第66話 里帰り3


 一応納得してくれたようなので、3人にアイテムバッグを配ってやった。色は真っ黒で形は直径30センチ、高さ30センチほどの袋状で、口の部分に輪っか状に紐が仕込んであり、紐を引っ張ると口が締るいわゆる合切袋がっさいぶくろのようなものだ。


 最初みんなに渡そうとしたのは俺の習作のアイテムバッグだったので持ち主以外でも使用できる欠点があったが、手渡す前にその問題に気付いたので、向こうの世界の拠点にいる魔道具の専門家に作らせたアイテムバッグを配ることにした。最初に説明した機能よりも格段に性能が高くなっている。


「みんな、今渡したアイテムバッグはさっきの説明より高性能のものにしたからな。アイテムバッグに持ち主の個人認証させるから口の部分を一度両手で持ってくれるか。……そうだ」


 3人が、俺の言葉に従って、アイテムバッグを持つと、それぞれのアイテムバッグが一瞬光った。


「これで、そのアイテムバッグは持ち主以外は使えなくなった。他人に見せたくないものなんか入れても安心だ。あと、誰かに取られたり、無くしたりしたら俺に言ってくれ。俺なら簡単に見つけることができるから」


 サービスついでに、一通りのポーションを入れておいてやったのだが、ポーションの説明をしたところ、吉田にはかなり驚かれた。


 さっそく村田が中に手を入れたり、自分の持っていた財布を入れてみたりしている。 


「丸めても少しかさばるが、その袋の口を通るものなら何でも入るからな。試したことはないが、X線じゃ中の物は確認できないはずだ」


「そうだとすると、密輸なんかやり放題になるのかな?」


「いや、X線が透過しないはずだから、不審物扱いされて最悪没収されるんじゃないか?」


「そうはうまくいかないわけだ」


「何だ、密輸したいものでもあるのか?」


「いや、冗談だよ」


「そういうことで、あんまり大したもんじゃないんだ。それでも家の中の物を整理するときなんかは便利じゃないか」


「霧谷くん、ありがとう」


「あと、村田、身長と体重と足のサイズを教えてくれるか? 約束していた戦闘服をそろそろ用意しようと思うから」


「うほー。ありがとう霧谷くん。168センチ、75キロ、26センチ」


「わかった。その身長なら65キロでいいだろう。168センチ、65キロで作るからこれからもう10キロ痩せろ」


「これでも3キロは痩せたんだけど」


「それならあと10キロくらいすぐだろ」


「そんなー」



 食後しばらく駄弁りながらゆっくりしていた。眠気を誘う気持ちのいい暖かい風が吹いている。


「少し昼寝でもしたいような陽気だけどそろそろ行くか」


 並べられた食器などを仕舞った後、最後に帆布をアイテムボックスの中に仕舞って、


「もう少し、土手を河沿いに下って行くと、国道の橋が有るはずだから、そこで国道に出てから駅前まで戻ろう。かなり距離が有るけど大丈夫だろ」


そして、


「しりとり」「りす」「スリッパ」「パリ」……


 3時間ほどかけて地元駅まで帰って来た。村田などは途中足にまめができてしまったが、自分のアイテムバッグからヒールポーション(弱)を数滴、まめの上にたらしたらすぐに直った。(弱)でもそこそこ役に立つ。単純に歩いただけだが、いい運動になった。


 今日はそのまま駅前で解散した。


「それじゃあ、また明日」


「霧谷くん、今日はありがとう」「ありがとう。それじゃあ」「さよなら」



 帰ると、家の者は皆出かけているようで誰もいなかったので、好都合だ。自分の部屋の中に置いた転移陣を刻んだミスリル版の上に立ちあちらの世界アースせかいの拠点に跳んだ。


 前回同様、転移室の小部屋から中央指揮室にいきなり転移したが、今回はアイン以下誰も驚かなかった。日本から拠点に俺が戻った時の極端な転移反応はすでに経験済みなので、アイン達がビックリしてしまうことはなかったようだ。


「マスター、お帰りなさい」


「アイン、ただいま。ほかのみんなもただいま。俺のいない間に何か変わったことでもあったか?」


「特には有りません。アガタリア王国の王都では、前回の懲罰行動による王宮破壊に伴う疫病発生等は起きていないようです。アガタリア王国の周辺各国ですが、直接的軍事行動は起こしていません。しかし、各国ともアガタリアとの国境付近に軍を集結中ですので時間の問題かと思います。あと、ツバイは依然武者修行中です」


