第16話

 俺は、つい熱くなって語ってしまった。

 ハッ! と気がついたときには、アリサ先生は俯いたまま、肩を震わせていた。

 これは、言い過ぎたのかもしれない。

 彼女居ない暦47年。

 その弊害が、こんなところに出てくるとは……。

 こんなことなら、もっと女性の勉強をしておくべきだった。


「あ、あの……アリサ先生?」

「……アルス様……アルス?」

「は、はい?」

「本当に、私なんかでいいの?」


 ふむ……。

 そりゃ、魔法を教えてくれるのは彼女しかいないからな……。

 彼女以外に適任なんていないだろう。


「もちろんです! アリサ先生でないとダメです! 僕には、アリサ先生しかいない!」

「……アルスは、待っていてくれる?」

「――?」


 何を待つのだろうか?

 魔法の修行を待つのだろうか?

 それはいくらなんでも……。


「待てません! 今すぐにでも!」

「待って! まずはアルスが成人してからじゃないとダメだから!」


 彼女が何を言っているのか俺には一切、理解が出来ない。

 やはり異世界だけはある。

 俺の知らない話が彼女の中で展開されているのだろう。

 もう少し、目的語を語ってほしいものだ。

 まぁ、とりあえず話を合わせておくとするか。


「分かりました、待っています」

「……分かったわ、でも浮気はダメよ?」


 浮気? 彼女は何を言っているのだろうか?

 魔法に対しての浮気か?

 もしくは魔法にも流派があったりするのか?

 やはり、引きこもりだったアルスの知識だけでは、この世界の常識がいまいち理解しきれないな。




 アルスの知識が通じない話。

 まぁ、俺の中に融合したアルスの知識なんて引きこもりだったこともあり大して役に立たない。

 それでも、俺は彼女が言った浮気という言葉を考える。

 

 5歳までしか人生経験がない役に立たないアルスであったとしても、俺には、ライトノベルという伝家の宝刀で得た膨大な知識がある。

 

 47年イコール彼女が居ない歴だった俺でも、得た知識には少しくらい偏りはあるかも知れないが、多くの英知が蓄えられたインターネットを見続けてきた俺だからこそ! 分かることだってあるのではないだろか?


 そう! 俺は、20歳にも満たない姿をした女の子でもあるアリサ先生よりも倍以上は、人生経験があるのだ。

 その俺が答えられない答えなどない!


 ――否! 


 答えられない答えがあってはならない!


 俺は年長者であるプライドをかけて頭の中で、高速演算を行う。


 それは、まさしくガダルカナルにおける日本海軍総指揮官のごとく、窮地に立たされた男としてだ!


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