第86話 食事会1


 事務所に戻った俺は、さっそくドライの元に行きホムンクルスたちのことを褒めてやった。ドライの研究室に行く前にアインに出会ったのでアインも連れている。


「ドライ。ホムンクルスの二人は思った以上に有能だ。ありがとうな」


「ひゃっ、ひゃっ、ひゃ。マスターに褒められてしまいましたー。二人が帰ってきたらわたしからも二人を褒めてやるのですー」


「ああ、そうしてくれ。そういえば、ホムンクルスは食事すると言ってたな。アインもドライも食べなくてもいいが食べることもできるんだろ。そしたらホムンクルスの二人も連れてそのうちどこかに食事に行ってもいいな」


「マスター、それはいい考えですね。二人も喜ぶと思います。それでしたら、マスターが先日超高層ビルを壊したというシャンハイに行ってみませんか? 本場の中華料理を確認すれば、私が再現することが可能になりますから。ついでに、食材なども本場で仕入れてしまいましょう」


 とアインがかなり乗り気のようだ。俺は、夕食は基本家でとらなくてはいけないので、昼食での食事会でもしてみようか。


「そうだな。この週末にでも行ってみるか。そろそろ美登里にも俺のことを話しておきたいからな。こうなったら、中川たちも連れて行ってやれば、美登里の紹介も兼ねられるしな。アインは良さそうな店を探しといてくれるか? ここの3人と中川たち3人、美登里とホムンクルスの二人の3人で全部で9人か。結構大所帯だが中華料理は大人数で食べるものらしいからちょうどいいな。

 しかし、どうなんだ? 大陸の方の衛生状態は。大都市でもあまりよくないんじゃないか?」


「それでしたら、台湾のタイペイとかはどうでしょう?」


「いいところだとは思うが、俺が行ったことがないから『転移』じゃ行けないぞ」


「マスター、それならいい考えがありますー」


「何だ? ドライ」


「そんなこともあろうかと、こちらの世界で流行はやっている無人偵察機を造っていますー。それをタイペイまで飛ばしてリアルタイムの映像が撮れればマスターなら『転移』できると思いますー」


「そんなのをもう造ってたのか?」


「ひょ、ひょ、ひょ。その通りですー。しかもレーダー波長の電波に対して完全ステルス仕様ですのでどこの国のレーダーでも発見できないはずですー」


「その技術だけでも相当なものだな。ドライ、すごいじゃないか」


「またまたマスターに褒められましたー。でひゅ、でひゅ。それじゃ、今からでも偵察機を飛ばしてきますー」


 そう言って、ドライが研究室から転移陣に乗ってどこかに行ってしまった。


「マスター、あちらの世界と比べこちらは魔法などがない代わりに科学文明が進んでいます。国民も飢えで苦しんでいるようには見えません。魔法は科学に劣るのでしょうか?」


「アイン、魔法の場合は個人で独占してしまって多くの人がその恩恵を受けることが難しいが、科学は、多くの人の手で少しずつ進歩してきたせいか、多くの人がその恩恵を受けてるように見えるな。そういうところを見ると、科学の方が優れているのかもな。とはいっても、国や地域によっては向こうの世界以上に貧しい人がいるらしいぞ。結局、どっちもどっちじゃないか。

 だけど今もドライがこっちの世界のアイディアとあちらの世界の魔法技術を組み合わせて偵察機を作ったように、俺たちは俺たちでいいとこ取りをしていこうじゃないか」


「マスターのおっしゃる通りです」


 そういった話をアインとしているとドライが戻って来た。


「マスター、何かありましたかー?」


「何でもない。偵察機はうまく飛んだか?」


「もちろんですー。タイペイまでの距離はだいたい2000キロですから、3時間ほどで向こうに到着しますー。マスターが偵察機からの情報に触れることができるよう調整しますー。……はい。完了ですー」


 意識すると、蜘蛛を操っているのと同様に偵察機からの情報が脳に流れ込んでくる。今は薄雲の中を上昇中のようだ。


「飛行ルートなんかはドライがコントロールしてくれよ。おれじゃ、どこを飛んでいるのかもわからないからな」


「はい。そのつもりですー」


 アインの用意してくれた昼食をとったあと、美登里の中学での様子をホムンクルスたちの目を通して見ていたり、偵察機の視界を借りてタイペイで転移に適した場所を見つけたりしていると、高校の方が引けたようで俺のコピーと一緒に中川たちが事務所にやってきた。適当なところで、学校での出来事の記憶をコピーと共有しておいてコピーと入れ替わった。


 その日、トレーニングで汗を流したみんなと別れ、家に適当な時間に帰ると、母さんの替わりに珍しく美登里が俺を迎えてくれた。


「お兄ちゃん、お帰んなさい」


「ただいま。どうしたんだ。珍しいじゃないか?」


「えへへ。今日学校でいいことがあったんだ」


「ほう。そのいいことを当ててやろうか?」


「ええー、お兄ちゃんに分かるわけないよー」


「そうか? てっきり美登里に新しい友達ができたんだと思ったんだがな」


「ど、どうしてお兄ちゃんわかったの?」


「兄は何でも知っている」


「何言ってんのよ、もう。でも、ほんとにいいお友達ができたんだ、テヘ」


「うん。さっきは冗談で言っただけだったが、そいつは本当に良かった。他に何かあるか」


「それだけ、フフフ」


 美登里がそうとうご機嫌のようでそれはそれで良かったのだが、俺が友達をセッティングしてやったと知らせるのはちょっとまずいかもしれないな。美登里にはまだ俺のことを話すのは早いか。いや、サプライズってのもありか。よし、それで行こう。


「美登里、今度の日曜日、俺がおまえのいいことのお祝いに昼めしをおごってやろう」


「ほんとー? お兄ちゃんアルバイトしてるわけでもないのにお金そんなに持ってるの? あ、そうか。高校の入学祝いにもらったお金まだ持ってるんだ」


「まあな。それなりにお金はあるから心配しなくていいぞ。行くのは日曜でいいだろ?」


「うん。お兄ちゃん、ありがとー、楽しみにしてるね」



 次の日曜には中川はもともと事務所でアルバイトだし、村田も吉田もその日都合がつくようなので、アインに日曜の昼食のセッティングを頼んでおいた。




 週末まで、俺は高校に通いながら、授業中など窓の外を眺めている代わりに美登里の様子をホムンクルスの二人の視界を通して見ていた。


 美登里のクラスでは無視の矛先が二人のホムンクルスにも向いたようで、3人が組八分にされたようなかたちになっている。しかし、当の美登里はホムンクルスの二人さえいれば、別に他の連中に無視されようが全く気にならないようで、美登里の表情は見るかぎりだが非常に明るい。


 新たにクラスの中にできた3人組の中の二人は、際立った美少女だし、俺から見ても美登里はそれなりにかわいい女子だ。いつも3人でいる美登里たちにクラスの男子生徒たちが休み時間などにしょっちゅう寄って来るようになった。それが輪になって非常に明るく朗らかな雰囲気をクラスにかもし出している。


 他の女子生徒たちはそれが面白くないようだが、既に軍配は上がっている。いわゆる精神的勝利だ。中には美登里たちのグループに入りたそうな女子もいるようだが、これまで、無視してきた美登里に対して頭を下げる訳にもいかず、なんだか女子たちはどんよりした感じだ。そのせいもあってか、元凶である海原清美の立場が徐々に悪化してきているようだ。そのせいと思うが、海原清美はたまに他の女子生徒と口喧嘩を始めるようになった。これは意図しない収穫だ。




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