「わかった。ドライはどうしてる?」


「ドライは研究室にいることは分かっていますが、何をしているのかはわかりません」


 ドライはこの拠点の中で研究開発を行っているマキナドールだ。魔道具を作るのが得意で何か頼めば次の日には完成品が届けられている。そういえば、先ほど3人に配ったアイテムバッグもドライに作らせたものだ。


「それじゃあ、ドライをここに呼んでくれ。それとアイン、これから、ポーションを増産していく予定だ。ヒールポーション、スタミナポーション、キュアポーション、キュアポイズンポーションの4種類が主なところだ、準備しておいてくれ」


「了解しました。薬草園の拡充をすぐに開始します。特殊な素材については採集班を組織して採集を進めていきます」


「頼む」


「アイン、例えばだが、お前がこの拠点からいなくなった場合、誰かここの指揮をとれる者がいるか?」


「フュアで問題ないと思います。ですが、私がここを離れることが有るんですか?」


「ああ、まだ決定してはいないが、場合によっては、俺の手助けにお前を俺の世界に連れて行くこともありうる」


「了解しました。準備だけは行っておきます」


「それと、身長168センチ、体重65キロ、足の大きさ26センチで俺と同じ戦闘服をフルセットで1着作ってくれるか? そっちは急いでいないからそのうちでいい。あと、鋼材が大量に手に入ったんで金属素材倉庫に入れておくから好きに使ってくれ」


 これまで、アイテムボックスに収納していった建設用の鋼材や鉄筋がかなりある。アース世界では鋼材は貴重なので重宝するはずだ。



 アインに指示を出して、しばらく待っていると、白衣を着たドライが現れた。


「マスター、お久しぶりですー。わたしをお呼びだそうですが? あれー? しばらく見ないうちにお若く見えますー」


「ドライ、久しぶりだな。おい、ドライ。前にも言ったと思うが話しながら目玉を取り出して掃除するのはやめろ。見てるとどうも落ちつかん」


 ドライが片目を取り出してハンカチだか何かの布で拭いていたのをたしなめたのだが、どうせまた始めるだろう。


「失礼しましたー。それでどういった用件ですー?」


「ドライ、俺の今いる世界に来てみないか? いろいろ面白いものがあるぞ」


「ほう、マスターの故郷の日本とか言うところですかー。興味が有りますねー。では、さっそく参りましょー」


「さっそくというが、お前、今の仕事はいいのか?」


「別に大したことをしていたわけではありませんから問題は有りませんねー。仕事はどこでもできますー」


「そうか。それならいい。行き来するのは面倒だろう、俺のアイテムボックスに収納してやるから、持って行くものをまとめておけ」


「わたしを収納しちゃうんですかー? それはちょっとご遠慮したいんですがー」


「お前じゃないよ。荷物だよ」


「それは安心。特に必要なものは有りませんねー。重要なものと、たいていの素材などはわたしの体内の収納庫に入ってますから大丈夫ですー」


「わかった。アイン、ドライを取りあえず連れて帰るからあとはよろしくな」


「かしこまりました。ドライをよろしくお願いします」


「ああ。それじゃあ、ドライ、いったん金属素材倉庫に寄ってから俺の世界に行くぞ。俺の手を握ってくれ」


「久しぶりに、マスターの手を握るんですねー。ひゃ、ひゃ、ひゃ」


「わかったから早くしろ」


「済みませんねー」




「鋼材も全部アイテムボックスから出すとずいぶんあるな。これだけあればいろんなところで役に立ちそうだ。機会があったらどんどん抜いて行って補充しとこう」


「マスター。抜いたってどういうことですー?」


「向こうの世界じゃ、大きな建物がたくさんあるんだが、建物の補強に鋼材を沢山使ってるんだ。そういった建物を壊すときには、鋼材が邪魔だろ? だから鋼材を建物から抜き取ってるんだ」


「面白そうですねー。わたしもやってみたいなー」


「ドライ、お前『収納』使えたのか?」


「いいえ、わたしは使えませんよー。知ってるくせにー」


「それじゃあ鋼材を抜き取れないだろう?」


「壊すのが楽しそーって言っただけですー」


「わかった、わかった。それじゃあ転移室に行って俺の世界に行くぞ」


「了解ですー。ひゃ、ひゃ、ひゃ」



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