第172話
一本道であるのに会わないのは、明らかにおかしい。
それに兵士が急に父親に軍の逗留地にくるようにと言いにきたのも疑問が残る。
まるで、魔王城で見つかった物の中に、俺に知られたくない物が存在しているから、俺を遠ざけているように感じてしまう。
「はい、夕食が出来たわよ。アルス、用意を手伝ってくれるかしら?」
母親の言葉に一瞬、無言になってしまったが続いて「アルス」と名前を呼ばれてしまうと、さすがに断るわけにもいかず頷く。
とりあえず、全て憶測にしか過ぎない。
明日、アルセス辺境伯の元にいけば分かることだろう。
俺はお皿の用意や、スプーンの用意をする。
すると母親が青銅製の鍋をテーブルの上に置く。
そのスープには見覚えがあった。
「お母さん、これは?」
「これは鳥のスープよ!」
母親の言葉に俺は小さく溜息をついた。
何故なら日本と違って出汁を取るという食文化が無いから母親の鳥のスープは美味しくなかったりする。
「とりあえず、領地の問題が片付いたら昆布でも探す旅にでようかな」
「旅? お母さんも付いていくわよ!」
「えっと、そういう旅ではないんですけど……」
魔王城に行っていたとは思えないほど、他愛もない話をしながら俺は食事をしたあと、体を拭いてから床に入った。
アルスと別れた魔法師団長アリサは、フィーナを供だってアルセス辺境伯の陣地へと戻っていた。
「急な報告とは何だ?」
疲れを微塵も見せずに天幕の中に入ってきたのはアルセス辺境伯と、軍を統括するリンデール。
「はい、魔王城に関しての報告です」
「今は、投石器の設置に伴う兵士の待機場所や対応で忙しいのだが、そんなに重要なことなのか?」
「重要であるかと言うと、それは分かりませんが……」
「分かった。何か重要な物を見つけたのだな?」
アリサの言葉に、アルセス辺境伯は溜息混じりに言葉を紡ぐと椅子の上に腰を下ろす。
「フィーナ、出してもらえるかしら?」
「は、はい」
次々とアイテムボックスから出されている鋼で作られたと剣や槍は膨大な量に及ぶ。
青銅器が主流の現在の世界においてはロストテクノロジーといって良かった。
「これは……、遥か昔に失われたと言われている」
「はい。おそらくは製鉄技術かと――」
「ふむ……、これは王宮も黙ってはいないな」
「恐らく事実関係を問われる可能性が非常に高いかと思われます」
アリサの言葉に、アルセス辺境伯は小さく溜息をつく。
「リンデール、お前はどう見る?」
「一兵士として軍人としては持ってみたい物でありますが、遺失された技術で作られた物ですと、王国上層部も黙ってはいないでしょうし、王宮お抱えの鍛冶職人による再現が始められるはずです」
リンデールの言葉に「――で、あろうな」と、アルセス辺境伯は頷く。
「ところで、それは?」
フィーナは軍議が行われる際に使われるテーブルの上にアルスが見つけた日本語で書かれた文字の本を置くと、アルセス辺境伯は本へ視線を向けて言葉を紡いでいた。
「それは、シューバッハ騎士爵の子息であるアルス君が見つけた物になります」
「なるほど……」
アリサの言葉に頷くとアルセス辺境伯は、本を手に取り中身を確認していく。
「私が知る文字ではないな。アリサ、お前は読めるのか?」
「いえ――、エルフ文字でもローレンシア大陸共通言語でもありません。おそらく別の国の言語だと思いますが100年近く生きてきて、そのような複雑な文字を私は見たことがありません……。ただ、二人を除いて――」
「二人? お前の知り合いなら読めると申すのか? ――して、その者はエルフ族の森に?」
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