隻腕の魔王
ゲレンデマン
00 序章
激しい耳鳴り中、目を覚ますとそこは全て焼き尽くさんとする火の海だった。
「えっ……? 痛っ!?」
足に裂けるような痛みが走る。手で痛い箇所を恐る恐る押さえるとそこには木の破片らしきものが突き刺さっていた。文字通り杭を打たれたように痛みは激しく、今にも泣き出しそうになりながら刺さった木を掴み、なんとか抜こうと引っ張った。
「ハァッ……ハァッ……ッ!!」
引くたびに細かく割れた木片が逆立ち、肉に食い込む。
苦痛に歯を食いしばり、早くこの苦痛から逃れたい一心で必死に引き抜く。
奮闘して漸く木片は抜けるが足からは噴水のように血が噴き出た。
足に力を入れるたびに引きちぎれそうな痛みで意識が飛びそうになる中、何度も倒れそうになりながら、どうにかヨロヨロと立ち上がる。
状況が呑み込めなかった私は痛みで痙攣する瞳を無理やりこじ開け、周りを見渡した。すると眼前には何かから逃げ惑う人達と燃え盛る村と自分の家があった。
木を弾けさせながら燃えている家を見てはっとした、家族の姿がない。まさか
「母さんっ!! 父さんっ!!」
返事はない。私は燃え盛る家の中にはいないと自分に思い込ませ、止めどなく流れ出る血を気にも止めず足を引きずりながら、人の声が多い方に歩く。
逃げ惑う人々に肩が何度もぶつかり、転びそうになりながら、声がする方向へ歩いていく。
流血している足はもう棒みたいに感覚は無く、体力の限界に達しようとしていたその時、家族らしき姿を見つける事が出来た。家族は見たことない暗闇を切り取ったかのような鈍い黒い鎧を着た骸骨に捕まっていた。
「母さんっ! 父さんっ!」
家族ははっとして私を呼び止める。
「サアラ!」
「サアラ! 来るな!!」
父は私を止めるが私はその言葉を聞かなかった、聞きたくなかった。やっと会えたのだ。必死に家族の元へと歩ていく。
「サアラ! 危ない!」
そう父が言った時、首に衝撃が走る。どこから現れたのか後ろにはその黒い骸骨がいて、首を斧の柄で殴りつけていたのだ。腕を拘束され、首元に鋭い斧を突き付けられた。
私が拘束されると突如何もない空間に大きな黒い穴が開いた。今にも吸い込みそうなそこからゆっくりと白髪の男が現れる。その男は胸に服越しからでもわかる大きな火傷の痕を持つ男で私達を一瞥すると、くいと指で骸骨に合図を出す。すると骸骨は私の首に斧を押し当てた。
「よせ!!」
父が叫ぶと白髪の男は合図を出し、骸骨は動きを止める。そしてその氷のような鋭い目で父を見た。
「私はどうなってもいい!だから娘だけは見逃してくれ!」
男は持っていた剣を抜き、父の喉元に突き付ける。
「たのむ……」
辺りがゴウゴウと燃え盛る中、父は必死に訴えた。すると訴えが通じたのか男はフッと笑い合図を出し、骸骨兵の斧を私の喉元から下げた。
「いいだろう……。娘は生かしてやろう」
父はそれを聞き、安堵したのか息を吐いた。その時だった。
男は父の心臓めがけ剣を突き刺す。
「がっ!?」
グリグリと剣を刺し込み父が意識を失ったのを男が確認すると、今度は泣き叫ぶ母を切りつけた。
「母さんっ!! 父さんっ!! 離せこのっ!!」
私は必死にもがき、家族の方へ行こうとしたが骸骨の力は信じられないほど強く、振りほどけない!いやだ!いやだいやだいやだ!!
ぐったりと動かなくなった父母を見て、神経が張り裂けそうになり叫けんだ。しかしそれを許さないが如く頭を骸骨につかまれ、男に顔を向けさせられる。
「クククッ、憎いか?」
「ッ……!!」
男が嘲け、聞いてきた。その瞬間、堰を切ったように悲しさや悔しさは一気に憎悪へと変わった。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
男は指で合図し、骸骨は私に斧を振り下ろす。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
振り下ろした斧は私の左腕の二の腕から先を切り落とした。私はあまりの激痛に悶え苦しみ、血は水をまき散らしたかのように噴き出て、その場に倒れこんだ。
「ぐっ……う……」
男は私の切り落とされた腕を持ち、呪文を唱えだす。
「かの世の魔王よ……答えたまえ」
すると持っている腕は宙に浮き、突現発火した。そして天空に禍々しい大きな穴が開き、そこから赤く溶けた金属が垂れ、燃えている腕にかかった。腕にかかった金属は腕を覆いあっという間に腕は黄金の義手へと姿を変えた。
「ククク!これで我が宿願は達成される!!」
男はその赤熱する義手を私の腕の断面に押し当てた。
「があぁぁぁぁ!!」
肉が焼ける音と共に義手は私の腕と融合した。そして男はそれを確認すると物言わぬ骸骨に命令する。
「残りは殺せ」
骸骨はその言葉を聞くと待ちわびてたとばかりに逃げ惑っている人々を切り殺し始める。
私は痛みで頭がおかしくなりそうになりながら必死に家族へ声をかけ続けた。
「父さんっ……! 母さんっ……!」
私は家族を力の限りゆすったがそこにはすでに息絶えた家族があった。それを深く自覚した時、胸に穴が開いたような喪失感と肉を蝕み燃やすような憎悪が溢れ、声にならない慟哭を上げた。
炎は迫り、辺りは業火に包まれる中私は叫ぶ。そしておびただしい出血とともに私は父母に覆いかぶさるように意識を失う。
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