斑入りの葉っぱ

巨神兵

斑入りの葉っぱ

「どうしてこんなことを」

まったく理由が分からなかった。

「こんなことってどのこと?」

「さっき言ってた、本当かどうかわかんないけど、人類を滅ぼしたっていうの」

自分で言ってても信じられるものではなく自分がおかしくなってしまったような気分がする。

「衛星写真は見たことあるでしょ。」

「はあ」

予想外の応答に当惑する。

「意外に世界って緑色してるんだよね、私たちは街に住んでるから実感は出来ないけど。それでね、人間の居住域の部分は色が薄くなっててね、斑入りの葉っぱ見たいに見えるの。それって美しくないでしょ。」

「美しくないって......それだけ?」

「ええ、美しくないから」

「それだけでみんなを?」

「ええ」

美しくない

それだけのことで人間は滅ぼされなくてならないのか。そもそもそれは目的を達成するための手段として適切な物なのか。美しい地球を守ろうとしている人たちだっていたはずだ、きっとこれからはそういう活動は盛んになって行く。それを盛り上げていけば時間はかかったとしても地球環境は守ることができる、むしろそういう手段を選ぶことこそ過去の人類の行為に対する清算となり、瞬間的な荒治療よりも意義有るものになるはずなのに。

「だいたいさ、そもそも環境問題になんか興味あったっけ。そんなそぶり見せてなかったけど。せっかく環境保護運動が盛り上がってきてるんだし、こんなことしなくても良かったんじゃ。」

「自然を守りたいからじゃなくて美しくなかったから。都市になったところの色が薄く灰色になったまだら模様で、醜いし、不完全でしょ。」

わからない、わからない、わからない。どうしてそれが人類を滅ぼすことに繋がるのか、あまりに急展開過ぎる。

「それでもみんなを、人類を滅ぼさなくちゃいけない理由にはならないんじゃないの?これからの努力次第でなんとか出来たはずじゃない?」

「それはそうなのかもしれない。だとしても、過去は消えることはない。つまり人間が不完全であることには変わらない。そうでしょ?」

「だとしても、その失敗を克服することが出来たのだとしたら後から見れば不完全とは言えないかもしれないでしょ。でも、人類が滅んでしまったらどうやっても失敗を取り戻すことは出来ない。それは完全であることを放棄して不完全な状態にとどまることを選んだに過ぎないし不完全であることよりも悪い事なんじゃない?」

◇ ◇ ◇

「そうね、その通り、私は間違っていたのでしょう。」

あの子はとても論理的だったからきっとこんな風に私が間違っていると指摘するだろう。

私もそこに異論は無い。自分でもどうしてそんな考えに至ったのかは分からない、論理的に考えれば正しくないのは分かるはず。それどもあの時の私の感情に、あの時感じた不完全感に嘘偽りはない。「自分の感情に嘘をつかないって意味では正しかったのかもね。」

それにそんなことはつゆほども信じていなかった、本当に思うだけで人類すべてが消えてしまうなんて。

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斑入りの葉っぱ 巨神兵 @Ichiha

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