何でお前らがここ(現実)にいるんだよ!?大番外編
仁志隆生
第1話「シューヤとユカと、花屋の夫婦」
それは、世間の子供達が春休みに入っていた頃。
隆生は会社の同僚、
ぐーさん曰く、新郎新婦共に親戚が少ないものだから来れる人は皆来てほしい、少しでも賑やかにしたいからとか。
それで隆生はミカやユカ、ミル、シューヤにチャスタも一緒に連れてきた。
彼女達はぐーさん達と何度か会って、一緒に遊んでいたので。
それと優美子は音子とは大学の先輩後輩の間柄だったので、新婦側の友人として呼ばれていた。
そしてどうせならついでに観光しようとなり、次の日は各々行きたい場所へと別れて行動していた。
シューヤとユカは二人っきりで、古い住宅街の中を歩いていた。
寒さも和らいでいるので二人共春物の、当然この世界の服装である。
「隆生さんがね、以前この辺りに住んでいたんだって」
ユカが辺りを見ながらそう言うと
「へえ、偶然だな。目的地の近くだったなんて」
隆生は一時期、仕事の関係で大宮に住んでいた事があった。
彼はここを「第二の故郷」とも思っている。
「ここがそうなの?」
「そうだよ。ここが」
そこは小ぢんまりとしているが、ちょっとお洒落な雰囲気の花屋だった。
店先の看板は葉っぱの形をしていて「フラワーショップ リーフ」と書かれていた。
シューヤは以前、ここでユカへのクリスマスプレゼントを手に入れた。
「いらっしゃいませ~、って、あら? もしかしてあの時の~?」
店の奥から緑のエプロン、Gパン姿の女性店員が出てきたかと思うと、シューヤの顔を見てそう言った。
「は、はい。あの、覚えていてくれたのですか?」
シューヤが戸惑いながら尋ねると
「ええ。ついさっきね、夫とあなたの事を話してたんですよ~」
「え、おれの事を?」
「ええ、あなたがその後どうなったのかな~って。ふふ、どうやら上手くいったようですねえ~」
女性は笑みを浮かべ、ユカの胸元を見つめながら言う。
そこにはピンクの胡蝶蘭を象ったブローチがあった。
「そうだ。ねえあなた~、出てきて~」
女性が奥に向かって夫を呼ぶと
「どうした? って、君はあの時の?」
やや背の高い、柔らかい雰囲気の男性が奥から出てきた。
「は、はい。ってあれ、前にお会いしてました?」
シューヤが首を傾げる。
「あ、ごめんね。僕はあの時店の隅っこにいたんだ。だから直接顔を合わせてはいないよ」
男性が申し訳なさそうに手を振って答えた。
「そうでしたか。でも覚えていてくれて嬉しいです」
「……あれ?」
ユカが彼を見つめ、首を傾げる。
「ん? どうかした?」
シューヤが小声で尋ねる。
「ねえあの人、どことなく隆生さんに似てない?」
「あ、言われてみればそうだよな。雰囲気もだけど、目元なんかそっくりだ」
「え、ちょっと待って? 今『隆生』って言わなかった?」
どうやら聞こえてしまったようだ。
「え、はい。わたし達がお世話になってる人なんですけど、何か?」
ユカがそう言うと
「いやね、僕の従兄も隆生って言うんだよ。それで似てるって凄い偶然だと思ってさ」
「いえいえ、もしかするとその従兄さんかも~」
男性の後で女性がそんな事を言った。すると
「それは無いよ。だって隆生兄ちゃんは大阪に住んでるんだから」
すると
「え? えっと実はおれ達、その大阪から来たんですが」
シューヤが驚きながら言い
「え、そうだったの? 遠くても隣の市辺りだと思ってたよ」
男性も驚きながら言う。
「あれ、あの時ってたしか平日でしたよね~? それで大阪からで、あの時間帯なら、あれれ~?」
女性が意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あ、しまった」
シューヤが慌てて口を押さえると
「もしかして君、学校サボって来たのか?」
男性が強い口調で尋ねる。
「……はい」
シューヤは縮こまって俯いた。
ちなみに実際サボったのは学校ではなく、小姓の仕事である。
「あのさ、ここまで一人で来る事はともかくとしても、土日じゃダメだったの?」
