第118話

 それにしても、学校の先生が粉塵爆発と似た炭塵爆発を教えてくれていた事は感謝だ。

 炭塵爆発というのは細かな石炭が一定以上の濃度として大気中に含まれた場合、火花やタバコなどで容易に着火し爆発する。

 それは小麦を主成分として使った粉塵爆発よりも威力が高いことだ。


「アルスよ、お前の英知。一体、誰に習ったか私は非常に興味があるぞ?」


 アルセス辺境伯は、椅子に座った俺に語りかけてきたが、俺は久しぶりのプレゼンで疲れてしまい「そうですか」としか返事をすることができなかった。


 それから必要な石炭が集まったのは翌日の朝。

 すぐに軍を編成しアルセス辺境伯の首都アルセイドを俺達を含む軍が出立したのは、翌日の夕方であった。




 アルセス辺境伯領の首都アルセイドを軍がシューバッハ騎士爵領に向けて出立してからすでに10日が経過していた。

 思ったよりも移動に時間が掛かっていたことに苛立ちを募らせながらも、父親の領地が見えてきたことに内心、ホッとしていた。


「お父さん、ようやく戻ってきました」


 いま、俺は父親が手綱を握っている馬に乗っている。

 俺が前に乗り、後ろから父親が手綱を操作するといった具合だ。

 だから、俺が父親に語りかけるときは、後ろを振り向いて話しかけるくらいしか、その表情を見ることはできない。

 

 俺の言葉に、父親は疲れたように「そう……だな……」と、言葉を返してきた。


 そういえば、首都アルセイドを出てからというもの父親は連日、アルセス辺境伯から呼び出しを受けていた。

 父親が帰ってきた時間を俺は知らない。

 何故なら、起きていようとしても体は子供なので、抗うことが出来ない睡魔が襲ってくるのだ。

 日没と同時に瞼が下がってきて、がんばっても日を跨ぐ事はできない。

 子供の体というものは不便なものだ。


「ずいぶんとお疲れに見えますが?」

「……そう、見えるか?」

「はい、かなり……」


 俺の言葉に父親は頷くと、話し始める。

 どうやら、俺には軍議の内容を伝えてもいいと言うことになっているらしく――。


 曰く、千人の兵士が野営できる場所を父親と話し合っていたらしい。

 千人が休む場所と言ったら、かなりの広さが必要になる。

 たしかに一日、二日では決められるものではないだろう。


 一日目にアルセス辺境伯が魔王討伐に連れてきた兵士は200人程だった。

 今回は、その5倍。

 とても、前回と同じように川沿いの人場だけでは場所は足りないだろう。


「お父さんも大変ですね」

「そうだな……。それにしても、アルスはずいぶんと大人びた口調で話すようになったな?」「はい。何度も同じときを繰り返していれば中身も、それなりに成熟して参りますので……」

「そうか……。これは早く引退できるかも知れないな……」


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