遍く通じた彼女の話
木染維月
序-あの頃私たちは
あの頃私たちは、女子高生だった。
たった一人だったけれど友人がいた。冷たい屋上階段の踊り場で、膝を並べて弁当を食べた。毎日特に意味も考えず登校しては彼女と未熟な思考の話をして、上手く協調性を持てない自分たちを笑い飛ばした。ある時なんかは眼鏡を取って三つ編みを解いてスカートを折って、いかにもそこらに居そうな今どきの女子高生の真似事をして遊んだりもした。決して多数派ではなかったが、それでも毎日楽しかった。
当時は自分たちが『女子高生』だなんてカテゴリには微塵も当てはまらないと思っていた。異端で、異常で、普通じゃないと思っていた。
しかし、「自分たちにとっての普通、つまりは自然体でいればそれでいいのだ」という不遜な態度、自分たちが普く通ずるのだというその自信──それらは間違いなく『女子高生』だったと、この歳になって思う。
あの頃私たちは、確かに『女子高生』だったのだ。
就職三年目、今年で二十五になる。三年──その昔は起承転結があって感情と出来事に富んでいた「三年」という年月も、今となっては何の変化もない、一本道の歩き出しといったところでしかない。仕方の無いことだと思う。大多数の人間はそうでなければならないし、それが人生というものなのだ。
それが──それが、『普通』というものなのだ。
多数決だ、と、高校生の私はそう言った。倫理も正しさも美しさも関係ない、この世は多数決だけで動いている。多数派でない者は排斥される。そういうふうに出来ている。
だから私は今日も満員電車に揺られている。多数決の多数派になるために。排斥されないために。
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