【百合】あなたが現れるまでは…

@rii0815

第1話



あたしにとって大切な人って

なんなんだろうか。


いつか出合える日が来るのだろうか…。



「よし。がんばろう。」


レディースのスーツを綺麗に着こなしおかしな所はないか全身鏡を目の前にくまなくチェックする


「リップもう少し薄い色がいいかな」


初めての社会人

緊張感で私の鼓動は早い


ブー


私が身だしなみをチェックしているとスマートフォンがメッセージを受信した


誰だろうか


スマートフォンを覗いてみると「薫子さん」と表示されていた


私は物心がついたのと同時に親に捨てられ施設で育った

薫子さんはその施設で私のことを担当していた人だったのだ


初めての就職頑張れ♪


という短いメッセージ


「ふふ…『ありがとうございます』と…。」

一言返事を返し私は家を出た


私の名前は 高松 夕陽(たかまつゆうひ)


私は小学校5年生の頃に施設に入れられ問題児だった。

捨てられるまではお酒とギャンブルに溺れた父親と姉弟差別のすごい母親からの暴力が毎日続いていた。時には父は包丁を振り回すことだってあった。私には4つ年下の弟がいた。父と母は弟だけを物凄く可愛がっていた。それはなぜだか分からなかった。


「おい。クソったれ。酒買ってこい」


「…子供には売ってくれないよ」


「はぁ?!」


ガシャン!!


「っつ!!」


「てめぇ誰に口聞いてるんだよ?あ?」


「…ごめんなさい…」


毎日お酒を買ってこいと言われ、もちろん今の時代お酒やタバコなんて未成年にお使いだろうが売るはずない。それでもうちの父は持ってくるまで絶対おうちに入れなかった。言い返したりすると当たり前のようにお酒の一升瓶が飛んできた。一升瓶が壁に投げつけられガラスの破片が飛び私のおでこに飛んできて3センチぐらいの切り傷ができた。おでこから血を流している私を見て母は


「見てぇ、ゆうが(弟)あんな使えない人間にはならないでね」


と言った。


私の洋服は3着ぐらいしかなかった。だから学校ではいじめられた。虐待とか家庭的な問題は今では当たり前?だと思うけどもちろん先生達は見て見ぬふりをした。何度か日記に書いてみたりして提出してSOSを出したけど返事なんてものはなかった。はなまるって。何に対してのはなまるなのかなぁ。なんてノートに大きく赤いペンで書かれたはなまる印をみてそんなことを思った。

毎日苦しかったよ。クリスマスやお正月になると周りのおうちは賑やかだった。

お家を飾り付けしてたりみんなで遊んでたり私はいつもそれを隅から眺めているだけだった。


小学校5年生にあがり全く喋らなくなった私はお母さんにドライブに連れていくと言われ、車に乗せられ川沿いに捨てられた。捨てられたのはすぐわかった。

私を下ろして進む車を眺めながら


あの人達はもうここには戻ってこない


幼いながらもそれはすぐに分かった。

その後どーゆー流れだったか…全く覚えてないけど知らない間に施設ってところにいた。


「ゆうひちゃん。体みせてもらってもいい?」


私洋服をめくりながら写真を撮る女の人。この人が薫子さんだった。

薫子さんは私の体をみて引いていた。

たばこの根性焼きの跡の多さやカミソリで切られたあとが複数ある背中。虐待が悪い事だとうちの両親は察していたため洋服から出る場所は綺麗なままだった。でもそれは私が長袖しか持っていなかったから袖を少しめくれば全て痣だった。


「どうして…なんでこんな傷だらけなの?」


「………。お酒を…買ってこれなかったから…」


「そんな…。」


それから施設の生活は始まったけど私にはだいぶ苦痛だった。


「お前も捨てられたんだろ?」


「…。」


「おいこいつ喋んねーぞ!なんか話せよ!」


男子に胸ぐらを掴まれたことがあった。

虐待のせいで暴力的な思考がついた私はこの男の子をボコボコにした。


「ダメでしょ!ゆうひちゃん!」


「精神科に送った方が宜しいのでは…?」


「違うんです、この子は両親からひどい暴力を…」


「それはここにいるみんなそうですよ!!!じゃないとこの子達はこの場にいません。再教育の場です。あまりにもゆうひちゃんの行動がエスカレートするようならばこちらも手段を選ばせて貰います」


施設長に何度も頭を下げる薫子さんを覚えている


でもそれから私は薫子さんが付きっきりで愛情を注いでくれた。それで私の精神状態は安定していき、施設の子達に手を出すことはなくなった。それから薫子さんが合間合間に毎日勉強などを教えてくれて中学も高校も成績はトップという順調に学校生活も送った。


施設を出る前に私は薫子さんにこんな質問をした


「どうして私なんかに熱心に向き合ってくれたんですか?」


薫子さんはクスッと笑った


「それが仕事だから?一応言っておきますけど、私はあなただけを特別扱いなんてしてない、みんな対等に接していたわ。あなたはちょっかいを出されなければおしとやかで優しい子なのよ。あと真面目ね。だって、覚えてる?ある女の子が精神状態が不安定で暴れ回ってた時あなたはその子に引っ掻かれながらもその子の手を取って優しく『自分を責めないで。』と言った。声は小さかったけどはっきりあの子には伝わっていたわよ。私はそれを見て自分も同じ境遇にいるはずなのにって思ったのよ。あなたは強くて優しい子よ。」


その言葉を聞いて知らない間に私の目からは涙が出た。


私のことをほめてくれた人なんていなかった。

成績トップを維持してても

「施設育ちのやつがトップだってよ。カンニングでもしてんじゃねぇのか?」

そう言われ続けてきた。

私達虐待被害者は常に承認欲求で溢れていたのだ。

誰かに認めて欲しかった。褒めて欲しかった。


「ありがとう。薫子さん。私頑張るね」


そう残し施設を後にしたのを覚えている

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