二人きりの保健室

@山氏

病弱なあの子

「失礼しまーす」

 俺は右足を大げさに引き摺りながら保健室に入った。実際、大した怪我はしていない。少し足を挫いただけだ。

「って、アレ? 先生いねえのか」

 保健室には誰もいない。俺は適当に椅子に腰かけ、先生が来るのを待った。

「湿布とかあればそんでいいか」

 俺は座ったまま、棚の方を見まわした。よくわからない薬品が並んでおり、湿布の類は見当たらない。

「ん?」

 周りを見渡していると、ベッドで寝ている人が見える。

 誰もいないわけではなかったのかと、独り言を声に出していたことを後悔する。

 しかし、起きる気配はないので、おそらく聞こえていないだろう。俺はほっと一息ついて、寝ている人の方を覗き込んだ。

 顔がはっきり見えたところで、パッチリと目が合う。

「よ、よう」

 俺は咄嗟に声をかけ、彼女から離れた。寝ぼけた様子の女生徒は、目を擦り、体を起こした。

「……おはよう健人君」

 寝ぼけた様子の彼女は、クラスメートの真由。いつも風邪気味なのかマスクをしており、頻繁に授業を抜け出して保健室に行っている。寝ているときは流石にマスクは外しているようだ。

「なにかあったの?」

 眠そうにあくびをしながら、彼女は俺に言った。

「ちょっと足を挫いただけだよ」

「それは大変。早く冷やした方がいいよ」

「ああ。でも、湿布の場所がわからなくて……」

「そっか、今先生いないんだ」

 真由は立ち上がり、先生が使っている机の引き出しを開け始めた。

「お、おい。勝手に開けていいのか?」

「え? うん。だいたい何がどこにあるかわかるから」

「そういうことじゃなくて……」

 真由は俺が何を言っているのかわからないと言った風に首をかしげると、机から湿布を出した。

「どこが痛い?」

 彼女は湿布を持って俺に近づいてきた。

「……自分でやるからいいよ」

 俺は何やら恥ずかしくなって真由から半ば無理やり湿布を取ると、右足首に張ろうと屈もうとした。

「っ……」

 突然、足に激痛が走り、動きが止まる。

「……やっぱり、貼ってあげるよ」

 今度は、真由が俺から湿布を奪い取り、俺の近くにしゃがんだ。

「右の足首に貼ればいいかな」

「……ああ」

 俺は真由の方を見ないように返事をする。先生でもない、クラスメートに看病されるなんて気恥ずかしい。それに、相手はいつも風邪気味っぽい真由に、だ。

 少しすると、湿布の冷たさが足首に当たった。俺は一瞬体をビクつかせる。真由は気にした様子もなく、俺の足首に湿布を貼った。

「はい、おしまい。しばらく激しい運動はしちゃだめだよ?」

「先生みたいなこと言うんだな」

「こんなので悪化したら健人くんも嫌でしょ? それに、私はグラウンドで走ってる健人君が好きだから……」

「え……?」

「あ、その……。今のは……」

 真由は恥ずかしそうに顔を赤くして、顔を手で覆って隠した。

「あ、ありがと……。じゃあ俺、戻るわ」

 俺は逃げるように保健室から出た。

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