「いえ、元々は土日にネットで知ったこっち方面の良いお店を片っ端から周ってたのですが、どこも不発で……どうしようかと歩いていた時に偶然ここを見つけたんですけど、そこまでに一週間程かかりました」
「そ、そんなに!?」
それを聞いた男性がまた驚き
「え、そうだったの!?」
ユカも驚いてシューヤを見つめていた。
「あれ、知らなかったのですか~?」
女性がユカを見つめながら尋ねると
「え、ええ。あの時って、風邪をこじらせて休んでいたと聞いてました」
ユカがやや詰まりながら言う。
「まあ、いいか悪いかは置いといて、そこまでしてでも彼女に良い物をあげたいと思ったんだね」
男性が今度は優しい口調で言うと
「ええ。どこのお店のも実際見ると何か違うと思って。最初ここの品物を見た時、『これだ!』って思いました」
シューヤは笑みを浮かべて言う。
「よかったです~。しかしここまでの交通費やその他もろもろも、バカにならなかったでしょ~?」
女性も笑みを浮かべて言うと
「ええ、貯金全部使っちゃいました。それといつ補導されるか不安でした」
「そうだよね、てか捜索願い出されなかったの?」
男性が不安気に尋ねる。
「両親にはしばらく隆生さんの所にいるって言ってましたが、最後にバレました」
実際は転移術でここまで来たので交通費の心配はなかったが、本当に自宅にも隆生の所にも帰らず、空き家や誰も来なさそうな倉庫の隅で夜を明かしていた。
見つけるまでは帰らない、と半ば意地になっていたようだ。
「それで、帰ったら怒られただろ?」
「怒られたというか、普段無愛想な父に思いっきり泣かれました。心配したんだぞって抱きしめられて」
それは事実である。
その時の事を思い出したのか、シューヤの目に涙が浮かんでいた。
「しかしすっごく愛されてますね~、彼女さん」
「そうだよね。そこまでする子はそうそういないと思うよ」
「……はい」
ユカは顔を真っ赤にして俯いていた。
「あ、そうだ。あなた達の隆生さんって、どんな人ですか~?」
「はい、写真ありますので見てください」
ユカはスマホに保存していた隆生の画像を見せた。
「へえ、格好いい人ですね~」
「どれどれ……これマジで僕の従兄だよ!」
男性がそれを見て驚きの声をあげた。
「え!?」
それを聞いたユカも驚き
「あ、そういえば従弟さんが埼玉にいるって聞いた事ありました。でもまさかこんな偶然出会えるなんて」
シューヤは男性を見つめながら言った。
「本当にそうだよね。ところで隆生兄ちゃんは元気?」
「今日は一緒に来てますよ。今は別行動してますが」
「そうだったのか。おのれあの従兄、来てるならこっちに顔出せよ」
「そうですよね~。そうだ、改めて自己紹介しますね~。私はここの店長をしてる
「あ、おれは
「
ユカはともかく、シューヤも日本名を名乗った。
というか、フルネームの「シューヤ・シジョウ」に漢字を当てただけだが。
「ところで今日は、どんな御用ですか~?」
美咲が接客モードのようなそうでないような口調で尋ねると
「あの、お揃いのアクセサリーがあればと思って来たんです」
シューヤがそう答えた。
「ふふふ、それならとっておきがありますけど、ちょっとお時間くださいね」
美咲は口元を押さえながら言う。
「は、はい。じゃあお店の邪魔にならないよう、散歩してきます」
「分かりました~。一時間位見て下さいね~」
シューヤとユカは店を出て、また住宅街の中を歩き出した。
「シューヤ」
「ん?」
「改めて、ありがとう」
ユカはそう言って笑みを浮かべた。
「はは。いいって」
「うん。ところでタケルには怒られなかったの? 仕事サボったんだし」
「ああ。タケル様は『見つかってよかったね』って、それだけ言って後は普段通りだった。ユカへのプレゼントだとは気づいてなかったけど、何か大事な物を探していた事は分かっていたってさ」
「……タケルって、なんで女心には鈍いのに他は鋭いの?」
「皆不思議がってるよそれ……さてと、何処行こうか?」
「神社に行こ。公園も近いから、桜が見れるかもしれないよ」
「ああ。さ」
「うん」
シューヤとユカは手を繋ぎ、神社の方へと歩いて行った。
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