十代の欲望と、恋する男たちの短編集
boly
第1話 男の子は何でできてる?
アンダーシャツを着ていないヤツの制服の背中を、毎時間のように後ろの席から眺めている。
居眠りしている時は丸く猫背。
かったるそうに、椅子を俺の机にくっつくまで目いっぱい後ろにやって、だらりと座っている時もある。
男子校ってこういうものなんだろうか。と思った。
去年は、入学して出席番号順に席が決まったら、1学期中ほぼそのまんまで席替えなんてなかった。
中学の頃はもちろん共学で、女子の中には、『今度の席替えで〇〇君と隣同士になれますように!』と、休み時間や掃除の時間に祈るようなそぶりで空を仰ぐ子もいた。
女の子は男の子が好きで、男は女に目がない。
そんなお楽しみは、両性が居て、そこに恋愛感情を持った男女がいるから存在するものであって、男ばかりの教室には――そりゃあないよな。
結局1年の時は、2学期の初めに誰かが先生に「黒板の字が見えにくいから」という理由で席替えを提案したら、担任も「じゃあ」みたいなノリで席替えして、3学期も1月の始業式の日にまるで「恒例のアレを」とでも言うように席替えをして、1年間で2回座席が変わった。
2年になって、初めて同じクラスになったヤツと俺は、同じ「加」から始まる苗字だったから、席は前後。もうすぐ1学期も半分終わる頃だけど、下手したら2学期もこのままの席順なんじゃないかと思うぐらい、担任も、クラスのヤツも、いよいよ誰も関心がなさそう。
先週、ヤツがいきなり、「天気がいいから中庭で昼飯食おうぜ」と言い出して、
芝生に寝っ転がって掌で太陽を隠しながら、
『男の子は何でできてる?』
と、歌でも歌うように突然口にした。
茶色く染めた髪と緑色の芝生。
太陽を隠す長い指。
「はぁ? 何だそれ」
「ぼろきれやカタツムリ、犬のしっぽ。そんなものでできてる」
ヤツの言葉はいよいよ理解の範疇を超えていて、俺は眉間にしわでも寄せてヤツの顔を眺めていたんだろう。
寝っ転がったまま、こっちを見ながらプッと噴き出して、
「マザーグースだよ。あの、ちょっと頭いかれてるような童謡」
ちょうどその時、予鈴が鳴って、ヤツが先に立ち上がり、さっき来た時と同じように教室まで並んで歩いて帰った。
『男の子は何でできてる?』
あれからちょっと気になって、マザーグースの本を探してみた。
「a little Boy(小さな男の子)」という歌にこんな一節があった。
小さな男の子が女の子に「あのね」と話しかける。
女の子が「なあに」と答えると、男の子は「君にキスしてあげたいんだ」と言う。
子供はいつだって大人の真似をしたがる生きもので、だから男の子は女の子に「キスしたい」っていうんだって――。
午後の授業は眠たくて、椅子を盛大に後ろに引いて、机に顔を伏せる。
白いシャツの真ん中に整然と浮き出たヤツの背骨を見上げながら、俺の中にいる小さい俺がヤツに「あのね」と話しかける。
お前の着ているシャツのボタンをもうあと2つ外して、自由にしてやりたい。
それで、俺はお前にキスしたいよ。
End
★お題「シャツ」(「家族」「シャツ」「君らしい」より一題使用)
マザーグースを引用して何か書いてみたいと以前から思っていました。
素敵なお題に引っ掛けて男子高校生で書きました。
♯一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負 2017年5月参加作
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