第115話

 ただ、無理とは言えない。

 必要な小麦の量を、青銅器時代の人間がこなせるかと言えば……難しいだろう。

 この世界の数学がどこまで進んでいるかわからない以上、安易に計算をされて小麦の量が足りないと困ってしまう。

 それなら俺が計算したほうが確実だ。


「わかりました」


 空間を可燃性の物質が占める割合の量など大まかな概算でしか計算はできないが、足りなければ多く量を見積もればいいのだ。

 今回は、家や建造物を作る際の見積もりを作る場合とは違う。

 だったら大目に計算すればいい。


 幸いデータは揃っている。

 魔王城の大きさは、何度も物品を持ち出したことで細部まで覚えているし、先ほどの馬小屋からの大きさからも計算が可能だ。

 

一人で考察していると、アルセス辺境伯は椅子から立ち上がっていた。


「うむ、それはアルスよ、明日までに必要量を算出しておくように。アリサ、リンデールよ、お前たちは、シューバッハ騎士爵領までの遠征準備を軍に伝達しておくように」

「はい!」

「かしこまりました」


 アルセス辺境伯の命令に、二人は部屋から出ていこうとする。

 俺は思わず「お待ちください!」と二人の退出を遮った。


「どうしたのだ?」

「差し出がましいことになると思いますが――」

「今更だろう? さっさと言え」

「はい。まずは、必要な小麦の量は、すぐに求めることができます」

「ほう? どういうことか聞こうか?」


 アルセス辺境伯は、俺の言葉に興味を持ってくれたのか再度、椅子に下ろすとアリサやリンデールに視線を送ると、二人も椅子に座った。


「何か書くもの用意して頂けませんか?」

「ふむ――、ならばこれを使うがよい」


 アルセス辺境伯が俺に手渡してきたのは石炭とパピルスのようなモノであった。

 てっきり羊皮紙を渡されるものだとばかり思っていただけに驚く。

 俺は渡されたパピルスに石炭で二つの絵――、つまり城と馬小屋を記していく。


「ほう? この絵がずいぶんと……前衛的ではあるが……コホン! 馬小屋か?」

「はい……絵の才能が無くてすいません……」

「よいよい、少しは安心したくらいだ」


 取り繕うようにアルセス辺境伯が俺の肩を軽く叩いてフォローしてくるが、そういうのは正直やめてほしい。

 余計に傷つくから!


「ふむ。それで、その隣が馬の水やりに使う桶か?」

「いえ……、魔王城のつもりです」

「「「「……」」」」


 俺の言葉に全員が無言になる。

 とても居た堪れない雰囲気――。


「あ、あれだ!? シュ……シューバッハ騎士爵の息子! あれだ! 絵は描いていれば上手くなるものだ! 良かったら俺がパトロンをしている絵描きでも紹介するか?」

「いいえ……」


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