第162話
俺は、ジャイガルドの父親の言葉を聞きながら、何度も繰り返した時の中で、フィーナの妹であるレイリアを助けるために村人が助けてくれたことを思い出す。
その時に感じたのは、村人を助けるために力を貸してくれる。
そんな村人――、住んでいる人たちの気持ちで。
そんな人たちに俺は――。
否、俺達は自分たちの考えや思い込みを優先して軍事行動をしていた。
村を本当の意味で生活の場として支えてくれているのは、村人たちであったのに……。
そんな村人の思いを無視して行動をしていた。
それは、この世界の常識を持つ領主という立場からなら問題はないのだろう。
何故なら、領主というのは領地と民を守るのが仕事なのだから。
多少の秘密くらいは問題ないのだろう。
――だけど……、俺は日本人の日本人としての知識と経験を持って転生してきた人間だ。
だから……。
「アルス?」
「坊主?」
二人が心配そうな表情で俺を見てくる。
本当に、彼らが望むことを伝えていいのか?
それは間違っていないのか?
自問自答を繰り返すが答えは出ない、答えは出ないが――。
ひとつだけ言えることがある。
――それは、この村の主役は彼ら村人であると言うことだ。
「――これから伝えることは、非常に重要なことです」
「坊主……」
俺は、領内に魔王が封じられていること。
そして皮袋に関しては、兵士が使うことを説明していく。
話が進むにつれてジャイガルドと、彼の父親の表情が強張っていくが、話が終わったあとに大きな溜息をつくと「そうか……」と、俺の頭の上に大きな手をのせてきた。
「――それで、俺達は皮袋だけを用意すればいいのか?」
「はい、あと出来れば作戦決行前には、村から一旦、離れていてください」
「それは村を捨てるってことか?」
「いえ――。一旦、避難して頂くということです。アルセス辺境伯の首都アルセイドで受け入れてもらえるように僕から説明しておきますので……」
「坊主、本当に大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「無理に聞き出そうとした俺が悪いんだが、坊主がアルセス辺境伯様の指示に楯突いて大丈夫なのか? ということだ」
「問題ありません」
俺は頭を左右に振ってジャイガルドの父親の言葉を否定する。
「そもそも、ここの領地の主役は、ここの住まう僕の両親と村人の皆なのですから」
「そうか……。よし! 今度から俺のことはジレンと呼べ」
「ジレン?」
「ああ、坊主がアドリアン様の跡を継ぐなら、この村も安泰ってもんだ!」
ジレンは俺の背中を少し強めに叩いてくる。
「それじゃ明日までには2000人分の皮袋を用意しておいてやる。村人総出でな!」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げる。
そんな俺にジレンが「自分の村を守るために行動するんだ。頭を下げる必要なんて無い」と、声をかけてきた。
「アルス、君は自分が何をしたのか理解しているのかな?」
俺は村人に皮袋の用意を依頼した1時間後に、アルセス辺境伯軍の陣地に呼び出されていた。
そして、現在はアルセス辺境伯に詰問されているところである。
「――分かっています」
「――なら!」
俺の答えにアルセス辺境伯がテーブルを叩くようにして大声で怒鳴ってくる。
たしかに、アルセス辺境伯の言い分だって分かるつもりだ。
伊達に社会人をしていた訳ではないのだから。
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