第61話 対策は
遠くに見えていた土煙が徐々に俺の方へと近づいてくる。
そして、俺の15mほど手前でその動きがピタッと止んだ。
「来る!」そう判断した俺は飛びのくようにして、硬化させた土地へと一瞬の内に移動した。
すると、俺が立っていた場所に地中から巨大な口を開けたグラボイズという魔物が頭部だけを出すようにして現れた。
俺がその姿を見て思った事は、その体がどれほどの大きさなのかという事だった。
そして、地中に潜るさいに口を閉じた時の頭部の大きさから推測して、今の硬化させた土地の広さでは十分な防衛圏を確保出来ないのではないのかという思いだった。
俺は直ぐに拠点の中心に停めてある幌馬車の所まで戻ると、二人に説明をすることもなく、土地の硬化範囲を半径20m・地下20mにまでその範囲をそれぞれ拡げた。
「エディオン様、どうしたんですか?急に魔力を放出したりして...」
ソフィアが心配そうに幌馬車の中から、俺に対して声を掛けてきた。
「いやぁ、グラボイズが想定外な大きさの化け物だったから、俺もちょっと慌ててしまったよ。それで急いで土地の硬化範囲を拡げてしまったんだ。
説明も無しにやってしまってごめんごめん」
「エディオンにしては珍しいわね」
ヘザーさんも、俺の慌てぶりに困惑していた。
俺は、二人とシャルの居る幌馬車の中に入ると、直ぐにポーチから紙と羽ペンを取り出して、頭部だけだが紙にその姿を書きながら大きさを説明した。
「頭部の大きさはこんな感じなんだよ。問題は体全体の長さがどれ位かという事なんだけれども」
「私が魔力感知で追跡していた感じからすると、最初に土煙が上がった場所からエディオン様がいらした場所まで、到達するのに掛かった時間を鑑みて...全長が長すぎると移動するのに時間がかかり過ぎますから、最大でも体全体の長さは10m~15mの範囲ではないかと私は推測します」
「そうだね。地中から飛び出してくるときは結構な速さだったから、それで納得がいくよ」
「それで、駆除は出来そうなの?」
「思い当たるやり方は有るんだけれども...」
実際にやってみないと分からないので、俺は返答の言葉は濁してしまった。
その日の午後、俺達は荒野の端に見えていた森の入口へと転移してきた。
「エディオン、森に来たのは良いけれど何をするの?」
「取り敢えず、ゴブリンを生け捕りにしようかと...」
「えっと、どういう事ですかエディオン様?」
「あの化け物、グラボイズをおびき寄せる囮にしようかと思っているんだよ。
ゴブリンは魔石は有って無いようなものだから、魔石の力で進化する事は無いと思うんだよね」
「でも、普通の獣ではダメなの」
「普通の獣は、数を揃えるのが大変だからだよ。ゴブリンだったら数は直ぐに集まるからね」
「そういう事ね。こういう時には、役立ってもらわないとね」
この後、用意しておいた檻の中には10体の生きたゴブリンが収まっていた。
翌朝......。
早速、俺達は捕えたゴブリン1体を眠らせると足枷を嵌めて、俺が昨日立っていた場所よりももう少し先の方へ放置した。
そして、俺達は様子を見る為に硬化させた土地の端で待機していた。
目覚めたゴブリンが、その足に嵌められた足枷を外そうと暴れ始める。
「エディオン様、あそこで土煙が上がりました」
「エディオン、向こうでも上がったわよ」
ウォンウォン!
シャルの吠えた方を見ると、そこからも土煙が上がっていた。
「参ったなぁ。この一月の間にかなりの数が増えたんじゃないかな」
「でも、人は居なかったはずですから、最初から居たんじゃないですか」
「それもそうか。餌が無いと生きていけないものな」
「それか、共喰いという事も考えられるわよ」
「確かに、その線もあるね」
ゴブリンが暴れる度に、俺達の見える範囲で土煙の数が増えていく。
全体では15箇所くらい土煙が上がっただろうか。
「困った」俺がそう思った瞬間、1体のグラボイズがゴブリンを大きな口で吞み込んでしまった。
すると、次の瞬間...足枷だけ吐き出して、地中へと潜ってしまった。
「消化するのが、異様に速くない」
「多分、嚙み砕く機能があって、嚙み砕けなかった金属を吐き出したんじゃないですか」
「取り敢えず、1体何とかして倒して体の構造を調べないと、迂闊に駆除も出来ないわよ」
「今のところ頭部しか出さないし、直ぐに潜ってしまうのが難点だよね」
その後、俺達は対策を話し合う為に、幌馬車へと戻ったのだった。
1時間後......。
「この方法で、やってみてダメなら次を考えよう」
「そうですね。やってみるしか無いですね」
「ポイントは、そのタイミングよね」
「囮に喰らい付くタイミングでキッチリと地中を硬化させよう。これで捕まえられれば対策が立てやすくなる筈だから」
方針が決まった所で昼時となったので、腹ごしらえをして午後一で行動に移ることにした。
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