


「だろ」


「マスター、この前導入した電子顕微鏡ですが面白いですー。見てて飽きませんー。魔道具で同じようなものを試作しましたがまだ電子顕微鏡には劣りますー」


「その電子顕微鏡はワンセット、1億くらいしたんだろ? いかにドライでもそう簡単にはまねできなかったか」


「少し悔しいですー。薬草の栽培の方に時間を取られてなければ今頃もっとすごいものができてたと思いますー」


「そりゃ済まなかったな。薬草の方は大至急必要だったから仕方なかったんだ。それはそうと、たまにはおまえも外に出てみないか? 電子顕微鏡に限らず面白いものが武山薬品の研究所にはあると思うぞ」


「そうですねー。それは面白いかもー」






[あとがき]

ここでは、表記を、新型感染としています。

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