草原の厭夜
武州人也
とある皇子の境遇
だだっ広い草原に、
「はぁ……」
その一つの中で、一人の少年が、寝台に寝転がりながら溜め息をついていた。その体には何一つ身につけておらず、汗や体液に
この少年、
この美少年が、豊かな籐の地から遠く離れた草原の穹廬にいることには、とある事情がある。
中華の地の北辺には、毎年決まって秋になり馬が肥えると、騎馬民たちが大挙して押し寄せ
その騎馬民たちを統一した、強力な部族が登場した。それが、馬孫と呼ばれる騎馬民である。馬孫は、
籐の建国の祖である初代皇帝
今の馬孫の女王は
移動の自由は、一切なかった。王庭を移動させる際や、たまに女王の巡幸に連れ出される以外は、ずっとこの穹廬に幽閉されている。何度か、穹廬からの脱走を考えたこともある。けれども、王庭だけあって警備は厳重であり、結局それを行動に移すことはしなかった。王庭は、彼にとってまさしく鍵のかかった檻そのものであった。
疲労で五体の萎えた劉雍の耳が、足音を拾った。首を動かして穹廬の入り口を見ると、筋骨隆々とした馬孫の女が中に入ってきていた。夏であるためか、腕や脚を露出させるような軽装をしていたが、その姿は、まるで逞しい筋肉を見せつけるかのようであった。
弁麗は、自分の部下たちにも、自らの夫である劉雍を手籠めにさせた。代わる代わる違う女が現れては、その幼い肉体を辱めた。抵抗などは、一切できなかった。この与えられた穹廬の中で、劉雍は彼女の玩具となるより他はなかった。
事が終わると、女は穹廬を退出した。もう、今日はこれで終わりだろう。疲れ果てた劉雍は、泥のように深く眠った。
明くる朝、劉雍は近く川で身を清めた。傍には、屈強な女二人が、じっと劉雍のことを監視している。その虎狼のような猛々しい目つきは、彼から脱走の意志を失わせるに十分なものであった。
穹廬に戻ると、三人の女が待ち構えていた。その中の一人が、嗜虐的な笑みを浮かべると、
「
と一言、劉雍に指図した。当初は馬孫語など全く分からなかった劉雍も、今は彼女たちの話す言葉がすっかり理解できてしまうようになっている。言われるがままに伏せた劉雍の頭を、その女は踏んづけた。曲がりなりにも皇族の血を引く彼である。このような辱めがどれ程その心を傷つけるかは、察して然るべきである。
その日は、その三人の他にも、さらに二人の女の相手をした。その容貌の麗しさ故に、劉雍はすっかり、王庭の女たちの慰み物と化していたのである。
気が狂いそうな生活を、劉雍は一年と半年続けた。彼が狂わずにいられたのは、ある一つの希望を信じていたからであった。
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