伝説魔術師は見つけられない
くりまん
プロローグ
そこは古本屋の様だった。
狭い空間の中に本が詰まってあり、本の山がまるで柱の様に上まで続いており本がこの建物を支えている様だった。
カランカラン
男は本の谷を進んでゆき、抜けるとそこには先ほどの谷は無くなっており、中流階級の家の応接間の様なつくりの部屋が現れてきた。
部屋の真ん中にある机には『期間限定』と書かれたスナック菓子や一口チョコが皿の上にのっており、皿の横には紙コップと飲食店で見かける呼び出しボタン、そしてメモがあった。
『ボタンを押して待っている間、ドア横にある飲み物をお飲み下さい。』
ドアに視線を向けると、その横にはドリンクサーバーが2つ設置してあった。中の色を見ると橙色と緑。オレンジジュースとお茶だろうか。
なぜこの2つなんだ、と思いつつも男は紙コップの中にオレンジジュースを入れ、喉に流し込んだ。
予想外に美味しく、3杯目を飲もうとソファから立ち上がった瞬間、高校生くらいの少年が奥から出てきた。
「いらっしゃいませ。どんな願いをご希望で?」
見た目はごく普通の少年。違和感を感じたのは目だった。
笑っていない。というより疲れているのだ、と気づいた。が、彼には仕事をしてもらわないと。
少し申し訳ない気持ちになりながらも仕事してもらう為、男は口を開いた。
「何でも、叶えられますか?」
「勿論ですとも。私はどんな願いでも叶えます。」
「だったら、私はお金が欲しい。一生遊んで暮らせるほどの大金が欲しい、のですが。」
「ええ、できますとも。お金持ちになりたい、ですね。どのような形で、どうお金持ちになりたいですか?
例えば、宝くじに当たって大金を得るのか、今働いている会社で活躍し、社会的成功によって経済的に豊かになるのか等です。」
「そんな所まで選べるんですか。2つ目の方だと願い事を2つ叶えてもらってる様に聞こえるのですが。」
「ふふ。確かにそうですね。ですが構いません。どんな願いでも、幾らでも叶えますよ。」
「ただし次はありません。機会は二度と無いです。」
一瞬、後者も良いかなと考えたがすぐに止めた。これ以上、働きたく無い。労働の苦しみから逃れたくて、自分は今ここにいるんだ。
「…じゃあ、宝くじの方で。わざわざ働かなくても大金が手に入るのなら働かずに済む方が良いかな。」
少年は男の希望を聞くと、にこりと笑い
「分かりました、その様に。」
そう言って再びドアの向こうにある部屋に入った。
数十秒後、戻ってきた彼の手のひらの上には小洒落たブレスレットが。
「このブレスレットを常に身につけていて下さい。身につけている限りあなたの願いは叶えられます。」
やっぱりここもこういう事か、と落胆しながら男は少年のご利用ありがとうございます、の言葉に反応する事なく店を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
27回目。失敗。
「あの人と恋人になりたい。」
「サッカー選手として有名になりたい!」
「この病気を治して欲してくれ!」
「若返りたいの!」
「妻を生き返らせてくれ!!」
「不老不死になりたいんだ!!!」
32、33、34、35、36、37回目失敗。
どこだ、何処だ、ドコだ。
これだけ探したのに見つからない。
本当に、見つかるだろうか。
「師匠……」
ドコに。
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