第24話【母と俺達5】

「おーい、一姫。

大丈夫か?」


俺は放心状態になっている一姫の前で手を振りながら声をかける。


「はっ!

え、あ、うん。

大丈夫だよ!

うん、大丈夫」


一姫がワタワタとしながら自分を落ち着けようと必死になっている。

ギャップ萌えってこういうことを言うのだろうか?


「母さんが無理やり話を進めた感じになって悪いな」


「ううん、そんなことないよ。

今はちょっと混乱してるけど多分、透くんのお母様に無理やりにでも話を進めて貰わなかったらうじうじと考えてなかなか話が進まなかったと思うからむしろ良かったと思ってるよ」


「そう言ってもらえると助かる。

最後の捲し立てはあれだったけど途中に言ってたことは本心だと思うからそこは信じてやって欲しい」


「うん、私のことを真剣に考えてくれていたことはちゃんとわかってる」


一姫は少し下を向き両手を胸元に当てて噛み締めながら答えてくれる。


「そっか。

あ、でも、もしやっぱりやめたいと思ったり言いたいことが出来たりしたら遠慮なく俺に言ってくれ。

俺から母さんにちゃんと伝えるから」


まあ、明日の朝には母さんがくるから寝るまでの数時間しか時間はないけど。


「うん、ありがとう。

でも大丈夫だよ」


「そういえば一姫に母さんの連絡先教えないとだな。

弁護士の人と話をするとか言ってたし。

ちょっと待ってな」


俺は机の上に置いていた携帯を手に取って素早く一姫宛のメールに母さんの連絡先を添付して送る。


「そういえばそんなことも言ってたような気がする?」


顎に人差し指をあて、ほんの少し首を傾げる。

この仕草をわざとやって可愛こぶってる輩は多くいるが一姫のは天然だろう。


「よし、送れた」


一姫が最後のマシンガントークについていけなかったのは仕方ないことだろうと思いながら送信ボタンを押した。


「うん。

届いたよ」


「明日の予定とか母さんに確認してくれ。

もし聞きにくいようなら俺から聞くけど」


「ううん、ありがとう。

そのぐらいは自分でするよ」


「了解」


一姫はそう言って携帯を弄り始める。

恐らく母さんにメールでも送っているのだろう。


「それにしても透くんのお母さん凄くいい人だね。

透くんとも仲良さそうだし」


そう言いながら一姫の視線は段々と下を向に声も小さくなっていく。


恐らく自分の両親のことを思い出したのだろう。


「どうした?

母さんと仲良くなれるか不安なのか?

大丈夫だって、母さん一姫のこと気に入ったみたいだし気軽に行きな」


俺はわざと的外れなことを言って話題を逸らす。


「そうですね。

あまり私が改まりすぎると透くんのお母さんにも気を使わせてしまいますよね。

あ、そういえば晩御飯の支度をしないといけないんでした!

すぐ準備しますね!」


一姫は空元気と直ぐに分かる明るい声と笑顔を俺に向ける。


「なあ、一姫」


「はい、どうかしましたか?」


俺が声をかけた事でソファーから立ち上がりキッチンに向かい歩き始めていた一姫が振り返る。


「話ぐらいはいつでも聞くからな」


話ぐらいとは言ったがそれは少し違う。

俺は一姫の話を聞くことしか出来ない。

だって俺は一姫の心の傷を全てわかってあげることが出来ないのだから、、、。


「·····。

はい、ありがとうございます」


一姫は俺の目を見つめながら少し間を置き、微笑みながらお礼をいい再びキッチンに向かって行った。

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