第149話

「分かりました。それでは――」

「そうそう、アルス君のサポートをしてくれるのは可愛らしい女の子よ?」

「――ッ!」


 彼女の言葉に、自然の自分の顔が強張るのが分かった。


「どうかしたの?」

「……それって――」


 俺の問いかけにアリサが頷きながら「フィーナさんだったかしら?」と、答えてきた。


「何か問題でもあったの?」

「――いえ、少しすれ違いがあって……」

「それって、アルス君が死に戻りしていることに関係するのかしら?」


 彼女の言葉に、俺は隠す必要もないと思い「はい……」と素直に答えながら頷く。

 するとアリサが困った表情を俺に見せてくる。


「それは、軍事行動に支障を来たす恐れがあるわね」

「そうですか?」

「そうよ、君や自分の感情と仕事を切り分けて行動が出来る大人だと、不仲であっても問題はないかもしれないけど、フィーナさんは正真正銘の子供で――、まだ10歳にも満たないのでしょう?」


 アリサの言いたいことが、何となく理解できた。

 たしかに子供は自分の喜怒哀楽を重視して動くことが多々存在する。

 フィーナは、山の中に設置する投石器をアイテムボックスで運搬する役割を担っているし、俺は魔王を倒すための作戦指揮の作戦を組み立てている。

 その二人が不仲なのは、軍事作戦上好ましくはないだろう。


「――そうですね……」


 俺はアリサの言葉を聞きながらもフィーナとの仲直りに関しては、気が乗らない。

 そんな俺の様子を見越したのかアリサが「別に彼女も魔王討伐に関しての軍事行動の中核を担っているのだから、死に戻りしている事実を口止めさえしてくれれば教えてもいいのよ?」と、語りかけてきた。


「それは……」


 俺は続く言葉を紡ぐことが出来ない。

 何故なら、フィーナの妹が居たことを知ったのは彼女を――、フィーナを俺の身勝手な行動で殺してしまった生き返りの周回だからだ。

 フィーナを説得しようとすれば現実感のある説明が必要になってくる。

 そうすれば、おのずと俺が村を見捨ててフィーナを利用していた事実まで行き着く。

 そんなことになれば、不仲では済まなくなる可能性の方が非常に高い。

  

「リスクが高すぎます。彼女に――、フィーナに説明して納得してもらうよりかは、現状のままの方がいいと判断できます」

「そうかしら? アルス君が教えてくれた内容なら、あの子に教えても問題ないと思うのだけれど?」


 彼女の言葉に俺は頭を振る。

 

「それなら仕方ないわね――。アルス君が死に戻りで誰もが知らない情報を知っていることは私の方から彼女に説明しておくわね。あの年頃の子供だと何をするか分からないから――」

「わかりました」


 俺は彼女の提案に頷く。

 アリサを含めたアルセス辺境伯には――、両親にも俺が死に戻りをして何を体験してきたのかを全て話してはいない。

 

 不完全な情報でフィーナを説得してくれるなら――、それで彼女が納得して不仲が解消できるなら、人任せではあるが最善策であると言えるだろう。


 話が一区切りついたところで、アリサが「――アルス君。あまり隠し事をしていると誰にも信用してもらえなくなるわよ? それじゃ、フィーナさんを説得したら、また戻ってくるからね」と、言い残し大岩から降りるとアリサは川を渡っていった。




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