第180話

 悪い予感――、予感というのは当たってしまう。

 それが、どういう意味を持っているのかと考える前に――、本人が意図する前に提示されてしまう。


 だからこそ、俺はアリサの言葉に一瞬――、息を飲んだ。

 そして、何も言葉を発する事も出来ずに立ち竦む。


「アルス君?」


 心配をしてくれているのか、フィーナが眉端を下げながら語り掛けてくる。

 だが――、俺には彼女の目を真っすぐに見ることは出来なかった。


 違う……、彼女を瞳を直視できるわけがない。


 俺は死ぬのが嫌で――、怖くて――、それで逃げ出す選択をして……、フィーナを利用して……、村の皆を捨てた。

 その結果が、魔王復活――、そしてフィーナの死。


 俺は……、彼女――、フィーナに心配されるほど良い人間じゃない。

 転生してきて、生まれ変わっても――、何度死んでやり直しても自分可愛さに誰かを犠牲にした俺には、彼女の好意を受け止める資格なんてない。


「二人は……、二人はどこまで……」


 縋るような気持ちで俺は辛うじて話すことができた。


 俺が彼女達の記憶を読み取ったのは、断片的な物に過ぎなかった。

 だからこそ、一種の賭けでもあり――、そして自分が罪から逃れたいという気持ちの表れでもあり――。


 そこまで考えたところで、思わず自嘲してしまう。


 なんて浅ましいのだと――。

 自分から罪の告白をせず、誰かの行動に頼ってしまう。


 それが……、そのことが――、どれだけ浅ましく悍ましく腐っていることか……。


 そんな選択しか出来ない自分自身が気持ち悪く反吐がでそうだ。


 結局、俺は自分自身の事しか考えていない。

 そして、いま必死に魔王討伐のために動いているのは過去に自分が犯した過ちを何とかしようと……。


 ――いや……、それも違う。


 目の前で、フィーナを殺されたこと。

 

 違う……、俺のためにフィーナが殺されたこと……だ……、その事実から目を背けるために! 俺は、必死に魔王を倒そうとしているだけだ。


 たしかに魔王を倒したい気持ちはある。


 ――それでも、それは決して俺の本当の願いではない。


 俺は、フィーナを自分で起こした行動のせいで殺してしまったことに――、その現実に耐えきれず、その思いから気持ちから逃げるように、考えと思いを憎しみに挿げ替えて魔王を殺そうとしているだけだ。


 なんて腐っているのだろう。

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