第78話 小遣い稼ぎ


 美登里のことも気になるが、とりあえずはアインの方を先に片付けてしまおう。


 夕食を終え、風呂から上がると午後8時を回っていた。それくらいなら時間的には問題ないと思い、アイン用の戸籍を買うため例の窓口に行くことにした。今回は2度目なのでビルの出入り口の前に一気に『転移』できたので楽なものだ。薄暗いビルのさらに薄暗い階段を上り、通路の突き当りにある窓口の前にたどり着いた。


「ナンダ? マタオマエカ」


 当たり前だが、前回来た時と同じ声だ。


 100万の束を前回同様3つほど窓口の前に置いてやったら、今回もすぐにその束が目の前から消え、


「今回ハドウイッタ戸籍ダ?」


「25歳前後の女だ。係累は無し。あるか?」


「今アルノハ24歳ト27歳ノ女ノ戸籍ダ、ドッチガイイ?」 


「それじゃあ24歳で頼む」


 アインも若い方が喜ぶだろうと思い24歳を指定してやったら、すぐに前回と同じく窓口から紙袋が差し出された。


「アトハワカルナ?」


「ああ。サンキュウ」


 差し出された紙袋を受け取りアイテムボックスに仕舞って、もと来た道を戻っていくと、薄暗い階段を下りた先の階段の裏側に二人ほど人のたたずむ気配を感じた。


 ほうー。俺を待伏せか?


 立て続けに二人分の戸籍を買ったので少し散財してしまったから、ここらで少し補充しとくか。ドライばかりに稼がせていると、あいつはすぐ天狗てんぐになるからな。


「おい、そこに隠れているのは分かってるんだ。出て来いよ」


 私服が返り血なんかで汚れては困るので、早着替えでいつもの黒い戦闘服になり、階段の裏に向かって声をかけてやった。


 階段を下りきったところで、裏の方から2人組の中年男がニヤけながら現れた。今の俺の格好はヘルメットを付けていないので黒いスポーツウェア姿の一般人に見えると思うのだが、俺の格好を見た男たちが少し驚いたのか臆したのか動きが止まった。


 さて、上の窓口の男とこいつらがグルだったら最低でもさっき払った300万はふんだくることができるのだが、さてどうだろう。


 前回来た時は出くわさなかったが、こういった繁華街の裏道辺りには結構な確率でこの手のバカが出没するのではなかろうか。こういったやからから寄付を募っていけば、地域社会もハッピー、俺もハッピー。WIN-WINの関係だ。アンハッピーはこいつらみたいなバカだけだ。


 ニヤけながら出て来た二人組以上に俺の方がニヤけている。いつものダテ眼鏡も風呂上がりで外しているものだから、二人組が俺の顔を見て一瞬たたじろいだようだ。それでも、2対1。数を頼んでか覚悟を決めたようで俺に向かってすごみ始めた。


「おい、兄ちゃん、おまえ、結構金持ってんだってな。俺たちにも分けてくれないか?」


「ほう、だれから俺が金を持ってると聞いたんだ?」


「誰でもいいだろ? 金を出さなきゃ痛い目だけじゃすまないぜ」


「誰でも良くないからおまえらに聞いてるんだがな。俺もあまり時間がないから、手っ取り早くしないか? おい、これが見えるか?」


 アイテムボックスから、何かの使い道があるだろうと先日拾ったままにしていた服部はっとりの手首を1つ取り出して、二人組に切断面が良く見えるようにヒラヒラさせてやった。こいつはアイテムボックスに入れてあった関係で出来立てのほやほやだ。赤い切り口からはまだ血がにじんでいて、その血が床にぽたりとこぼれ落ちた。


 最初、二人組はすぐには目の前でヒラヒラしているものが何なのか理解できなかったようだが、やっと切り取られた生々しい手首であるのを認識したようで、


「「ひっ」」


 拾った手首も少しは役だったようで、二人そろって小さく声を出した。こいつら、イッチョ前に俺から金を巻き上げようとしていた割に荒事にはまるで慣れていないようだ。


「おまえらの手首も俺のコレクションに加えてやろうか?」


 一歩前に出て、これだけ言っただけなのだが、二人組はひるんだようで後ずさり始めた。


「もう一度だけ・・聞くが、俺の金のことは誰に聞いたんだ?」


「ま、窓口の男からだ」


「最初から言え。俺に手間をかけさせるな。『スパーク』」


 バッチーン!


 薄暗かった階段下が一瞬明るくなり、二人組の体を小型の雷が突き抜けた。バタバタと倒れ込んだ二人を放っておいて、俺はまた階段を引き返し先ほどの窓口に向かった。窓口の男に別の人間だと思われるとややこしいので戦闘服からもとの普段着に着替えている。


「おい、おっさん、なめたことしてくれたな。タダで済むと思うなよ」


「ナ、何ノコトダ?」


「分かんないんならそれでもいいし、とぼけたいなら好きにしてくれ。俺は俺の思うようにするだけだ」


「何ヲイキガッテル、バカカ。俺ハ、紫幇ツーパンノ者ダゾ! 紫幇ツーパンクライ知ッテイルダロ?」


「ああ、よく知ってる。紫幇ツーパンといえば上海の本拠地がつぶれて今じゃあ散りぢりなんだってな。おっさん紫幇ツーパン崩れだったのか。もっと詳しい話が聞きたいなら教えてやるぜ。聞きたいんだろ? そういえば、俺の知り合いもおまえら紫幇ツーパンに苦い思いをしてるって言ってたな。こんなところに紫幇ツーパン崩れがいると知ったら張り切ると思うぞ」


「……」


「俺が今まで払った金を出せば許してやる。そうでなければ、おまえ、後悔もできなくしてやるぞ。大目に出す分はウェルカムだ。俺の覚えが良くなるときっといいことがあると思うぞ」


「持ッテ行ケ」


 窓口で差し出されたのは、1000万の札束ブロックだった。


「話が分かるヤツは出世するぞ。知り合いには黙っててやるから、これからもどこにも行かずここで商売を続けろよ」


「二度ト来ルナ!」


「そうはいかん、おまえ、これからも役に立ちそうだ。用事があったらまた来るからよろしくな」


「フン」


 これから、こいつをこき使ってやろう。


 使った金を回収した上、寄付金までいただいたので『転移』で自室に戻った。





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