第148話
俺は、アリサの言葉に内心首を傾げる。
この世界の宗教団体がどういう扱いかは知らないが、聖書に書かれている偉人と言うことは、教会関係者なのだろう。
その者が何をしたのか俺には分からないが――。
「その表情を見る限り知らないみたいね?」
「そうですね。僕は基本的に無宗教ですので――、それに……、そういう初代とか最強とか、時の権力者が自分達の力を誇示するために飾り立てすることが往々にしてありますから――」
「無宗教――? 無宗教って何?」
「神を信じない人ってことでしょうか? もしくは精霊信仰とか――」
「神を信じない? 実際、奇跡の……、怪我を治す魔法が使える神官もいるのよ? 神様を信じないというのは、私には理解できないわ」
「――でしょうね」
俺はアリサの言葉に肩を竦めながら答える。
そもそも、この世界は魔法という超常現象が存在する世界であって――、地球みたく魔法が存在しない世界ではない。
魔法が存在する世界だからこそ神という神秘的な存在が身近に感じられるのだろう。
だからこそ、神という存在を信じないという選択肢は存在しないのだろうな。
――それに……、もし、その神様っていうのが存在していたら……。
俺は、何故? こんな境遇に遭わせたのかと問い詰める。
「それにしても、精霊信仰なんてアルス君は、ずいぶんと難しいことを知っているのね?」
「そうですか?」
アリサは、俺の言葉に頷くと、俺の頭の上に手を置いて撫でてくる。
「精霊信仰は、全ての物質に神様が宿ると言われていた神代文明時代に信仰されていたものなのよ?」
「――神代文明?」
「ええ、1万年以上前に存在していた文明のことを、そう言っているのよね」
「……1万年前?」
彼女の言葉に一瞬だが引っかかりを覚えた。
何かを忘れているような気がするのだ。
大切な何かを――。
「アルス君? 大丈夫?」
彼女――、アリサの言葉に俺はハッとする。
周囲を見渡しても、あの時の光景は存在してなくて――、あの時? 俺は何を……、言って――。
「アルス君?」
「大丈夫です……」
「それよりも、アルセス辺境伯軍の魔法師団の団長がこんなところに来ていてもいいんですか?」
「大丈夫よ、だってアルセス辺境伯様からの命令だから」
「アルセス辺境伯様からの?」
「そう――、投石器って言ったかしら? あれを設置したいのだけども森の中を自由に歩けるのはアルス君だけみたいだから」
「それは、どういう――」
「ハッキリとは分からないんだけどね、以前に魔王城まで誰も辿り着けなかったでしょう?」
「……そういえば――」
彼女の言葉に俺は納得する。
以前にも、俺以外の人間が魔王城に向かったが、その都度、森の外に出てきたということがあった。
それと同じことが、魔王城が存在する森の周辺では起きているのだろう。
「それで、アルセス辺境伯様からアルス君への命令なのよね」
「つまり投石器の設置場所まで、物資輸送兵を連れていけばいいということですか?」
「そうなるわね」
彼女の言葉に俺は首肯する。
別に一人何もしていないと余計なことを考えてしまう。
それなら、少しでも体を動かしておいたほうがいいだろう。
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