第163話
それに村の人間を悪戯に刺激してしまえば、軍隊の動きにも制限が掛かってしまう可能性だってある。
そして失敗すれば、大勢の人間が死んでしまう。
だが――。
果たして、それでいいのか?
本当に、情報を規制していていいのか?
少しでも逃げられる選択肢も作っておくことが――、本当の真実の情報を伝えることこそが必要なときだってあるのではないのか?
俺には抜け落ちた記憶がたくさんある。
だからこそ、情報がどれだけ大事なのか分かっているつもりだ。
そして、ここに来て俺は思った。
魔王が居るという情報を開示して村人へ逃げる判断をつけさせる必要もあるのではないのか? と――。
たしかに、俺の傲慢な思いかも知れない。
「僕は見てきました」
「――何をだ?」
俺の言葉にアルセス辺境伯の眉間に皺が寄る。
おそらく下手なことを言うようなら、厳しく追及されるだろう。
――だけど。
「僕は自分が死んだ後の世界を見てきました」
「――な!? そ、それは本当なのか?」
俺はアルセス辺境伯の言葉に迷いの無い表情で頷く。
――俺が死んだあとも続いている世界。
そこは、多くの人が悲しみに暮れている世界で――、誰にも語りかけることが出来ない場所だった。
「はい。僕は勘違いしていました。僕は同じ時間を繰り返しているのではなく別の異なる位相の世界に移動していたのです」
俺は断定口調で話す。
全ては推論でしかない。
でも、それが真実かどうかは俺にしか分からない。
――なら、ハッタリで相手を納得させるしかない!
「……そうか。私も、その可能性は考えていたが――」
「それはアルセス辺境伯様のお考えで?」
俺の問いかけにアルセス辺境伯は、「アリサからの話だ」と、答えてきた。
「そうですか。それなら、僕が言いたいことも分かると思います。皮袋の用意は明日までに出来る予定です。それが終わり次第、住民はアルセイドへ避難する方向する方針です」
「……アドリアン良いのか? 騎士爵の――、領主はお主なのだろう?」
「息子が領民のために行動したのなら止めることは出来ませんよ」
「お父さん……」
「アルス。お前が何を背負っているのか俺には分からない。だが――、俺は領主であると同時にお前の父親だ。お前が領民を守るために考えて行動するのなら……、俺はアルス、お前を全力でバックアップしよう」
「ありがとうございます」
俺は父親の言葉に頭を下げた。
実の親子であるか分からない。
それでも、俺の言葉や考えを尊重してくれるというなら、その期待には応えないといけない。
「……わかった」
アルセス辺境伯は、大きな溜息をつく。
「――それでは!?」
「ああ、お前が言うとおりアルセイドへ早馬を送りハルス村の受け入れを指示するとしよう」
「ありがとうございます」
「アルスよ」
「はい?」
「少しは吹っ切れたようだな?」
「そうですか?」
アルセス辺境伯の言葉に俺は苦笑いで返した。
「――それと」
「まだあるのか?」
「はい。実は、作戦内容にどうしても付け加えたいものがありまして」
「付け加えたいもの?」
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