第35話
「明日から、がんばりましょう!」
「はい。今日は魔法を失敗しましたけど! 明日からは頑張ります!」
「その意気よ! さあ、帰りましょう!」
俺とアリサ先生は、手を繋いでそのまま帰路についた。
家に帰ったあと、シューバッハ騎士爵邸を含めて村全体が大きく揺れ、アリサも母親もすごく動揺し父親は、騎士爵邸から出て村へとむかった。
そして夕飯時に父親は、「村では、幸い誰も怪我人は居なかった」と安心した表情で俺達に教えてくれたが、地震を体感したのは、俺以外は初めてだったらしく、中には恐怖から「おのれ! 勇者めえええ」という幻聴が聞こえた人もいたとかいないとか……。
やはりパニックは危険だな。
普段からの防災訓練は必要かもしれない。
俺が領主になったら、そのへんも考えないといけないな。
その頃――。
アルセス辺境伯領。
都市アルセイドの辺境伯低にフレベルト王国の王宮から早馬が到着していた。
「ア、アルセス辺境伯様、フレベルト王国王宮からの早馬が――」
アルセス辺境伯邸は、部屋数200を超える巨大な城である。
その執務室に、アルセス辺境伯領の兵士が数度のノック後、入室してくる。
アルセス辺境伯の年齢はすでに50歳に達している。
髪には白髪が混じっていて、確かな齢を刻んできた皺が、その顔にはあった。
「王宮からの早馬だと?」
「ハッ! こちらが――」
兵士は主であるアルセス辺境伯の前で跪く。
そして、謝罪しながら王宮から早馬で届けられた封書をアルセス辺境伯へと差し出した。
「これは!?」
手紙を見たアルセス辺境伯は、眼を見開く。
そこに書かれていた内容が、あまりにも現実離れした物であったからだ。
「至急! 兵士を招集させろ!」
「一体、どうしたのですか?」
「フレベルト王国の王宮からシューバッハ騎士爵領内に封印された魔王が居ると報告があったのだ。周期的に魔王が復活するまで2日も時間がない!」
「そんな……それでは……ですが……、シューバッハ騎士爵領までは馬でも最低一週間は――」
兵士の悲痛な叫びにアルセス辺境伯は苦虫を潰した表情で窓の外を見上げる。
「せっかく魔法が使える子息に恵まれたというのにな……」
アルセス辺境伯の悲嘆に暮れた声が室内に響き渡っていた。
シューバッハ騎士爵邸の朝は早い。
まず、朝は早く起きなくてはならない。
理由は簡単だ。
シューバッハ騎士爵邸には、客室がないからだ。
居間で寝ている俺とアリサは、簡単に言うなら騎士爵邸の共有スペースで寝ていることになる。
そして居間というのは、朝食を食べる場所にも使われる。
さらに言えば、この世界には炊飯器や電子レンジなどの調理技術が存在しない。
全て薪で賄われる。
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