第183話
「アルス、魔法王ラルググラストの話は聞いた。どうして、早めに相談しなかった?」
「忘れていた」
父親であるアドリアンの足が一瞬止まったあと、頭をゲンコツで叩かれた。
「とりあえずだ。アルセス辺境伯には、何か言い訳を考えておけよ。今みたいに国が傾きかけない事情を忘れていたと言ってみろ。首が飛ぶぞ」
「親父、それは大丈夫だと思う」
「そうだな……。まったく――」
深い溜息をついたあと、歩き始める父親のあとを俺は付いていく。
正直、魔王と魔法王を倒したあと――、俺はどうすればいいのか分からない。
ただ、フィーナが生きてくれればいいと思う。
それに――。
天幕の前には、兵士が2人に魔法師が2人――、合計4人が立っていた。
「これは、アドリアン様」
「世事はいい。それよりもアルセス様は、中に?」
「はい。アドリアン様が、お戻りになられるのをお待ちしておりました」
「そうか……」
兵士の言葉に父親の声が沈むのが分かる。
何しろ、食事をしてから来たのだ。
待っているなら、それなりの時間を待たせていたことになる。
しかも父親が騎士爵に対して、相手は遥かに格上の辺境伯――、どう考えても待たせていい相手ではないんだが……。
ただ、何度もやり直しをしてきて分かったことは、辺境伯も父親も母親には配慮していた。
だから――、母親が引き止めたと言えば何とでもなりそうだが――。
父親は、そういうことはしないからな。
父親に続いて俺も天幕に入る。
するとシューバッハ騎士爵領内の地図が広げられている大きなテーブルを囲むようにして、リンデール、アルセス辺境伯、アリサが立っていて俺達を見てきた。
「ずいぶんと時間が掛かったな?」
「はい」
特に弁明するつもりはないのか、アルセス辺境伯の言葉に頷くだけの父親。
その姿を見ても、アルセス辺境伯は眉一つ動かすことはない。
「遅れた事くらいの些末な事は別に構わない。それよりアルス」
「はい」
「魔法王ラルググラストの件――、どうして黙っていた?」
「黙っていた訳ではありません。何度も同じ時を繰り返した結果――、記憶の欠落があり先ほど思い出しただけです」
かなり苦しい言い訳だが、これで通すしかないだろう。
「ふむ……。まあ、よい――。それよりも、アルス――、お主は以前に魔法王ラルググラストを倒したそうだな?」
「はい」
「それは、どうやって倒したのだ?」
「どうやって……」
そこまで聞かれたところで、頭の中のモヤが急速に晴れていくような感覚が――、体を包んでいく。
どうして、忘れていたのか不自然と思うくらいに――。
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