第123話

 まぁ、母親が何とかしてくれるなら、それに越したことはない。

 ただ、あのアルセス辺境伯が――アリサを使ってまで魔法で寝かせた男が、時間に遅れた原因である母親を許すとは、とても思えない。

 そう考えてしまうと俺としては母親には、アルセス辺境伯と会ってもらいたくないんだが……。


「久しいな、ライラ。健勝であるか?」


 考えこんでいると俺は何時の間にか持ち運びされていたようで、軍が陣地を展開している広場の前でアルセス辺境伯と出会ってしまった。


「はい、今回はシューバッハ騎士爵領の問題にご尽力くださりありがとうございます」


 母親は、俺を両脇から抱き上げたまま、頭を下げた。

 目上の貴族相手にずいぶんな挨拶の仕方である。


「よいよい。それよりも災難であったな?」

「いえ、息子が頑張ってくれていますので……」

「ふむ……」


 どうやら、母親とアルセス辺境伯は知り合いらしい。

 それも相当な……。


「アルスよ、今回はライラに免じて遅れたことは不問に致すが次回から気をつけるのだぞ?」

「……はい」

「息子を苛めないでください! アルセスさんは、それだから奥さんに逃げられるのですよ!」

「――ちょっと待て!」


 アルセス辺境伯が、母親の言葉に取り乱す。

 どうやら、アルセス辺境伯にも弱点がある模様。

 これはチャンス。

 辺境伯をゆするネタになりそうだ。


「アルス、良い事教えてあげるわね。シューバッハ騎士爵家の先代当主――私のお父様の妹は、アルセス辺境伯から求婚を受けていたのよ? でも、色々とあって愛想を尽かして王都の法衣貴族に嫁いでしまったのよ」


 俺は色々の部分に興味を持った。

 貴族同士の求婚は、家同士の結婚であり、そう簡単に破棄できるものではない。

 なのに、他の貴族に嫁ぐということは、社交界で他の貴族が納得する理由が必要なはず。


「お母さん、色々というのは?」

「分かった! 分かったから!」


 アルセス辺境伯が慌てて俺と母親との会話を中断させようと言葉を紡いできた。

 そんなアルセス辺境伯を、母親は微笑みながら見た後「ね? 遅れても大丈夫だったでしょう?」と、俺に語りかけてきた。


 どうやら、シューバッハ騎士爵家は色々と謎が多いようだ。


 

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