第40話

 どうやら、アリサ先生は、魔法の詠唱に対して並々ならぬこだわりがあるらしい。


「私の詠唱の後に続いて復唱して!」

「はい」


 もう、どうにもなれ。

 半ば現状を投げ出していると。「氷の精霊よ! 万物を凍てつかせよ! 世界を氷に閉ざし生きとし生ける全ての物の活動を止めよ! アイスアロー!」と叫び3本の氷で出来た矢を生み出すと川に向かって射ち出し魚を串刺しにしていた。

 

「もしかして……、獲物が逃げた場合、追いかけたりするんですか?」

「そうよ! すごいわね! 何人もの魔法師見習いに教えてきたけど、見破ったのはアルスが初めてよ?」

「そうですか……」

「それじゃ、やってみて!」


 俺はアリサ先生の言葉に頷き詠唱を行い「アイスアロー!」と叫ぶ。

 そして――。




 ――一週間後。


「アイスアロー!」


 川へ向かって魔法詠唱をしたあと、魔法の言葉を紡ぐ。


「はぁはぁはぁはぁ――」

 

 魔法が……まったく発動しない。

 最底辺の最弱の魔法なのに――。

 魔法を習ってから一週間――。

 最初は、アリサも仕方ないと言っていた。

 2日目、3日目になると流石におかしいとアリサも思い始める。

 そして昨日は、魔法指南書で再度、魔力があるのかどうかを確認したのだ。

 その結果は……。

 魔力がないと出た。


「アルス、もう諦めましょう」

 

 朝から練習していた俺にアリサが、やさしく語り掛けてきた。

 

「……で、でも!」

「アルスの気持ちは分かるけど……、最初から魔法が発動しなかったのは……たぶん、アルスに魔力がなかったからだと思う」

「……違うのです、アリサ先生が……僕に魔法を教えに来てくれて、その僕が魔法を使えなくて……杖だって……」


 辺境伯が態々、杖をアリサに渡して俺に授けてくれたというのに。

 魔法の才能がないと分かったら落胆するに違いない。

 両親だって、辺境の地を開拓するのに魔法が有効だと喜んでいたのに、俺には魔法を使う才能が無いと伝えたら、どれだけ悲しむだろう。


「……両親に会わせる顔がない――」

「大丈夫よ! 魔法の才能の有無で、子供の価値を決めるようなご両親ではないから!」


 言われなくても分かっている。

 でも、それでも……。


「……少し一人にしてください」


 俺の言葉に、アリサはしばらく無言で俺を見ていた。

 でも俺が座り込んだまま、頭を上げないでいると「夜遅くなるまでに戻りなさい」と言って去っていった。


 彼女が去ったのを確認すると、俺は川原近くの岩の上に上がると横になった。

 もうすぐ冬の到来が近い。

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