第12話
まぁ、貴族同士なのだから、嘘などを言ったら大変なことになるのは目に見えているので、そんなバカな真似にはならないと思うが……。
「本当に、魔法が使えるのかな……」
魔力があると判定されてから3週間近くも魔法が発動する様子が一度もない俺としては、自分自身、本当に魔法が使えるのか? という疑問が湧き上がってきてしまっている。
「まぁ、使えなければ使えなくても問題ないけど……」
俺は、青銅製の鍋に川から水を汲んで家に帰る途中で一人呟く。
しかし、ゲームも何も無いから、そろそろパソコン禁断症状が出始めてきてやばい。
もともと独身貴族だったから、別に異世界に転生してきても問題ないと思っていたが、これほど、パソコンが無いことが苦痛だとは思わなかった。
「パソコンがほしい……」
心の奥底から切実に願った。
あとはネットに繋がる回線とか……。
少し現実逃避しながら、水を入れた鍋を持ったまま両脇が草むらの道を歩いていると突然、一人の綺麗なお姉さんが茂みから飛び出してきた。
「――あっ!?」
思わず声を上げた。
――だけど……、考え事をしていた俺は、咄嗟によけることが出来ずぶつかってしまい、青銅製の鍋に入っていた水を女性に掛けてしまっていた。
「あぶない!」
女性は叫ぶと俺を抱き上げて跳躍した。
すると、さっきまで俺と女性が立っていた場所に2メートル近くの熊が姿を現し、頭上を見上げると大きく吼えている。
「しつこいわね」
「あ、あの……」
事態がまったく理解できない。
簡単に説明するのなら、川まで水を汲みに行っていたら途中で綺麗な女性と出会って液体を女性の身体にかけたら、抱きつかれて熊が出たという感じだろうか?
ふむ……。
まったく分からないな。
「ウィンド・カッター!」
女性は俺を片手で抱き上げたまま、無数の言語を呟いたと思ったら魔法を放ち、それと同時に熊は、その巨体を真っ二つに切り裂かれて絶命したと思う……。
地面に下ろされた俺は、熊の死骸をもろに見て吐いた。
日本人である俺には、堪えられるレベルの物ではない。
頭の中に埋め尽くされていくのは、嫌悪感とよく分からない苛立ちと恐怖――。
「僕、大丈夫?」
女性は心配した表情で俺に話かけてくる。
「大丈夫……です……」
「そう? 顔色真っ青よ?」
「問題ないです」
一通り吐き終わったこともあり、少し気分は落ち着いていた。
「本当に?」
女性は、本当に心配しているのか手を伸ばしてくる。
その手を俺は、咄嗟に振り払ってしまっていた。
「……あっ――」
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